第十三章 幸せになりませんか?
第410話 イキリたーいむ!
「きゃー! 誰か助けて!」
「ギャハハハ! 盗賊サマのお出ましだー!」
「げへへ! 女は生かせ! 他は全員殺せ! ババアもな!」
おっと。たった三言でわかる、異世界あるあるな展開がやってきたぞ。
現在、王都に向かっている道すがら、僕らがとある森の中を歩いていたら、なんか近くで、行商人が山賊に襲われていた。
昼下がりの今、呑気に欠伸していた僕だが、さすがに定番イベントが発生したとなっては黙ってられない。
僕は鼻息をすぴすぴさせながら、旅の同伴者たちの意見も聞かずに、現場に向かうことにした。
「よし、食後の運動がてらイキってくるか。美少女が居ますように」
『お前、ほんっと包み隠さねぇーよな』
だまらっしゃい。
現場に向かうと、そこは舗装はされていないが、森の中でも人の手が加わったような道路があった。無論、木々などがなく馬車が通れるだけの道である。
そんな場所で、盗賊たちは一般人を――
「ぐあぁぁあああ!」
「なんだこのアマぁ?! くそ強ぇ!!」
「逃げろぉぉお!!」
――襲ってなかった。
なんか死にかけてた。盗賊たちが。
え、どういうこと?
現場をちゃんと見れば、馬車の前に、ボロ布を纏った一人の女の子が立っていた。そうひと目で判断できたのは、身体の輪郭的に女の子だったからだ。
その子は自身の身長を遥かに超える鈍器――いや、光沢の無い黒色の大剣を担いでいた。
あの武器......刃が潰れているのか? あれじゃあ武器として“叩き切る”というより、“叩き潰す”って感じだ。
その刀身は近くに倒れている盗賊の男のものと思しき血がべったりと着いている。
あの子が殺ったのか?
フードで顔こそはっきりと見えないが......。
「僕の美少女センサーが反応してる」
『ほら、馬鹿言ってないで。逃げた盗賊たちがこっちに向かってきてますよ』
「誰だおめぇ! そこをどけぇ!!」
と、数名、こちらにやってくる汚らしい中年盗賊たちを、僕は【氷戦斧】を生成して一線、一思いに横薙ぎに振るって屠った。
盗賊たちは訳のわからないといった表情を浮かべたまま絶命する。
そんな僕の残虐な一面に対し、近くに居たヤマトさんが意外そうなものでも見るような視線を僕に向けてきた。
『小僧、随分と呆気なく人を殺したな』
「まぁ。この人たちを逃がしたら、次またどこかで美少女が狙われるかもしれないでしょう?」
『どこまでも不純だな、ご主人の動機って』
うるせぇ。童貞は必死なんだよ。
僕は【氷戦斧】を霧散させて、馬車の方へと向かう。
「こんにちは。お怪我はありませんか? 怪我してたら治しますよ」
【固有錬成:害転々】で、と最後に付け加えた意味合いで、僕は盗賊に襲われた人たちを見やった。
被害者たちは六人。御者の人と老夫婦、赤子を抱きかかえた若い人妻と思しき女性、そしてさっきの外套に身を包む少女。
うち一人、御者の人が僕の方へと向かって歩いてくる。
「あ、ありがとうございます。我々は怪我しておりません。えっと、その、そちらのお嬢さんが助けてくれたので......」
そう言って、少し怯えた様子の御者の人は少女の方を見やる。
少女も怪我はしていなさそうなので、僕はほっと安堵の息を漏らした。
少女はフードの中から僕をじっと見つめてきている。
「もしかして......恋されてる?」
『自惚れんな』
『ご主人はいったいどういう思考してんの』
『睨まれているんですよ、あなたの顔がぱっとしないから』
ぱっとしない顔だと睨まれんのかよ。はっ倒すぞ。
『『マスター、この人たちはどこへ向かおうとしていたのですか?』』
と、<パドランの仮面>の中からインヨとヨウイの声が聞こえてきたので、僕は同じことを御者の人たちに聞くことにした。
どうやら彼らは王都へむかっていたらしい。
なんと。行く先が一緒だったとは。
僕も目的地は一緒だと伝えると、どうぞ乗っていってくださいと言われたので、お言葉に甘えることにした。
ヤマトさんはなんか不満そうだったけど、僕は知らぬふりして彼らについていくことにした。
暫く馬車に揺られながら外の景色を眺めていると、同じく荷台に乗っている少女が、その隅に居座りながら、僕をじっと見つめてきた。じーっと。何時間も。
......いや、これ睨まれてない?
なんか居た堪れないので、僕から近寄って、話しかけることにした。
「あの、僕に何かようかな?」
「......。」
ガン見されながらガン無視。なにこれ、新感覚なんですけど。
というか、さっきのでっかい武器はどこに仕舞ったんだろう。
気になったので、ついでに色々と聞くことにした。
「あのデカい武器はどこにあるの?」
「......。」
「ああ、そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は鈴木。君は?」
「......。」
「それにしてもすごいね。盗賊を一人で蹴散らすなんて」
「......。」
「そうだ。これも何かの縁だし、王都に着いたら僕と食事でもしない?」
『お前、こんだけガン無視されてんのにすごいな』
諦めない心、それが大切なんだよ。
ギュロスさんだって、きっと指輪の中で『諦めないで』って言っているに違いない。
僕がそんなことを考えていると、少女が口を開いた。
「お前、臭い」
「......。」
待って。少女の第一声で死にそう。涙出てきた。僕って臭いの?
ちゃんと水浴びとか定期的にやって、衛生面は気をつけているんだけどな。
そんな僕の気も知らずに、女性陣が笑い出す。
『ぶッ。いきなり臭いって......』
『ちょっと笑えますね』
『『マスターが臭かったとしても、私たちはずっと一緒です!』』
『オレは臭いと思ってないけど......そういうのって人によるし』
言っとくけど、僕が臭いなら、魔族姉妹も臭いってことだからね。同じ身体なのに、なんで自分は無関係みたいに言うのかな。
そんなことを考えていると、少女が鈴の音のような透き通る声で静かに言葉を紡いだ。
「お前、人間には見えない」
「え?」
「いろんなモノが混ざり合ってる。気持ち悪い」
え、ええー。初対面の少女に罵倒される趣味はまだ無いんだけど......。
というかこの子、僕の身体のことに気づいてる? そういえば、ギュロスさんにも同じこと言われたな......。
僕はどこか遠い所を見つめながら応じる。
「僕は人間だよ......たぶんね」
「......人間は信じるなって、団長が言ってた」
“団長”?
というか、この言い方だと、目の前の少女は自分を人外と主張しているようではないか。
僕は前言撤回と言わんばかりに返す。
「じゃあ、僕は人間じゃないよ。これなら話くらい応じてくれる?」
「......何が目的?」
「王都まで暇だから、話し相手になってよ」
あとずっと見つめられていると落ち着かないし。
一応、昼時でもあったので、僕は<パドランの仮面>の中から、ドラちゃんが焼いてくれた串焼きを取り出した。
その際、僕だけ食べるのは居た堪れないので、馬車に乗っていた人たちに振る舞うと、老夫婦以外は受け取ってくれた。老夫婦は食欲が無いらしく、受け取ってくれなかった。
もちろん、目の前の少女にも串焼きを渡そうとした。
なんか態度冷たいし、素直に受け取ってくれないかな、と思ったら、
「......食べる」
とのこと。
「......そこの老いぼれたちの分も」
とのこと。
老夫婦に向かって、“老いぼれ”って言うのやめなさいよ。
斯くして、僕らは王都まで馬車に揺られるのであった。
そしてこの後、謎の少女の餌付けに成功した僕は懐かれるのだが、それはまた別の話である。
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