第424話 信頼は積み重ねで
『続いて、第二競技は鈴木さんへの“信頼”を測るテストです』
という、司会進行役の姉者さんの言葉で、“愛妻決めバトル大会”という未だに理解できないイベントは続行した。
姉者さんに続いて、妹者さんが説明する。
『簡単な問題を出すから、それを回答しろってさ。ただ今回は回答の内容だけじゃなくて、回答するまでの時間も評価するみてぇーだ』
「ああ、本当に信頼しているなら即答できるでしょっていう証明になるからか」
『ええ。より良い答えを考えることよりも、信頼の証明とは、その場その時の行動で示されますから』
「はッ。スズキと一番長い付き合いなのは我だぞ」
「わ、私もスズキさんのことを心から信頼してますから」
「「おおー! 契約の垣根を越えてラブラブな私たちには余裕な競技ですね!」」
『尚、今回は第一競技と違って、審査員は鈴木一人だけだ。鈴木、全員の回答を聞いて、一番良い回答をしたと思った奴を指名しろ』
ということで、さっそく問題が出題される流れになった。
にしても、僕への信頼の厚さを測る競技か。これ、審査する側も難しいな。
どんな問題だろ?
例えば......そうだな。何かの戦闘時に、こちらへ押し寄せる敵勢力に対し、僕が格好良く「ここは僕に任せて先に行け!」的な発言をした際に、言われた側はどんな対応を取るか、とか見るのかな。
ふふ、いいね。一回は言ってみたい台詞だな。
心優しいウズメちゃんなら、「スズキさんを置いていけません!」とか言ってくれそうだ。
でも駄目だよ。これは僕への信頼を測る競技だ。一緒に残るなんて選択肢は、僕には任せられないと言っているようなものじゃないか。
その時は是非僕を置いて先に行ってほしい。格好つけたいときに、格好つけさせてくれ。
そんなことを考えていると、妹者さんが問題内容を言った。
『“家に帰ったら、鈴木が知らない女と同じベッドで寝ていました。二人とも全裸のままです。あなたはどうしますか?”』
なんちゅー問題出してんねん。
「「「「っ......」」」」
ロリっ子どもは絶句すんな。
さっきの意気込みはどこ行った。
が、一番先に口を開いたのは、ウズメちゃんだ。彼女は今にも泣きそうな顔つきで言う。
「わ、私は......まずはスズキさんの言い訳を聞きます。良き妻は夫の言い訳を聞いた上で話し合いますから......」
“言い訳”って言ってんじゃん。
そりゃあそんな現場を目撃したら、何してたかなんて想像つくよね。でも無実かもしれないよ。
次に回答したのはインヨとヨウイだ。
二人は瞳のハイライトを消し去って、虚ろな眼差しを僕に向けながら言う。
「「その女を殺して、マスターの四肢を切断し、以降の人生は私たちが管理します」」
怖ッ。こんなサイコパスを武具にしてたのか、僕は。
そして最後に、ルホスちゃんが、他の回答者たちより遅れて回答する。
ただその回答までは順番待ちというより、ルホスちゃんなりに考え込んでいたからか、少しだけ時間を要した。
回答時間も評価に入るのならば、その時点でルホスちゃんは他の子より評価が下がってしまう。
ルホスちゃんは不安げに、そしてどこか苦しそうに言う。
「わ、我は......嫌だな。そういうのを見たら嫌な気分になる......と思う」
それから彼女は俯いたまま続けた。
「でも逆に......だからこそ言えることがある。スズキは絶対にそんなことしない」
ルホスちゃんは真っ直ぐ僕を見つめてきた。
「誰かが嫌な気分になるかもしれないことを......しない奴だって知ってるから。絶対、何か我には想像できない事情があったはずだ」
そう彼女は断言するのであった。
その言葉はもはや彼女の決めつけに過ぎない。でもそれは僕という人となりを信じているからこそ、力強く言えることだ。
そんなルホスちゃんの言葉に、珍しくもヤマトさんが返した。
『事情......か。人間はころころと主張を変えるし、年がら年中発情する生き物だ。小僧がいろんな女と盛ってても何ら不思議じゃない』
「僕は盛りたくても盛れない童――」
『鈴木さんは黙っててください』
「......何が言いたい」
『お主の言う“事情があったから仕方ない”で済ませるのは、ある種の“逃げ”になるのではないか? それは“信頼”とは程遠いぞ』
「それは......そうかもしれない」
『はッ。なら、信頼ではないな』
そう吐き捨てるように言ったヤマトさんは、ぷいっとそっぽを向いて背を丸くしながら寝てしまった。どうやらもうこれ以上何か言う気は無いらしい。
ルホスちゃんは不安げに僕をじっと見つめてきて言う。
「スズキは......そんなことしない?」
「う、うーん。結局、僕が言えることは口約束程度に過ぎないけど、仮にその状況になったら、僕は焦っていると思う」
どう見てもギルティな状況だからね。絶対に「ヤッてただろ、こいつら」って思われてもおかしくない。
だからこそ、
「だからこそ......そういうときは、ルホスちゃんには冷静で居てほしいよ」
「我が?」
「だって僕を信頼してくれているから、感情的に物事を決めないんでしょ。人任せになるけど、僕が説明するまでどっしりと構えてくれていた方が安心するよ」
今更ながら、本当に面倒くさい問題出しやがったな、と思う。
まぁ、とどの詰まり、“信頼”は互いの常日頃のコミュニケーションで積み上げていくもんなんだ。
僕にしろ、ルホスちゃんなど他の人にしろ、その場その時にお互いどうしたらいいのか、なんて誰にもわかりはしない。ならお互い納得するような結果を模索するだけである。
そう思う僕は、第二競技の勝者をルホスちゃんにするのであった。
******
『ではラスト、第三競技です』
「おい、待て。なぜ第三競技をやるんだ」
「そ、そうですよ。私とルホスちゃんが三戦二勝しているので、私たちペアの勝ちです」
『おや? 誰が三戦二勝すれば終わると言ったのですか』
「「え゛」」
『それに次の問題は最も大切な“愛情”を測る競技です。もしかして逃げる気ですか? 鈴木さんのこと愛してるんですよね?』
「「......。」」
ルホスちゃん、ウズメちゃん、大人はズルいんだよ。醜いよね。
それにそろそろ気づくべきだ。姉者さんはただただ君たちで遊んでいるだけってことを。
姉者さんの話を聞いて、インヨとヨウイがイキり始める。
さっきまでこの大会で敗退者となることを覚悟しきっていた顔をしていたのに、コロッと変わるもんだから情けない。
「ふふ。マスターへの愛は誰にも負けません」
「逃げたかったらどうぞ。私たちの不戦勝になりますが」
「「ぐぬぬぬ......」」
さすがにここまで言われては退けないと思ったのか、このイベントは続行となった。
妹者さんが例の如く、次の競技の資料を読み上げてくれるのだが、彼女の声音は面倒くさそうだ。
『えーと、次は鈴木への“愛情”を測る競技で、内容は......鈴木を興奮させた方が勝ち......だと』
ちょっと待って。どういうこと?
なにやら嫌な予感がした僕は、左手を見下ろした。
『いえ、簡単な話ですよ。彼女たちから愛情を一身に浴びて、誰が一番鈴木さんを興奮させたかを競うんです』
それ“愛情”というより、僕が“発情”しちゃわない? 大丈夫? すぐそこに
「さすがにそれはちょっと......。それに僕、ただでさえロリコン疑惑かけられているのに......」
『だからですよ。鈴木さんは大人の男性として、ちゃんと自制してくださいね』
「い、いや、だからさ......」
『あれ、それとも自信が無いのですか? 普段、あれだけ言ってるのに、あの子たちを性的な目で見ちゃうんですか? それでいいんですか〜?』
「......。」
こ、こいつ、僕まで巻き込んで漏れ無く楽しむ気だな......。
斯くして、僕は理不尽な最終競技に巻き込まれるのであった。
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