第382話 闇組織式面接、開演

 「<2nd>」


 『あ、ボス』


 ストン。龍化した<2nd>の頭上に着地したのは、どこからとなくやってきた<1st>だ。


 ハンデスとの戦いを終え、次は何をしようかと考えていた<1st>は、巨大化した仲間の下へ駆けつけてきたのである。


 <1st>は腕を組みながら問う。


 「やっぱ龍化しないと無理だった?」


 『うん。あの子の【固有錬成】が厄介でさ。女の子としてあるまじき嘔吐をしちゃったよ』


 「......君なら普段からよくしてそうだけど」


 『食べるよ?』


 ジト目で頭上に<1st>を睨む<2nd>。龍化した<2nd>も気になったことを聞くことにした。


 『<豊穣の悪魔>と<愛憎の悪魔>は?』


 「どっちも死んだ。後者はシバが殺したよ。いや、ガープンが自滅した感じかな? なんか急に<ヘルハウンドの業火>で自分を焼いてた」


 『どういうこと?』


 「おそらくズッキーの【固有錬成】だろうね」


 『へぇ』


 <1st>の見解は正しかった。


 事実、鈴木は【固有錬成:害転々】でレベッカの“害”をガープンに転写している。故にガープンが<ヘルハウンドの業火>の力を使ったとき、その効果はガープン本人を対象にしていたのだ。


 ちなみにシバは、少し疲れたので近くで休んでいる。一応、友人の手助けとしては十分に働いただろう。そう思って、シバは少し離れた木の下で一休みすることにした。


 眼の前では化け物同士が戦おうとしているのに、すやすやと眠っているのである。


 <2nd>は新たに疑問に思ったことを聞いた。


 『あれ? <豊穣>はもう一回スカウトするって言わなかった?』


 「うーん。馬が合わなくてさ......つい」


 『殺しちゃったの?』


 「うん」


 『ちょっとくらい我慢しないと、人材不足で組織が終わっちゃうよ』


 「ご、ごめんって」


 巨大な龍に叱らえる牧師姿の<1st>は苦笑を浮かべる。


 そんな龍を前に、アズザエルは驚愕をあらわにした。


 『私の【狂気淵酔】が効いてないの?!』


 『いや、十分効いてるけど、龍化した私は負けないって頭で理解してるから』


 「ちなみにワタシは全く効いてないよ。恐怖とか知らないし」


 などと、平然と語る闇組織の幹部たち。


 <2nd>の心は依然として【狂気淵酔】の効果を受けている。故に恐怖で染め上げられているが、それがなんだろう。


 龍化した自身が、眼前の異形の化け物に負けるはずがない。そう頭で理解してしまえば、自然と恐怖とは裏腹に、絶対的な自信が生まれたのだ。


 胸の中で渦巻く気色の悪い恐怖心。


 頭の中でどうやっても自身が負けるビジョンが見えない自尊心。


 後者の気持ちの方がやや強かったために、アズザエルの【狂気淵酔】を跳ね除けてしまったのだ。


 『馬鹿にして!!』


 アズザエルは十二の翼を大きく広げ、それぞれ赤紫色に輝く魔法陣を展開する。


 そこから放たれたのは、極大の光線だ。それらが辺りの建物を破壊しながら龍化した<2nd>を襲う。生物が喰らえば塵一つ残らずに蒸発するだろう熱線だ。


 しかし、


 『全然効かなーい!』


 『な?!』


 <2nd>は無傷だった。


 『今度はこっちの番だ!』


 『?!』


 <2nd>はその場で回転し、巨大な尻尾による横薙ぎをアズザエルに叩きつける。


 ドガガガ。巨大な化け物が眼下の建物を破壊しながら倒れた。地響きが遠くまで響き、避難している住人に悲鳴を上げさせる。


 <1st>は足下の<2nd>の頭を、まるでドアをノックするように小突く。


 「ちょっと。ズッキーの依頼は完璧にこなしたいんだ。街を破壊するのは駄目だよ」


 『ええ〜、無理だよ。人居ないし、いいじゃん』


 「だーめ。ズッキーにはうちの仕事っぷりを評価してもらって、正式に加入してもらうんだから」


 『うーん』


 などと、鈴木の居ないところで好き勝手言う闇組織の幹部二人。


 街をめちゃくちゃにしたら、鈴木からの評価も下がってしまう。依頼内容は聖女シスイの救出の手伝い。幸いにも人的被害は無いとは言え、好き勝手暴れたら文句を言われてしまう。


 <2nd>は困り顔をしながら、翼を広げて羽ばたいた。このまま歩いたら、それだけで街は破壊の一途を辿ると思った故の気遣いだ。


 が、そもそもが巨大な龍。大きな翼を羽ばたかせているだけで、街の建物は崩壊こそしなかったが、物は容易く壊れていった。


 宙に浮いた龍は、地面に横たわるアズザエルの蛇の頭を掴んで、空へとその巨体を軽々しく浮かせた。


 アズザエルはその行為に驚愕する。


 『ちょ、何してるの?! 私をどこに連れてく気?!』


 『私たちが暴れても問題ないとこ〜』


 『はぁ?!』


 「あ、そうだ。彼女をうちの組織に招こう」


 『『はぁ?!』』


 今度はアズザエルと共に<2nd>が聞き捨てならないと言わんばかりの声を上げる。


 夜空から怪獣たちの素っ頓狂な声が地上に響き渡った。


 「ということで、<2nd>、このまま彼女を連れて行こう」


 『ちょちょちょ! 意味がわからない! 何を言ってるの?! 私は敵なんだよ?!』


 『そうだよ。そもそも、こんな醜い化け物、情報収集のスペシャリストである私たちに向いてないよ』


 『お前が言うな!!』


 「本当だよ」


 アズザエルは自身を化け物呼ばわりした化け物に激怒したのだが、<1st>は諜報活動のスペシャリストでもない引き籠もりが言えたことじゃないとツッコんだ。


 しかし<2nd>はそんなアズザエルを他所に、会話を続ける。


 『そもそも割り当てる担当は?』


 「そうだな......。“ツッコミ”担当......はどうかな?」


 『下ろせ! 今すぐ私を下ろせ! お前らをぶっ殺してやる!』


 『それはズキズキの担当でしょ』


 「そうだった。なら、“拷問”担当にしようと思う。中々良いスキルを持っているようだからね」


 『一つ目と二つ目の提案の差』


 『下ろせー!!!』


 斯くして、既に海上へと出た二体の怪獣と一人の牧師野郎は、騒がしくしながら呆気なく聖国を発つのであった。


 腕の中でジタバタと暴れるアズザエルを他所に、<2nd>はふと思い出したことを口にする。


 『あ、ズキズキにお別れの挨拶してない』


 「そんな時間無いよ」


 『え、なんで?』


 「ズッキーに取り付けた<ヴリーディン>がそろそろ効果を失う」


 『ああ、なるほど』


 鈴木の首には、<1st>によって取り付けられた<ヴリーディン>という錆びついた首輪がある。


 呪具の一種で、効果は一定期間、契約者の言い成りになる代物だ。が、その期間後、今度は<1st>がその同じ効果を受ける。立場が逆転してしまうのだ。


 故に<1st>はその効果が切り替わる前に、鈴木とお別れしなければならない。


 しないと、鈴木に性奴隷にされてしまう。


 エッチなことができるならば、躊躇しないのが鈴木という男であった。


 『ズキズキにまた会えるかなー』


 「会えるさ。なにせウチの新人社員だから」


 『私を無視するなー!!』


 そんなこんなで、闇組織<幻の牡牛ファントム・ブル>は一体の怪獣をお土産に、拠点へと戻るのであった。

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