第366話 ここから巻き返すんじゃんよ

 「こんばんは。全世界の美女を愛して止まないヒーローです」


 『毎回思うんだけどよ、なんで美女限定なんだよ』


 『ほんっと、鳥肌を立たせるのが上手な人ですね』


 『ご主人、オレもどうかと思うわ』


 『『マスター、気持ち悪いです』』


 あれ、女性陣から僕の名乗り口上の批判がすごい気がするんだけど、気のせいかな?


 現在、クーリトース大聖堂にやってきた僕は、眼下の光景を目の当たりにしていた。大聖堂は一部だけだが、かなり破壊されていて、外からでも中の様子がわかる感じだ。


 「きゃぁぁあ!!」


 「おい、なんだアレは?!」


 「モンスター?! こんな所に発生したのか?!」


 「そんな情報入ってきてないぞ! 早く市民の避難を始めろ!!」


 おお、おお。すごい騒ぎになってるな。


 地上に居る人たち――教会の連中は、市民の避難を優先するみたいだ。良かった。じゃあ、まだこっちに接触してこないか。僕の狙いは<堕罪教典ホーリー・ギルト>の計画の阻止だし。


 ちなみにこの場にやってきた手段は、ド派手にカチコミをするため、炎の<大魔将>の背に乗ってきた。いや、炎の<大魔将>をマジで使役できるとは思わなかった。


 背に乗っても全然熱くないし。


 なぜド派手に登場しなければならなかったのかと言うと、それはギワナ教の世間体を守るため。ギワナ聖国は表立って呪具とか集めてたし、<堕罪教典ホーリー・ギルト>の悪事を世に広めてしまうと、芋づる式で教会の立場も危うくなる。


 まぁ、ギワナ教を守る義理は無いけど、聖女さんが教会の存続を望むなら、僕はそれに従うまでだ。


 『たとえ鈴木が悪役になろうとも、てか』


 と、妹者さんが僕の考えていたことを察して、そんなことを代弁してきた。


 僕は苦笑しながら応じる。


 「はは。もっと他にやりようはあったかもね」


 『いーんじゃねーの? あーしは鈴木のそういうとこ嫌いじゃないぜ?』


 「妹者さん......」


 僕が彼女の励ましに感動していると、外野から野次が飛んできた。


 『はいはい。イチャイチャしてないで、さっさと私の足を取り戻してください』


 『『マスター、あそこに居るのはでしょうか?』』


 『本当だ。なんかボロボロじゃねぇーか、あの


 あの、もしかしなくとも、君らが“オバサン”とか“痴女”って言ってる人って、レベッカさんのことですかね? 本人の前では絶対に言わないでよ......。


 ちなみにインヨとヨウイは<パドランの仮面>の中に入ってもらっている。ドラちゃんも同じだ。


 そんなロリたちはレベッカさんのことが苦手みたい。まぁ、三人とも、僕がレベッカさんに嬲られているところを、仮面の中で目撃したからなぁ。


 「って、そんなこと言ってる場合じゃない!!」


 僕はすぐに眼下の地上へ着地した。


 炎の<大魔将>はとりあえず、このまま空中に待機してもらって、教会の連中の相手をさせよう。もちろん殺さない程度で。


 すると視界の端から、巨大な漆黒の騎士が僕に大剣を振り下ろしてきた。


 『【紅焔魔法:打炎鎚】!!』


 「あぶな?!」


 妹者さんがすぐさま【打炎鎚】を生成して、僕を左右に両断しようとする大剣を、その柄で受け止めた。


 が、


 「『っ?!』」


 『『マスター!』』


 ズダンッ。


 【打炎鎚】がまるでガラス細工のように破壊され、大剣は勢いを殺さずに振り下ろされた。


 肩からバッサリ斬られた僕は、その場に片膝を着いてしまう。


 「ホッホッホッ。儂のランサロットをそんなちゃちな魔法で防げると思わんことよ」


 どこからか、老人の掠れた声が聞こえてきた。


 声のする方を見やれば、漆黒の騎士の奥に一人の老人が立っていた。小柄で、黒を基調とした外套に身を包んでいる老人だ。


 ランサロットって......この騎士のことか?


 妹者さんの【固有錬成:祝福調和】で全回復した僕は、【固有錬成:力点昇華】込みの【天焼拳】で、漆黒の騎士を殴り飛ばした。


 漆黒の騎士ランサロットは老人の後方の壁に勢いよく叩きつけられる。


 「すみません、おじいちゃんのオモチャを壊しちゃいました」


 「......。」


 僕の煽りを受けて、先方は余裕の態度を消し去った。と思いきや、顎を擦りながら、舐め回すような視線を僕に向けてくる。


 「なるほど。お主が<口数ノイズ>か。奇妙な仮面を着けているから、誰だったかわからなかったぞ」


 「あ、僕のこと知って――」


 と、僕が呼びかけた時だ。


 すごい勢いで何かがこちらに飛んでくるのが見えたので、僕はそれを【鮮氷刃】で叩き斬った。斬ったそれは、ひと一人簡単に押しつぶせそうな瓦礫だ。


 「<口数ノイズ>ぅぅううう!!!」


 そして男の怒声が聞こえてくる。


 声のする方を見やれば、そこには鈴木二号を惨殺した、いつぞやのガープンが立っていた。男の顔は憤怒に染まっていて、遠目から見てもわかるくらい苛立っている様子である。


 また奴の足下にはレベッカさんが地面に這いつくばっていた。あの怪我、もしかしてすぐ近くに立っているガープンにやられたのかな?


 ガープンは大した怪我をしてそうにないので、レベッカさんが一方的に押されたってことか?


 あのレベッカさんが?


 「なんで生きてんだ、お前ッ! 俺が殺したはずだろッ!!」


 「あなたが殺したのは偽物ですよ」


 「なっ?!」


 どういうことだ。アデルモウスは<堕罪教典ホーリー・ギルト>と繋がっている。なのに僕が生きていることがガープンは知らないだと?


 『鈴木、とりあえず、今は戦闘に集中しろ』


 『よくわかりませんが、まずはあそこで倒れている女を助けますよ。一度殺されかけましたが、おそらく今は敵じゃないはず』


 「ん」


 僕はそう短く返事をして、ガープン目掛けて【凍結魔法:氷牙】を放つ。地面から穿つ氷の牙が、レベッカさんと奴を切り離した。追い打ちで、魔族姉妹もガープンに魔法を放つ。


 その隙に、僕は近くに落ちていたガラスの破片をレベッカさんに投げつけ、彼女の白い肌に傷を付けた。


 そして発動する。


 「【固有錬成:害転々】」


 次の瞬間、レベッカさんの傷が全回復する。いや、彼女が負っていた傷を対象者が代わりに負うことになる。


 僕はその対象者を、


 「がはッ!」


 ガープンにした。


 奴は鼻や口から血を吹き出して、何が何なのかわからないと言った様子で戸惑っていた。


 僕は決め顔で口を開いた。


 「美女を傷つけるからそうなるんですよ。野郎が女性を傷つけていい時は、処女を奪う時だけだ」


 『『マスター、マジでキモいです』』


 『ご主人、武具のオレでも鳥肌立ったぞ』


 膜すらねぇガキどもは黙ってろ!!


 すると、全回復したレベッカさんが僕の下へやってきた。そんな彼女に僕は問う。


 「状況はどんな感じです?」


 「......。」


 「レベッカさん?」


 僕の問いに、レベッカさんは答えてくれなかったので不思議に思っていると、彼女はどこか気まずそうな顔で口を開いた。


 「なぜ......怒らないのかしら?」


 え? あ、ああ。僕から女神の片足を奪った上に、僕を石化させて帝国に送りつけようとしたことか。


 危うく皇女さんとの感動的なお別れが台無しになるところだったよ。


 僕が石化を解除して聖国に戻ってきたことは、アデルモウスから聞いたのかな? この場に現れた僕を見ても、そこまで驚いていなかったし。


 まぁでも、一度は敵対した相手が自分を全回復させたことに、彼女自身信じられなかったのだろう。


 「怒ってほしいんですか?」


 「そ、そうじゃないけど......考え無しで私を回復させたでしょ」


 「お礼は身体で払ってください」


 僕のその言葉に、彼女はどこか呆れながら返してきた。


 「ほんと、スー君はスー君ね」


 「ええ、僕は僕です」


 きっと僕がこの場に来るまで、彼女は苦戦を強いられたことだろう。


 ならば、ここから逆転してこそ、ヒーローという存在はより一層輝くのではなかろうか。


 レベッカさんは手にしていた鞭を構えた。僕も魔族姉妹が生成した炎と氷、それぞれの属性剣を手にし、彼女の隣に立つ。


 これから共闘というかたちで、レベッカさんと僕は眼前の敵に立ち向かうのだ。


 「レベッカさん、ここから巻き返しますよ――」


 「スー君、悪いけれど、この場は任せていい?」


 え、これから共闘するという熱い展開じゃないの?


 僕に全任せ?


 ま?

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