閑話 [ルホス] 良い感じのガキども

 「おい、ウズメ! 起きろ!」


 「ん、んんー」


 「お、き、ろー!」


 「あだだだだだ!! み、みみ! 耳を引っ張らないでくだひゃい!」


 大体の人が寝静まった夜更けに、私は隣で寝ているウズメを叩き起こした。


 ウズメはスズキと一緒に居た間は、よく同じベッドでスズキと寝ていたが、今は居ないので、ほぼ毎日私と一緒に同じベッドで寝ている。


 ベッドは大きくないのだが、こいつは人肌が恋しくて、一緒に寝ようとしつこい。


 そんな私たちが居るのは、王都の教会と併設している孤児院の一室である。周りには、私と同じくらいか、それよりも幼い子たちが心地よさそうに寝ていた。


 なぜ孤児院に居るかと言うと、理由は二つある。


 一つは、私たちが住む場所が王都には他に無いから。


 ボロン帝国から戻ってきた当日は、まずマーレの家に向かって世話になったが、翌日には追い出された。


 曰く、二人も面倒見れません、本当に、と。全然目が笑ってなかったので、私たちは次の場所を探した。


 次に選んだのは、騎士のババアのとこだ。でもマーレのとこと同じく、翌日には追い出された。


 曰く、せっかく戻ってきたんだい、孤児院に行って、他の子たちと一緒に生活してきな、と。耄碌クソババアって言ったらゲンコツ食らった。痛かった。


 ダメ元でアーレスに頼んだら、あの女騎士は私たちを快く受け入れてくれた。


 が、家の中は最悪だった。少し前のスズキの努力が報われない有り様だった。大の大人になっても、掃除できない奴って居るんだなって思った。


 だから私たちは一礼してから、アーレスの家を出た。その時の女騎士の何とも言えない顔つきが、今も心の中に浮かぶけど、物事には限度ってものがあると思う。


 そして私たちに選択肢は無くなったので、仕方なく孤児院の世話になることにした。


 「な、なんですか、こんな夜遅くに」


 「レニアがここを出た!」


 「っ!!」


 私の言葉に、眠たげに目の下を擦っていたウズメが目を見開いた。


 そう、私たちは密かな楽しみを――じゃなくて、とある研究を行っている。これが二つ目の理由だ。


 それは......レニアとリベットがオトナの階段を上るところを見守ることである!!


 「こ、こんな夜遅くに、レニアちゃんたちはおっ始める気ですか?!」


 ウズメは周囲の子たちを起こさないよう、注意しながら静かに聞いてきた。その際、エルフの特徴的な長い耳をピコピコ揺らして、興奮している様を晒していた。


 私はウズメに言った。


 周りのガキどもを起こさないように。


 「ばか! 夜遅くにおっ始めるのがエッチだろ! 誰にもバレないようにするから興奮するんだ!」


 「こ、興奮! や、やけに説得力ある言い方ですね......」


 「タフティスが言ってたからな」


 ということで、私たちはさっそく外に出る準備をした。


 まぁ、ウズメの魔法で自分たちの気配を薄くしたり、足音を小さくするくらいだけど。


 ちなみにだが、レニアは私より少し年上の女の子で、日中は明るくて活発的な少女だ。夜の顔はリベットにしか見せる気が無いのか、昼と夜で全然顔つきが違うのが、最近、レニアに抱く私の印象である。


 で、リベットとは、レニアの交際相手で、この孤児院でも上から数えた方が早いくらい年上の男の子だ。くっそ弱いけど、レニアはリベットのことが好きらしい。逆もそうで、所謂、相思相愛という関係だ。


 そんな二人の熱烈な行為を覗くべく、私たちは全力で密かに行動していた。


 ウズメがそわそわしながら口を開く。


 「きょ、今日はレニアちゃん、リベットさんとどこまでするのでしょうか?」


 「知らん。でも昼、一緒に居る時に、レニアには“テ◯キ”を教えた」


 「“テコ◯”?」


 「うん。タフティスが教えてくれたやつを、そのまま教えた」


 よくわからんが、男は女に“テ◯キ”をされると気持ちよくなるらしい。


 レニア、さっそく実践してくれると教えた甲斐があるんだけど。


 ウズメは駆けながら、興味深そうに私に聞いてくる。


 「て、“テ◯キ”とは私にもできる行為でしょうか」


 「わ、我に聞くな。ただやり方はすごく簡単だぞ。バナーナを端から端まで、手で擦る感じ。緩急付けて」


 「......痛くないですか、それ」


 「だ、だから知らないって」


 そんなに気になるなら、後日、リベットに感想聞いてよ。実際にされてるか、わからないけど。


 「す、スズキさんにシたら喜んでもらえるのでしょうか......」


 「......。」


 このエロエルフ、すぐにスズキにシようとする。


 やがて孤児院を出た私たちは、日中ですら人が来なさそうな倉庫と建物の間で、二人の影を発見する。


 私は思わず、声を上げてしまった。


 もちろん、小さな声で。


 「観察対象だ!」


 「観察対象です!」


 私たちはすぐさま近くの物陰に潜んだ。


 が、


 「「っ?!」」


 「な?!」


 そこで一人の男と鉢合わせした。


 教会の神父だ。説教ジジイとも言う。七十過ぎで、事ある毎に同じことを繰り返し言ってくるから、私はいい加減くたばってほしいと願っている。


 ウズメには同じことを何度も言わないんだよな。曰く、ウズメちゃんはお利口さんだから、と。腹パンしてやったわ。


 説教ジジイは私たち二人を目の当たりにして、開いた口が塞がらないといった様子である。


 「な、なんでここに説教ジジイが居るんだ」


 「そ、それはこっちのセリフだよ」


 「も、もしかしてレニアちゃんたちを覗く気ですか?」


 「な?! ジジイ、変態野郎だったのか?!」


 「る、ルホスさん、私たちも同じことしようとしてます......」


 私たちはいいんだよ! 今後の参考にするから!!


 私が変態ジジイを問い質すと、奴はまるで子供のように口を尖らせて言い訳をする。


 「覗き見するの、すごく興奮するじゃん」


 「「......。」」


 こいつ、マジで神父か。


 「あッ。レニア、そんなに強く吸わないで」


 っ?!


 私たちは言い争いをやめて、レニアたちに注目した。


 レニアが腰掛けているリベットの股間に、自身の頭を埋めているような様子を目にする。よく見えないが、あの行為はアレだ。


 えっと......フェ◯チオ!


 遠目から見ても、レニアの頭が前後運動しているから間違いない。


 「れ、レニアさんがリベットさんのを咥えてますぅ」


 「れ、レニア......君はどこでそんな知識を......」


 「我が教えた」


 「え、君が教えたの?! うちの子になんてこと教えてるの?!」


 う、うるさいな。それでお前も楽しんでたら同罪だろ。


 「う、ぐぅ......う゛」


 「きゃ!」


 そしてリベットは絶頂を迎えた。レニアが少し驚いたような声を上げた。


 リベットは、男が絶頂を迎えた時に出す白濁液をレニアの顔面にぶっかけた様が、離れている私たちからでも丸見えだった。


 思わず、私の口から感嘆の声が漏れる。


 「で、出た!」


 「で、出ましたね......」


 「で、出てる......」


 「トノサマミノタウロスと量が全然違うな......」


 「何と比べてるの、君......」


 「だ、男性の方はああやって気持ちよくなるんですね! す、スズキさんも出るのでしょうか?」


 「わ、我に聞くな。説教ジジイに聞け」


 「わ、私にも聞かないでよ......」


 少し息の荒いリベットと、どこまでも色っぽい顔つきを見せるレニア。後者に至っては絶対昼じゃ見れない色気さえ感じられる。


 くッ。レニア、見事だ!


 と、私が心の中でレニアを褒め称えていると、


 「あなたたち! こんな夜遅く何をやっているの?!」


 「「「「「っ?!」」」」」


 後ろから女の怒鳴り声が聞こえてきた。


 驚いた私たちは後ろを振り返った。私たちの背後には、シスターラミが立っていた。寝巻き姿で、手には用心のためか、箒を持っていた。


 シスターラミが目端を釣り上げて私たちを睨みつける。顔が真っ赤で鬼みたいだ。


 「見回っていたら、部屋にレニアちゃんたちが居なかったから心配したのよ?!」


 「う、嘘?! まさかずっと見られてたの?!」


 「くッ。すごい恥ずかしいけど......恥ずかしいはずなのに、今は冷静でいられるぜ」


 「リベット君は早くパンツを穿きなさい! 変態ジジイは大人として、なぜ注意しなかったのですか!」


 「へ、変態ジジイ......神父なのですが、私......」


 「しっかり者のウズメちゃんまで!」


 「ひぃ! ご、ごめんなさいぃ」


 「すごい怒るな。鬼みたいだ。もしかしてシスターは我と鬼牙種どうぞくか――ぐへぇ?!」


 などと、私はシスターに首を絞められるのであった。


 くそ。こいつ、毎回邪魔してくるな。

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