第411話 お久しぶりです、王都

 「そうか! スズキは<財宝の巣窟トレジャー>の最下層まで行ったのか! そうかそうか!」


 「う、うん、まぁね」


 「ということは、バジリスクの群れも倒したのか?!」


 「い、いや、そこまでは出来なかったなぁ」


 ヤマトさんが倒しちゃってたし、なんならヤマトさんの方がバジリスクよりも強かったからね。


 現在、僕は王都までの馬車に揺られながら、同乗している謎の少女と談話していた。


 出会った当初はすごい冷たい態度を取られていたんだけど、日が暮れるまでにはすごい懐かれてしまったのである。態度が違いすぎてびっくりしたわ。


 もちろん、懐かれたのには理由がある。餌付けだ。


 最初は串焼き、次に少し大きめの骨付き肉、デザートにはフルーツタルトを与えた。


 謎の少女はそれらを全て受け取り、全て平らげるという食いっぷり。ドラちゃんシェフの腕前が存分に振るわれる時間であった。


 餌付けしといてなんだけど、初対面の人から迂闊に物をもらってはいけないという教育を受けていないのだろうか。


 しかしその甲斐あって、夕方の今となっては、少女の方からすごいグイグイ来るようになった。たまに話に夢中になって密着してくることもあるので、童貞にとっては刺激が強いところ。


 「実はも<財宝の巣窟トレジャー>の最下層まで行ったんだぞ! すごいだろ! バジリスクも倒したんだからな!!」


 「そ、それはすごいね」


 ちなみにこの人懐っこい少女から自己紹介は受けていない。一人称が“ガイアン”なので、秒でこの子の名前がわかってしまった。


 そんなガイアンさんは自慢げに、バジリスクを討伐したことを語ってきた。おそらくだが、<財宝の巣窟トレジャー>がダンジョンらしい活動を始めてから潜ったように思えるので、最近の出来事なんだろう。


 すごいな。盗賊を返り討ちにしたときも思ったけど、相当実力があるらしい。


 「ちなみにガイアンさんは冒険者なの?」


 「いや、ガイアンは傭兵だ」


 え、傭兵? 傭兵がダンジョンに?


 僕が疑問に思っていると、ガイアンさんは自慢げに続ける。


 「ガイアンはあの傭兵旅団で有名な<龍ノ黄昏ラグナロク>の一員なんだぞ! すごいだろ!」


 「へ、へぇー」


 なんだ、傭兵旅団って。<龍ノ黄昏ラグナロク>?


 あ、そう言えば、レベッカさんが以前、同業者の中には集団で稼業する者たちも居るって言ってたな。


 「じゃあ、その<龍ノ黄昏ラグナロク>の仕事の一環でダンジョンに潜ったの?」


 「いや? 旅の途中でガイアンが腕試ししたかっただけだ」


 「一人で?」


 「うん」


 「他の皆は?」


 「わかんない。たぶん皆は迷子になったんだと思う」


 この子、皆とはぐれちゃったのか......。


 自分だけ仲間と別の行動取ったら逸れたって言うんだよ。大の大人の集団が揃って迷子にはならないよ。


 「えっと、おうちに帰れる?」


 「馬鹿にするな。皆が迷子になることはよくあることだ。ちゃんと対策も考えてある」


 「......王都に行くことと関係しているの?」


 「うん。王都の傭兵ギルドなら<龍ノ黄昏ラグナロク>に連絡が取れるらしい」


 さいですか......。


 まぁ、困って無さそうならいいや。


 「だったら、王都に着いたらお別れだね。また遭うかもだけど」


 「え?!」


 僕の言葉に、ガイアンさんは驚きの声を上げた。


 なんか変なことでも言ったかな。


 「?」


 「い、いや、その、えっと、旅団の皆には連絡取れると思うけど、すぐにとは限らないし......」


 “迎えに来てくれる”って言ってるじゃん。迷子なの君じゃん。


 「す、スズキは悪い人間じゃなさそうだから......」


 「だから?」


 「が、ガイアンが特別に依頼を受けてやろう!! うん、それがいい!」


 特に依頼すること無いしなぁ......。


 それに僕も傭兵だし。


 しかしガイアンさんは僕がだんまりしていると不安に思ったのか、もじもじし始めた。その仕草が可愛らしく思えてしまい、苦笑してしまう。


 「わかったよ。傭兵によると思うけど、一応、お金さえ払えばどんな依頼も受けてくれるってことかな?」


 「?! う、うん! でも仕事は選びたい! 人殺しとか安易に引き受けるなって団長が言ってた!」


 「はは、そんなこと頼まないよ」


 「ならなんでもしてやる!」


 え、“なんでも”?


 僕は外套に身を包んでいるガイアンさんの肢体を上から下まで流し見した。見えていないからこそ、膨れ上がってしまうのが妄想というもの。


 自然、ごくりと唾を飲み込んでしまう。


 「......。」


 「スズキ?」


 『おい。この童貞、またろくでもねぇーこと考えてるぞ』


 『本当、馬鹿ですよね』


 だまらっしゃい。


 そんなこんなで、翌日、僕らは無事に王都へ到着するのであった。



******



 「ああ〜暇ぁ」


 「暇ですね......」


 よく晴れた日の昼過ぎ。ルホスとウズメは礼拝堂の内部に並べられている長椅子の上に寝そべっていた。


 二人の少女を引き取ってくれる場所は、ここ、王都の中では教会しかない。故にルホスとウズメは、王都の西区にあるこの教会で一日の大半を過ごしていた。


 二人は仰向けになり、高い天井を見上げて時間を持て余していたのである。特にすることもなく、食料調達も毎日行っているわけではないので、二人は暇で暇で仕方がなかったのだ。


 そんな二人の下へ、シスター・ラミが腰に手を当ててやってきた。


 「こら。二人共、だらしないわよ」


 「あ、シスター」


 「す、すみません」


 この時間帯、シスターが二人の下へやってくる場合、何かしら厄介事を押し付けられる傾向がある。


 例えば、買い物に付き合ってほしいとか、おつかいとか、王都周辺の森で薬草を採取してきてほしいとか。


 ルホスは、今日は何を押し付けられるのだろう、と思いながら、シスターを見上げる。


 が、ルホスの予想に反した言葉がシスターから飛んできた。


 「二人にお客さんよ」


 「「“お客さん”?」」


 「そ。“スズキ”って言ってたわね」


 「「?!」」


 ルホスとウズメはバッと身を起こした。そして二人はそのままこの礼拝堂から走り去っていった。


 「な、なに? どうしちゃったのかしら......」


 シスターはそんな二人のどこか慌てた様子に唖然としていた。


 駆けるルホスとウズメは教会の拝廊へ向かい、ついに目的の人物と対面する。再会を果たす。


 自分たちの視界に映るのは、地味な見た目の黒髪の少年の後ろ姿だ。


 二人が好き好きで仕方がなかった――鈴木だ。


 「す、スズキ!!」


 「スズキさん!!」


 自然と少女たちの口から喜びに打ち震える声が漏れた。


 そんな少女たちの声に鈴木が振り返る。


 「あ、ルホスちゃん、ウズメちゃん。久しぶり」


 特に感動の再会という認識を持ち合わせていない、平凡な少年の声。それでもルホスとウズメはこの声が聞けて嬉しかった。


 今まさに、二人がそんな鈴木に抱き着こうとした――その時だ。


 「「マスター、この女たちは誰ですか?」」


 「「?!」」


 鈴木の背後から左右それぞれにひょっこりと姿を現す少女が二人。一人は褐色肌と白髪が特徴で、もう一人は白い肌に黒髪が特徴の愛らしい少女たちであった。


 インヨとヨウイだ。


 整った容姿の上に、可愛らしいミニスカ浴衣。べったりと鈴木にくっついて離れない密着具合である。


 必然、ルホスとウズメの行動がぴたりと止まる。


 そして同時に思う。


 (誰だ、その女!!)


 (誰ですか、その女!!)


 斯くして、人外ロリっ子と武具ロリっ子たちによる戦いが繰り広げられようとしていた。

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