第394話 女性に喜ばれるプレゼント選び
「それでね、パパったら、私の好きなデザートをテーブルの上に並ばせたのよ。『好きなだけ食べなさい』って。体型維持を頑張っている私に、本当に酷いわ」
「はは、それは辛いですね」
僕なら皇女さんをテーブルの上に寝かせて、『好きなだけ食べさせてもらいます、ぐへへ』って言うのに。
ああ、そういう話じゃなかったか。
現在、僕は皇女さんと一緒に、寝る前の談笑を楽しんでいた。二人で大きなベッドに腰掛けながら、だ。
もうとっくに日付は変わった頃合いだろうか。かなり長い間、僕は皇女さんと同じ時間を過ごした。
皇女さんとこうしてゆっくり話す機会があるのは久しぶりだ。その証拠に、彼女から聞かされる話は様々である。最近の帝国の様子とか、対立貴族や<
特に熱く語っていたのは、父親の愚痴だな。相変わらず仲がよろしくて何よりである。
「もう嫌。最近は公務ばかりで忙しくて、ろくに運動してないのに......」
「そこまでに気にしなくても......。頭を使う時は甘いものが必要ですよ?」
「なに、あんたまで私を誘惑する気?」
「僕は、ロトルさんがいくら甘いものを食べたって、美しさが変わらないことを知ってますから」
「っ!! もう!」
皇女さんは耳まで真っ赤に染め上げ、抱えていた枕に自身の顔を埋めて、仰向けに寝っ転がった。
ああ、これが夢に見た青春の一部なんだろう。異性と過ごすこの甘々な時間、美味である。
『ちッ。くそ......くそ......くそッ』
妹者さんは舌打ちと悪態を繰り返しているけど。
前から思ってたけど、彼女はこういったことが苦手なのかな? それでも僕は続けるけど。
『甘い、甘すぎる......でもいい!』
姉者さんは相変わらず楽しんでいるようで......。
「マイケル、会いに来てくれて嬉しいわ。......ありがと」
すると、皇女さんが枕に顔を埋めながら、ぼそりと僕にお礼を言ってきた。
過程はどうあれ、僕はこうしてまたここにやって来た。それも皇女さんのお誕生日を間近に控えた時期に。もしかしたらレベッカさんは、これを見越して僕をここに送りつけたのかな。
皇女さんは僕がまるで自分の誕生日にやってきたと思っているようだけど、申し訳ないくらい偶々来ただけだ。
そして僕はプレゼントを何も用意していない。なんとかせねば。
僕が心の中で密かに焦っていると、皇女さんがはにかみながら言ってくる。
「ねぇ。もしよかったら、明後日の夜に行われるパーティーに、あなたも来てくれない?」
「僕が行ったらマズくないですか?」
「た、たしかにマイケルはまだ指名手配犯扱いだけど......駄目?」
と、顔を埋めている枕から、チラッと僕を見つめてくる皇女さん。
うーん、僕の正体がバレたら、却って皇女さんたちに迷惑がかかりそうな気がするんだけど......。
明後日行われるパーティーはロトルさん主催のお誕生日会だ。そこに僕が行っていいのだろうか。
『皇族の誕生日会なんだ。ぜってぇー退屈でつまんねーだろーな』
『まぁ、これも仕事の一つと思えばいいんですよ』
と、他人事のように語る魔族姉妹たち。
「や、やっぱり迷惑よね。ごめんなさい、我儘ばかり言って」
「い、いえ。もし僕がその場に居るとしたら、どう振る舞えばいいのかなって。護衛として、ですかね?」
「いや、それは......えっと、他国の貴族として......」
「言っちゃなんですが、僕の素養の無さで、すぐにバレるかと」
「うぅ」
まだ使用人とか護衛役に扮した方がマシかな。でもそんな立場でその場に居たら、きっと皇女さんは僕と接することはできないだろう。
僕がそんなことを考えていたら、皇女さんが溜息を吐いてから口を開いた。
「こればかりは仕方無いわね。この話は無しよ」
「こちらこそ、お役に立てず申し訳ないです」
それから暫くの間、僕らは眠くなるまで話し込んでいた。
というか、皇女さんが眠るまで続いた。話の途中で疲れてしまったのか、いつの間にか眠ってしまったのである。
僕はそんな彼女を起こさないようにと、近くの掛け布団をそっと掛けて、この部屋を退出することにした。
『お、犯さないのか?』
『あなた、熱でもあるのですか?』
『お、オレは元からご主人がそんなことする人間だとは思ってなかったぞ』
「......。」
魔族姉妹は僕のことをどう思っているのだろうか。ドラちゃんまでなんか言ってるし。
僕は少なくとも初体験はお互い合意の上で、イチャラブしながら脱童貞したいのだ。心外にも程がある。
にしても、バートさんたち、戻って来るの遅かったな。インヨとヨウイに連れ回されているのかな。あの子たちは武具だから睡眠欲なんて無いので、一日中活動できちゃうし。
僕はそんなことを思いながら、部屋の扉に手をかけて、その扉を内開きにする――その時だ。
外から複数人、なだれ込むようにして、こちらに倒れてきた。
「「「「っ?!」」」」
「『『え゛』』」
まるで体重を預けていた壁が意味を成さなくなったように、僕の足下で倒れる者たち。
誰かと思いきや、そこには少し前、皇女さんの寝室を後にしたインヨとヨウイ、そしてバートさん。
終いには、皇女さんの父、皇帝さんまでいらっしゃる始末である。
あんたら何してんの。
いや、この様子を見れば一目瞭然だけど。
僕はジト目になって皇帝さんを見下ろした。
「......覗き見とは、いい趣味ですね」
それから僕は、これ以上騒がしくならないよう、覗き見してた奴らと一緒に、静かに皇女さんの部屋を後にするのであった。
******
「よし、明後日......いや、もう日付が変わったから明日か。明日の皇女さんの誕生日にプレゼントできる物を用意しよう!サプライズで!!」
『『おおー!』』
僕の掛け声に、<パドランの仮面>の中に居るインヨとヨウイが元気よく応じてくれた。
深夜の今、星星が輝く夜空の下、僕は帝国城の屋根の上に立っている。え? ムムンさんの言いつけ? 知らないよ、そんなの。
『おいおい、間に合うのか?』
『相手は皇帝の一人娘。レベルが低いと却って恥をかかせてしまう虞があります』
魔族姉妹はどちらかと言えば、乗り気じゃない模様。明日に迫っている誕生日パーティーまでに十分な代物が用意できるか、心配をしているようだ。
というのも、実は毎年恒例のこのパーティー、皇女さんに限らず、皇帝さんも含めて誕生日を迎えると、国内貴族が各々の権威を示すかのように、“品”を献上するのだ。
その“品”とは様々な物を指していて、毎年決まった物を捧げる者も居れば、目立とう思って珍しい物や誰にも手に入れられない高価な物を捧げる者も居る。
要は誰がどのレベルの物をいつまでに用意できるかが、ポイントらしい。
その場で貴族としての爵位が上げられる訳じゃないが、皇族に顔を覚えられたり、何かを任されるチャンスでもあるため、大抵の貴族は必死になるみたいだ。
無論、王国との戦争を止めたのは他でもない、皇女さんの力なので、皆、未来の女帝さんに向けて、献上品に力を入れることだろう。
「まぁ、たしかに、二人の心配もわかるよ。僕も十分な物が用意できるか、自信があるわけじゃない」
『だったら、変にパーティーの時に渡そうとせず、気持ちを込めたもんをどっかで渡せば――』
「だがしかーし!! 美少女の期待を裏切るのは、もっとしちゃいけないことだ
!!」
『『う、うわ......』』
引くな。
ということで、僕はさっそく泣きつくことにした。
「ドラ◯もーん!!」
『『......。』』
『『なぜかマスターがみっともない少年に見えてきました』』
『ど、どらえ? え?』
戸惑う少女を無視し、僕は続ける。
「なんか良さそうなプレゼント用意できない? 案無い?」
『な、なんでオレに聞くんだよ』
いや、だって、ドラちゃん、かなり長いこと生きてきたロリババアだから、それなりに知識持ってるじゃん。
『今、失礼なこと考えたろ』
「まさか。ドラちゃんは結婚できる年齢なんだなって」
『けっこん?!』
「で?」
『ん、こほん! そ、そうだな。ここから近くにダンジョン......<
あ、そういえば、帝国は二つのダンジョンを有してたな。もう一つは、<
ドラちゃんはどこかそわそわしながら続ける。
『べ、別にオレは行きたいとは思ってねぇーが、そこを探索しに行って、珍しいもんを探すってのはどうだ? ぼ、ぼ、ぼぼ冒険したいとか思ってないけど、きっと良いもん見つかると思う!!』
さてはドラちゃん、ダンジョンに行きたくて仕方ないな......このツンデレめ。
斯くして、僕らは<
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