第401話 笑う虎、ゲットだぜ

 『アレは百年ほど前のことだったか、当時、吾輩は――』


 「ちょっとタイム」


 『む?』


 「その話長くなるよね」


 『なるな』


 「明日以降でいい?」


 『......。』


 僕の言葉に、黒い虎さんは絶句している。


 そりゃあそうだ。戦いの決め手はこちらの降参で、それに応じてくれたのは神獣さんなんだから。ごめんね、空気ぶち壊して。でも物事には優先順位があるから。


 一応、こちらに敵対心は無く、また“アダロポス”という女神については全く知らないということは伝えられたので、争いは過激化しなかった。


 『まぁ、それでもかまわんが......気にならんの?』


 「そりゃあ気になりますよ。でも今は忙しいんです。世界の危機と言ってもいいくらい」


 『ぬ? 吾輩の知らぬ所で世界に危機が迫っていたとは』


 「うん。美少女の誕プレを用意しないと」


 『お主、吾輩のこと馬鹿にしてる?』


 してません。


 すると、魔族姉妹の気の抜けた声が聞こえてきた。


 『はぁー。一時はどうなるかと想ったぜ』


 『苗床さん、言っておきますけど、神獣の攻撃が私たちの核に当たっていたら、普通に砕けていましたからね』


 マジか。そ、それはその......本当にごめんなさい。


 『それで、ご主人、プレゼントは決まったか?』


 と、ドラちゃんが仮面の中からそう聞いてきた。


 「う、うーん。ダンジョン最下層って言っても、女の子が喜ぶような物が無いような......」


 『もう何でもよくね? その辺に落ちてる光る石でいーじゃん』


 妹者さんのこの適当な言い様。勝手なイメージだが、鼻ほじりながら言ってそうなイメージがある。


 あ、そうだ。


 「先に聞けばよかった」


 『『『『『?』』』』』


 僕は女性陣たちにある質問を投げることにした。


 「皆が異性から貰って嬉しい物って何?」


 『ああー、なるほど』


 『『私たちは婚約指輪が欲しいです!』』


 「ああ、それもいいね。ロトルさんに渡したら喜んでくれるかな」


 『おま、いくら武具とは言え、ロリっ子どもの思いをスルーして、その案を他所の女に採用するってどういう心情だよ......』


 『お、オレは......本とか魔法書がいいな。ご主人とベッドで一緒に読めるような奴』


 「それ、シチュエーションに重き置いてない?」


 『私は......そうですね、<三想古代武具>がいいです』


 「ハードル高いな」


 『あ、あーしは――』


 「妹者さんはその辺に落ちてる光る石でいいよね」


 『なんでだよ!!』


 なんで怒るのぉ......。さっき自分で言ってたじゃん。


 まぁ、光る石なんか貰っても嬉しいと思う人は極一部だろうな、うん。


 よし、大体わかったぞ。


 「結論」


 『『『『『“結論”?』』』』』


 「僕の周りに居る女性陣は参考にならない」


 『『『死ね!』』』


 『『死んでください!!』』


 どいひ。聞いといてなんだけど、全然当てにならなかったよ。


 「おい、何を一人で話している。気持ち悪い奴め」


 と、僕の背後から、ムムンさんが腕組をしながら文句を言ってきた。こいつ、ほんとクソの役にも立たなかったな。


 モンスターとして見なして討伐しよっかな。


 「モンスターとして見なして討伐しよっかな」


 『『マスター、心の声が漏れてます』』


 「ほう。かまわんぞ。やるか? 結果は見えているがな」


 お? お? やんのか?


 と、僕が指をポキポキと鳴らしていると、第三者的な立場に居る神獣さんが待ったをかけた。


 『小僧、ここに来た目的を忘れとらんか?』


 「あ、そうだった」


 ヤバい。あんま時間無いんだよな。もうここに来るまでにゲットしたアイテムの中から選ぼうかな。


 「やっぱ媚薬を作るしか......」


 『やめろ』


 『ふむ。であれば、小僧、吾輩が見繕ってやろうか?』


 「え、神獣さんが?」


 そう言えば、神獣さんは美しい物が好きって言ってたな。何か宝石とかアクセサリーを持っているのだろうか。それを分けてくれるというのであれば申し分ない。


 そう考えていた時期が、僕にもありました。


 『ほい』


 「『『『『『っ?!』』』』』」


 バキッ。神獣さんは自身の牙を前足で折った。


 折られた牙が、僕の足下に転がってくる。


 え、ええ......。


 『なんだ、その微妙な顔は』


 「いや、その、牙って......血、出てますよ。大丈夫ですか?」


 『こんな怪我、明日になれば治っておる。牙も元通りだ』


 「さ、さいですか......」


 だからって折った牙を渡されてもな......。


 僕がいまいち感謝の念を欠いているからか、神獣さんは慌てた様子で言ってきた。


 『お、おい。神獣の牙だぞ?! すごくレアなんだぞ?!』


 「そ、そうかもしれませんけど、僕からしたら“ナルシストが自分の歯を折って渡してきた”くらいで......」


 『お前、バチあたんぞ』


 『神獣をナルシスト呼ばわりするの、あなたくらいですよ』


 『ぐぬぬ......。ただの牙ではないのにぃ』


 「え?」


 『いいか! 吾輩の牙は祝福されし者のみが得られる至高の代物で、あらゆる厄災から身を守ってくれるのだぞ!!』


 「お守り的な?」


 『んな低レベルな物では無いわ!!』


 神獣さん、ブチギレて僕に迫ってくる。


 『例えば、それを持つ者が危機的状況に陥ったとしよう。その際、吾輩がすぐに駆けつけるのだ』


 「な?!」


 ちょ、それすごくない?! 皇女さんの身に何かあったら、このクソ強い神獣さんが助けてくれるってこと?


 正直、あの帝国軍との争い以降、一応は落ち着きを取り戻したとは言え、皇女さんを筆頭とした派閥に対しての敵はゼロじゃないから、喉から手が出るほど欲しい。


 神獣さんが遠くにいても駆けつけてくるって、どういう仕組なんだろ。まぁいいや。すげぇことには変わり無い。


 でも......。


 「牙......か」


 『何がそこまで不安なんだ......』


 いや、このまま渡すとセンスを疑われるじゃん。実用的でもさ。


 すると意外なところから提案が挙がった。


 『マスター、それなら【固有錬成:摂理掌握】で形を変えてみてはいかがでしょうか?』


 『女性が好むアクセサリーにすることを提案します』


 「っ!! その手があったか! ナイス!」


 『『でしょうでしょう! お礼に結婚し――』』


 「しない!」


 『『しくしく』』


 よし。インヨとヨウイのナイスアイデアを採用しよう。制作時間がパーティーまでに間に合うか不安だけど。


 僕はそれから姉者さんに頼んで、ネックレス向きの長細い鉄鎖を生成してもらった。


 その際、鉄鎖の素材を銀とかステンレスにしてと頼んだら無視された。素材の変更ができる、できないじゃなくて、僕の注文がウザかったらしい。左手のかおがこれ以上無いくらいそれを語ってた。


 「さて、さっそく取り掛かるか」


 「いや、今からそんなことしてたら、殿下のパーティーに間に合うかわからないぞ」


 「うっ」


 僕がやる気を出して袖を捲っていたら、ムムンさんがそんなツッコミを入れてきた。


 が、これまた意外なところから声が上がる。


 『であれば、吾輩が目的の場所まで送ろう。その道中で作ればよい』


 「え」


 な、何を言い出すんだ、この神獣さん。


 『なんだ、不満か?』


 「い、いえ、送るって、僕をどうやって......」


 『吾輩の背に乗ればよいだろう。まさかただ乗っているだけで、手先の作業に集中できんとは言うまい』


 「それはさすがに......」


 『お、おいおい、マジかよ。神獣が人を背に乗せるって......』


 『こ、これは何か見返りを求められると見た方がよろしいのでしょうか』


 「あの、僕は大してお返しできるものがありませんが......」


 『小僧......』


 僕の言葉に、神獣さんはどこか呆れた様子を見せた。そして溜息を吐きながら言う。


 『借りはこれでチャラにしろ、と言っているのだ。なぜわからん』


 か、借り? なんのだろ。


 とりあえず、相手が僕を送ってくれるというのであれば、お言葉に甘えよう。


 ネックレスを作るのは......そこまで時間はかからないと思う。明確なイメージを持っていれば、あとは【摂理掌握】でどうとでもなる。


 「正直、城に神獣を招くのは騒ぎになりそうで気は進まんが......」


 『なんだ長髪男、城内で暴れてほしいのか』


 「ちょ、長髪男......。頼むからパーティーを台無しにしないでくれ」


 「......。」


 『苗床さん?』


 『どうした、黙り込んで』


 と、魔族姉妹が不思議そうに僕を見上げてくるが、僕はある所をじっと見つめながら、神獣さんに問う。


 「神獣さん、あそこに刺さってる剣......もし僕が引っこ抜くことができたら、欲しい?」


 せっかく最下層まで来たんだ。いいじゃんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る