第425話 愛情は何で表現する?
『ではやりたい人から鈴木さんを攻めてください。制限時間は一分です。鈴木さんが音を上げるか、鈴木さんの息子が反応したら試合終了です』
僕の人生が試合終了しちゃうよ。
現在、僕は愛妻決めバトル大会という不毛なイベントの審査員として参加していた。迎えるのは最後の競技、“愛情”テストだ。
内容は至ってシンプル。ロリっ子どものうち誰かが僕をドキッとさせたら勝者は決まる。
このドキッというのは言葉の綾で、性的興奮も含まれるので注意していきたい。
ロリっ子たちに興奮しちゃったら目も当てられないよ。
『鈴木、絶対に興奮すんなよ。信じてるからな』
『したら幻滅じゃすみませんからね』
「......。」
魔族姉妹からもすごい圧を感じるし。
「よ、よし。スズキをドキッとさせればいいんだな」
「ルホスちゃん、このときのためにタフティスさんに色々と教わったことを実践しましょう!」
「「ふふ。男性の弱点は、ゼンリツセンを刺激されることと姉者に聞きました。余裕です」」
駄目だ。不安しか感じない。そんな要らん知識身につけなくていいのに。
僕はロリっ子どもに、えっちなことは禁止させて、さっさと終わらせることにした。
とりあえず対戦者たちは僕に仕掛けるということで、僕は審査員の席から移動することになった。中庭の何も無いところに立って待つことにする。
『まずはトップバッター、ルホスちゃんです!』
「よく考えたら、これ、一分間だけ好き放題できるってことじゃん」
駄目です。
そんな不安しか無いことをぼそりと呟いたルホスちゃんが、僕の下へやってきて両手を広げた。
「わ、我は今からスズキをぎゅっとする!」
なんて可愛らしい宣言なんだろう。
「う、うん。いいよ」
「そして我のアピールポイントは“鬼牙種”だ! す、スズキが以前、『鬼っ子可愛い』って言ってたし」
「へ?」
僕が間の抜けた声を漏らすと同時に、彼女は額に黒光りの尖った角を出現させた。それは鬼たらしめるほど鋭く長いものだ。
そんな彼女は可愛らしく、それでいてどこか恥ずかしそうに、顔を尋常じゃないほど真っ赤にしながら、両手それぞれにピースサインを作った。
「い、今からスズキに抱き着く......にゃん♡」
なぜ語尾が“にゃん”?????
そんな僕の疑問を他所に、ルホスちゃんはこちらへやってきた。
数メートル離れていたのに、鬼牙種の力のせいか、一瞬で僕との間合いを詰め、真正面から抱き着いてくる。
そして角が僕の腹に刺さる。
「っ?!!」
「あ」
『鈴木ぃぃぃいい!!!!』
自身の角が僕に突き刺さっていることに気付いた彼女は、なんとも言えない間の抜けた声を漏らした。
彼女は一歩下がって、ズボッと僕から自身の角を引っこ抜く。
すぐに妹者さんがスキルで怪我を治してくれた。
僕は笑顔でルホスちゃんを失格させた。
はい次ぃ!
『続いて、ウズメちゃんの番です!』
「が、頑張ります!」
ウズメちゃんは近くのベンチに腰掛け、自身の膝の上をぽんぽんと叩いた。こっちへ来いというのはわかったが......なんだろ。
彼女の方へと近寄った僕は、思ったことをそのまま聞いた。
「えっと、ウズメちゃんに跨がればいいの?」
「わ、私に跨ってどうするのですか。むしろ私が跨る側です」
その返しは女の子としてどうなの。
「私の膝の上に、スズキさんの頭を乗せてください」
「え?」
「に、二度も恥ずかしいこと言わせないでください!」
とのことなので、僕は彼女の隣で横になって、言われた通り、ウズメちゃんの足の上に頭を乗せた。
俗に言う、膝枕である。
そしてここに来て気づいてしまった。
「な、なんというむっちり感......」
「っ!!」
え、ちょ、え? ウズメちゃん、お肉が付いた? 奴隷だった頃、かなり痩せこけていたから心配だったけど、この感触はもう健康体そのものだ。
「むっちりエルフ......」
『おい、こいつ、なんか目覚めちゃいけない性癖に目覚めようとしてないか』
「よ、悦んでいただけたのなら何よりです......」
と、照れながら言うウズメちゃん。
彼女は眼下の僕の頭をそっと撫でて、照れくさそうに微笑を浮かべていた。
僕はそんな彼女を見上げて、またも気づいたことを口にしてしまう。
思わず手を差し伸ばして、ウズメちゃんのぷにっとした頬を指先で突きながら。
「綺麗になったね」
なんて何様な発言なんだろうか。
でも当初出会ったときの彼女の容姿を知る僕だからこそ、こうして間近で見つめると気付かされるものがある。
ウズメちゃん、将来、絶対に美人さんになるよ。
そんなことを思っていたら、ウズメちゃんが真っ赤になった頭からボシュンと湯気を出して倒れてしまった。
「ウズメちゃん?!!」
「あ、あひゅぅ」
『鈴木さんのそういう無意識でやっちゃうところ、本当に良くないと思います』
え、ええー。
ということで、順番は最後のインヨとヨウイへ回った。
彼女たちは二人一緒に挑戦するようで、揃って僕の前にやってきた。
「「マスター、手を出してください」」
「?」
とりあえず言われるがまま、僕は彼女たちの前に両手を差し出した。
すると途端、二人は僕の手を取って、自分たちの口の中に僕の指を突っ込んだ。
「?!?!?!」
「ん、れろ......先に言っておきますが」
「はむはむ。ふぉへは......ぷは、エッチな行為じゃありません」
いやいやいやいやいや!
僕は自身の指が、二人の少女の唾液でぬるぬるになっていくのを感じながら混乱する。
口内の温かいを通り越して、少し熱いくらいの唾液がべっとりと指先に絡みついてくる。
「だ、駄目だよ! 普通にアウトだよ?!」
「「ちゅぽ......どの辺りがですか??」」
「いや、どの辺りって......」
「ん......わたひたひふぁ」
「まふはーの......ちゅ」
「「ぷは......指を舐めているだけですよ??」」
ユビヲナメテイルダケ......。
それから僕は手から伝わってくる生々しくて瑞々しい感触を覚えた。舐められれば舐めれるほど、敏感になってしまう気がして仕方がない。
だからか、僕は膝をがっくしと折ってしまうのであった。
そんな僕を見下ろして、二人は妖艶な笑みを浮かべながら言う。
「マスター、どうしましたか?」
「ほら、立ってください。しゃぶりにくいです」
「......ません」
「「よく聞こえませんでした。もう一度、はっきりとお願いします」」
僕は意地の悪い笑みを浮かべる二人に、涙目になりながら言う。
「立てません!!」
『タっちまったのか......』
『ご主人......』
『ほんっと救いようの無い変態ですよ、あなたって人は......』
「「ヴィクトリーです!」」
第三競技の勝者は、インヨとヨウイのペアであった。
斯くして、全員一勝したせいか、終ぞ誰が優勝者か決まること無く、このイベントは終わりを迎えるのであった。
これ、絶対二回目あるよな......。
*****
「ザコ少年君」
「?」
もう日は沈んでしまったが、夕食の買い出しに行こうと玄関から出た僕は、そこで既に外に居たアーレスさんに声を掛けられて振り返る。
彼女は背を壁に預けていて、腕を組んでいた。玄関の灯りがそんな彼女を照らしている。
どうしたんだろ。
「これから買い物か?」
「ええ。ついでに何か買っておくものとかあります?」
「いや、特に無い」
「はぁ」
『んじゃなんだよ』
『まぁ、ちゃんと食後のデザートになりそうなものは買ってきますから、安心してください』
『すげぇ圧感じんな、この人』
僕に何の用だろ。
そう思った僕であったが、突如、アーレスさんが僕に詰め寄ってきて壁際へ追いやり、片手で僕の頭の横にある壁を叩いてきた。
「『『『っ?!』』』」
思わずびっくりしてしまった僕はこの状況を察する。
これ、アレだよな。壁ドン。
自分の心臓がドキドキと拍動しているのがわかる。無論、美女に迫られたから緊張した、とは違う。生命の危機を感じているのだ。
僕は何をしでかしたのだろうか。
しかしそんな僕の不安は、アーレスさんが空いているもう片方の手を、向かい合っている僕の手に重ねてきたことで、疑問へと変わる。
............何してんの?
「ふふ。これが男の手か......」
戸惑う僕を他所に、アーレスさんはどこか面白そうに微笑んだ。
アーレスさんが僕の手を握ってきたことにも驚きだが、その繋ぎ方もおかしくて、僕の五指の間それぞれに自身の指を通しているのだ。
ぎゅっと僕の手を握ってきて、彼女の手の温度が直に伝わってくる。
これではまるで恋人繋ぎのようではないか。
「あ、あの、アーレスさん?」
「なに、少し思い知らせてやろうと思ってな?」
「はい?」
全く理解が追いつかない僕に、彼女は銀色の瞳でじっと僕を見つめてきた。
その際、玄関の灯りで照らされる彼女の顔が、少し赤みがかっていることに気づく。
「私のことを散々言ってくれたな? やれ家事が出来ないだの、やれ職権濫用ばっかしてるだの」
「そ、それは事実――」
と僕が言い掛けてきたところで、アーレスさんが僕の首筋に自身の顔を寄せてきた。
距離が近すぎる上に、まるで果実を絞ったときに香る仄かな甘い香りが漂う。アーレスさんは香水を付ける人じゃないから、なんというか、優しい匂いって感じだ。
そしてアーレスさんの私服姿でしか見ることができない、たわわに実った双丘が、むにゅりと僕に押し付けられた。
もう何がなんだか訳がわからない......。
そんな状態で、彼女はぼそりと囁く。
「こんなだらしない女に、こうもあっさり昂っているようでは世話がないな」
「?!」
アーレスさんの吐息と共に耳元で囁かれた艶のある声を聞いて、僕は思わずビクビクっと身体を震わせてしまった。
必然と自分の顔が熱くなっていることを実感する。
そんな僕の反応に満足したのか、アーレスさんは微笑を浮かべながら、僕を放した。
「ふふ。お返しだ」
そう言い残し、彼女は家の中へと入っていった。
な、なんだったの......。
それに“お返し”って......。もしかして昼間のアレか、愛妻決めバトル大会で家事力云々を姉者さんたちに散々言われたから、ムキになったのかな。
そう思いながら、僕はアーレスさんの吐息が掛かった首筋を撫でる。
「あ、アーレスさんがあんな一面を見せる人とは思わなかった......」
『あーしもう嫌になってきた......ライバルばっかじゃん』
『チッ。年上ポジションは私だけでいいのに......』
『ご主人、鼻血垂れてんぞ』
僕は頭がボーッとするのを感じながら、買い物へ出かけるのであった。
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