第373話 だから戦うと決めた
「“美少女専門ヒーロー”の僕が相手だ」
と、僕の決め台詞と共に、状況は一変した。
ここ、クーリトース大聖堂の地下にある大広間は、気味が悪いほど白一色で染められた空間だ。
特筆すべきは、この空間の中央にある祭壇。その上には女神クラト――姉者さんの片足がある。
よくわからんが、聖女さんと思しき異形の女の子も、その付近に居た。
......いや、シスイさんだな。かなり変わり果てているけど、僕が知っているシスイさんだ。
でも、
「なんだ、この感覚......」
僕はシスイさんを“シスイ”とちゃんと認識している。
なのに、彼女のことを何か特別な存在だと思い始めている......気がする。尊い存在というか、崇め奉りたくなるというか、無性に愛してしまうというか......。
..............................いや、普通か。
僕、普段から美少女のこと、尊い存在だと思ってるし、崇め奉ってるし、愛しすぎて求婚しちゃってるし。
うん。普通だ。
『鈴木』
「ん」
とりあえず、僕は地べたに伏せているレベッカさんと......ついでにアデルモウスの傷も肩代わりすることにした。
【固有錬成:害転々】。自他問わず、対象を負傷させることで、その“害”を他者に転写することができる。
二人共、一刻を争うくらい死に体だったので、彼らの傷を全て僕に移した。
一瞬、意識を失いかけるほどの苦痛を味わったが、すぐさま妹者さんが【固有錬成:祝福調和】で完治させてくれたので意識を保てた。
レベッカさんたちは......傷は治ったと思うけど、生きてるよね? たぶん。
あとシスイさんは......あの姿はたしかに普段の彼女とかけ離れた様相だけど、傷じゃないな。おそらく【害転々】は通用しない。
「これはこれは......まさか、またあなたと対面するとは......」
すると、少し離れた先で、銀縁眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げる男が、平然と立っている様を目にする。
......【固有錬成:力点昇華】込みで殴ったんだけどな。傷、もう治ってるじゃん。
姉者さんの話によれば、ここら一帯は<絶魔の石>の影響下にあり、魔法を使えない。いや、使えないというか、使うと魔力が一気に減るから魔法を頼れないのだ。だというのに、こいつはどうやって自分の傷を治したんだ。
あと殴ったときに、一緒に奴の眼鏡も壊れたはずなんだけど、それも直ってるし。
というか、こいつ、街中で聖女さんを襲ってきた連中の一人か。
「あんた、シスイさんに何をした」
「私の【固有錬成】で、彼女の【固有錬成】を昇華させたのです」
他者のスキルに干渉できるスキルだと?
「まぁ、私も人に使ったことはなかっったので、このような化け物になるとは思ってもいませんでした」
「......。」
眼前の銀縁眼鏡野郎は、シスイさんを一瞥しながらそんなことを言った。
こいつ......人をここまで豹変させといて、何も思わないのか?
そういえば、
「彼女を治せよ」
「お断りします」
瞬間、僕は【固有錬成:闘争罪過】を発動して銀縁眼鏡野郎に急接近した。
もうここじゃ魔法は頼れないんだ。なら出し惜しみしてないで全力で挑む。身体能力の底上げで、常人の膂力を超えた今の僕は、一瞬で銀縁眼鏡野郎の前に辿り着いた。
僕は【力点昇華】を使用し、敵を横蹴りする。
が、
「無駄です」
「『『っ?!』』」
僕の蹴りは何か淡い光を放つ光の結界のようなものに阻まれてしまった。
なんだこれ?!
「死になさい」
『避けろ、鈴木!!』
「っ!!」
視界の外、僕は真横からまるで大型トラックに衝突されたかのように、岩の柱をぶつけられて吹っ飛ばされた。
骨が何本か折れたけど、妹者さんのスキルによって全回復した僕はすぐさま体勢を整えた。
銀縁眼鏡野郎は余裕そうに、後ろの方で腕を組んで僕を見やる。
「さすが、かの有名な<
「......【固有錬成】か」
「地形を操っている力の方は」
「その光の結界は?」
「こちらの<セラエル写本>という呪具の力です」
そう言って、銀縁眼鏡野郎は懐から厚みのある古びた本を取り出して、僕に見せつけた。
こいつ、聞いたら何でも答えてくれるな。......余裕ってことか。
そんな僕の疑問を察してか、銀縁眼鏡野郎が微笑しながら言う。
「ふふ。今の私は気分がいいので、何でも答えてあげますよ」
「......。」
『ナメやがって! 鈴木、こいつのち◯この長さを聞け!』
『苗床さんの方が長いはずなので、マウント取り返せますよ』
何のマウント? というか、戦いに集中してよ。お前らも余裕か。ちなみに大きさには自信がある。
「名前は?」
「バフォメルトと申します。時に<
「?」
「こちらに付きませんか?」
は??
「実はあなたのことは高く買ってましてね。帝国軍と戦った一件、あれには裏があるのでしょう?」
「っ?!」
こいつ、帝国が僕の首に懸賞金を付けた理由を知っているのか。
「白銀貨一枚相当の首を持つあなたですが、それは表向きの話。......外で帝国皇女と愛し合う姿を晒すのは迂闊でしたねぇ」
バフォメルトはにちゃりと気色の悪い笑みを浮かべて、僕を見据えた。
どこで知ったのかわからないが、レベッカさんもそのことを知っていたな。僕が旅立つ前、人気の無い所で彼女と抱き合って、終いにはキスもした。当時の感動的なお別れを、まさかこんな奴にまで知られるとは。
どこに人の目があるかわからないな。
僕がそんなことを考えていると、バフォメルトは話を続けた。
「そこで一つ、我々に協力してくれませんか?」
「......は?」
「私は手始めに、帝国を乗っ取るつもりです」
「の、乗っ取る?」
「ええ。かの大国には皇帝を支える至高の騎士......<
それからバフォメルトは片手を固く握り締めて拳を作った。
「帝国は王国と戦争をすると言い張り、国民から金を巻き上げて軍を強化しました。過剰な労働を強いたのも事実です。......しかし戦争は起こらなかった。故に民は不満に思っているはず。今までの苦労はなんだったのか、と」
「......そこに漬け込んで、帝国を乗っ取るというのか?」
僕のその問いに、バフォメルトは柔和な笑みを崩さずに答えた。
「そのための“宗教”です」
思わず、ぞわりと背筋に不快感を覚える反面、微かな怒りが沸々と僕の中で募っていく。
帝国皇女の面影を思い出す。たった一人で戦争を止めようと、長年奮闘していた少女のことを。
確かに帝国は、国として民に許されざる非道を行っていた。が、それをこれから償っていこうと立て直しているのも事実だ。その良し悪しは、僕なんかじゃわからないけど、きっとそれは間違っていない。
そしてその中心に居るのは、先頭に立とうとしているのは、帝国皇女ロトル・ヴィクトリア・ボロンだ。
バフォメルトは、そんな彼女の覚悟を――
「我々が帝国を手に入れた暁には、あなたにあの皇女を差し上げましょう。愛しているのでしょう? 手に入れたいのでしょう? 我々に協力すれば、その夢は叶いますよ」
――嗤いやがった。
それから奴は何か細々としたことを意気揚々と語っていたが、僕の耳には入ってこなかった。
僕は<パドランの仮面>の中からとある武器を取り出す。
その武器は真っ白な三叉槍だ。これを手に入れたのは、少し前、ギワナ聖国に来る途中、海賊に襲われた際に、蜥蜴魔族から奪ったものだ。
この武器の名は――。
『<鯨狩り>......』
『魔力を込めれば、掠っただけでも対象を麻痺させる代物ですか』
武器の名を口にした魔族姉妹は、なぜ僕がそれを取り出したのか、疑問符を頭上に浮かべていた。
僕はそんな二人に答える。
「武器が欲しいんだ。でも今は魔法を頼れない状況だから」
『でもお前、あんま槍の振り方わかんねーだろ』
と、妹者さんの尤もな指摘に、僕は苦笑する。
「だから変える。三叉槍じゃなくて、少しでも得意な“剣”に」
『『は?』』
僕はそんな二人を置き去りに三叉槍を前に突き出し、左手でその長い柄をなぞるようにしながら唱えた。
「【固有錬成:摂理掌握】」
途端、純白の三叉槍は鋭利な刀身を宿す剣へと変貌した。
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