第395話 クソむかつく奴とダンジョン攻略
『ほ、ほら! 帝国内の街中で手に入るもんなんて高が知れてるだろ?! ダンジョンなら珍しいもんがいっぱいあると思ってよ! べ、別にオレはどっちでもいいけど!』
「うんうん。僕とダンジョンデートしたかったんだね。しようね」
『で?! デートじゃねぇよ!!』
うんうん。そうだね。このツンデレが。
現在、僕は本日のスケジュールを帝国城の屋根の上で立てていた。まだ日は昇ってないが、もう少しで夜が明けるだろう。
で、そのスケジュールだが、これからダンジョン――<
正直、賭けの域なんだけど、明後日の皇女さんの誕生日パーティーまでに間に合わせるにはこれしかない。
『ま、まぁ、オレが居るここに、色んなダンジョンの攻略本があっから、ある程度の情報は揃ってるぜ』
ドラちゃんも行きたがってるし。
『というか、ドラちゃんあなた、よく<
と姉者さんがそんなことをドラちゃんに言う。
そういえば、昔からあった<
『ああ、前のオレの契約者がな』
「ちょっと。僕という契約者が居るのに別の男の話?」
『んな?! ち、ちげーって! ご主人! お、おおおオレはご主人一筋だって!』
『『マスター、言わせるとか気持ち悪いです』』
『なんだこいつ。どの口が言ってんだ』
『本当ですよ。普段は女を取っ替え引っ替えしてるくせに』
言い方。僕は美少女全員を愛してるから仕方無いじゃないか。
と、僕らが所構わず馬鹿をやっていると、
「おい」
下から声が聞こえてきた。
屋根の下を覗き込むと、そこにはムムンさんが居た。彼は腕組して、僕を睨みつけていた。
彼は騎士服でも執事服でもなく、寝間着姿である。
しかもナイトキャップしてんぞ、こいつ。三角型の。
「『『『似合わな......』』」
『『マスターのメガネ以上の似合わなさです』』
「?」
後で白と黒の少女はしばいとこ。
僕はムムンさんの居る所まで下りて、面と向かったかたちで立つ。
「何の用でしょう?」
「私は、不敬にも城の屋根の上に立つな、と言ったはずだが」
「ああ、ごめんなさい。忘れてました」
「猿と馬鹿は高い所が好きと聞くが、まさか本当だったとはな」
「その馬鹿に以前負けた騎士が居たような......」
「私が負けたのはレベッカだ。貴様ではない」
などと、僕はムムンさんとの言い合いが激化しそうだったので、回れ右して彼に背を向けた。
「? どこへ行く気だ」
「ちょっとこれから<
「はぁ?!」
ムムンさんが大声を出してきた。僕がダンジョンに行ったらマズいのかな?
彼は僕に迫ってきて、怒鳴り声を上げる。
「貴様、<
「い、いや、ちょっと宝探し的な......」
「な、何を訳のわからんことを......。ダンジョン探索と言ったら数日かかるのだろう? 明日のロトル殿下主催のパーティーはどうする気だ」
「それまでには戻って来る気です」
「? ということは、深層まで探索するつもりは無いということか?」
ん? 深層? あ、ダンジョンって基本、地下に潜っていくから、深層になるほど難易度が跳ね上がってくる。当然、踏破するには時間がかかるわけで、僕が早く帰って来ると言ったことを、彼は僕が深層まで行かないと思ったようだ。
実際はどこまで行くかわからないけど、レアアイテムって難易度に比例してゲットできると思うんだよね。
ということで、少しでも多くの階層を攻略してこないと。
「まぁ、そんなとこです。では、僕はこれで」
「待て。............おい!」
僕が無視して去ろうとしたら、ムムンさんが僕を止めてきた。
僕は振り返りつつ、仏頂面で言う。
「なんすか?」
「私も同行する」
「はぁ?!」
今度は僕が素っ頓狂な声を上げた。
『お、おいおい。あたし、こんな奴と行きたくないぞ。絶対細けぇーことでネチネチ言ってきそうだ』
『同感です。ロン毛イケメンは生理的に受け付けません』
『『マスター、“黒”の力でサクッと行きますか?』』
『なんか、オレも苦手だな、こういう奴』
女性陣もムムンさんがついてくることに関してはアウトらしい。
インヨとヨウイが物騒なことを言っていた気がするけど、聞かなかったことにしよう。
僕は嫌な顔を隠さずに理由を聞くことにした。
「なぜ?」
「あからさまに嫌な顔をするな。私だって嫌だ」
んなら来んなよ。
「んなら来んなよ」
『『マスター、心の声が漏れてます』』
失敬。
ムムンさんが蟀谷に青筋を浮かべながら答える。
「今、貴様は帝国にとって無視できない存在だ」
「だから? 見張るためについて来るんですか?」
「ああ。それにこの城から<
「うっ」
でも僕には<ギュロスの指輪>があるし......。それを素直にムムンさんに教えるのは嫌だな。これは僕の奥の手でもあるから......。
「言っておくが、明日に備えて警備は厳重にしている。余計な騒ぎを起こすことは、はっきり言って迷惑だ。死ね」
死ねって言いやがった。こいつも心の声が漏れてんじゃん。
「だったら、僕を止めようとは思わないんですか?」
「まぁ、それも考えたが......」
「?」
「いや、何でもない。監視する者が必要なだけだ」
「じゃあ、シバさんがいいです」
「あいつは駄目だ。最近、虚偽の報告を上げてくる」
「虚偽の報告?」
「ギワナ聖国で指名手配犯の貴様とデートした、と言っていた」
「ああ、それは嘘ですね。デートじゃありませんから」
シバさん、意外とふざけた報告してんな。ち◯ぽ付いてなかったら、諸手を振って歓迎したのに。
「なら、ミルさん」
「あいつは今回の件で統率を担っている。貴様と違って暇じゃない」
だったら、ついて来ようとするあんたも暇なんか、ええ?
僕は最後の一人を口にした。
「マリさんは......」
と僕が言いかけると、彼は日が昇り始めて見晴らしが良くなってきた外に向かって歩み出し、地上のとある場所を指差した。
僕はムムンさんが指し示す場所を見る。
そこは城にある中庭の一つで、遠目からでもわかる桃色の髪を持つ少女が居た。
マリさんだ。
彼女は何やら昇り始めた日に向かって、手を合わせた後、そこに跪き、両手を広げて何か大声を出していた。ここからでは、その内容まで聞こえてこなかったけど、ヤバさは十分伝わってきた。
宗教じみた行為でちょっと怖い。もしかして毎朝やってるのかな?
「......マリさんに信仰心があったとは知りませんでした」
「......仕事に差し支えない程度だ。個人の自由だが......その、なんだ、できれば控えてほしい。強くは言えないが」
「......。」
斯くして、僕はイケメンロン毛クソ野郎と共に<
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