第350話 凍てつく戦斧
「ふぃ〜。久しぶりに派手な魔法使ったわー」
「『す、すげぇー』」
現在、僕は火の<大魔将>というやべぇ奴と戦っている。
とにかく保有魔力量が半端無くて、高火力魔法をバンバンと撃ってくるのだ。頭おかしいよ。
でもそんな奴相手に奮闘できる者が居たのだ。
それが僕の傍らに居る小さなヤンキー。
「ご主人、この調子でどんどん行くぜ!」
ドラちゃんである。
超頼もしいんですけど。
『ギィエェェェェエエエエ!』
すると、数百本の【螺旋火槍】を全て両断されたからか、火の<大魔将>が発狂じみた咆哮を上げた。
追尾する炎の龍の頭の群れ、火球の雨、無数の炎の巨槍......それらの遠距離攻撃が無駄だったことが気に障ったらしく、相手は近接戦に移る気だ。
大きな両翼を羽ばたかせて、灼熱の肉体を更に熱していった。鷲の特徴的な鋭い鉤爪をこちらに見せつけてくる。
『あいつ、こっちに来んぞ』
「ドラちゃん、やっておしまい!」
「悪いけど、オレ、近接戦向きの魔法知らない」
ドラちゃん!!
『来たぞ!!』
妹者さんの焦燥感に満ちた声が上がったと同時に、火の<大魔将>は僕目掛けて飛翔してきた。
やばッ! はやッ!
慌てて回避しようと思った僕だが、
『魔力が溜まりました! 苗床さん、多重系魔法を使います! 私に合わせられますか?!』
そんな姉者さんの焦った声に、僕は回避することを躊躇った。どうやらギリギリまで、火の<大魔将>に巻き付けた鉄鎖から魔力を吸収していたみたいだ。
策があるってんならやるしかない。
姉者さんの鶴の一声により、行動方針が定まった。
このまま――迎え討つ!!
「レシピは?!」
『【冷血魔法:氷凍地】と【凍結魔法:氷戦斧】です!』
「もう一つの魔法知らないんですけど!」
『そっちは私が担当します!』
「でも魔法ってイメージすることが大切なんだよね?!」
『そこはあなたのラノベ知識と妄想で補ってください!』
「ああ、もう! わかったよ!」
【氷凍地】はいい。実際、この戦いでは足場を作るために何度も使ってたし。
でも【氷戦斧】ってなんだ?
「『来てる来てる来てる!!』」
妹者さんとドラちゃんが騒がしい。
火の<大魔将>はもう目と鼻の先だ。焦燥感が募ってく一方で、僕は必死にイメージした。名前からして戦斧、戦斧、戦斧......。大きさは......。質量は......。
【氷凍地】×【氷戦斧】でできる魔法......イメージはこんなところか!!
僕は息を大きく吸った。それが合図となったのか、姉者さんも呼吸を僕に合わせて、同時に唱える。
「『【多重凍血魔法:氷凍戦斧】』」
*****
『ギュェ?!』
僕の後ろを通り過ぎていった火の<大魔将>が、理解できないといった様子の奇声を上げる。
それもそのはず、僕をあの灼熱の鉤爪で掻き殺したと思い込んでいたのだから。
でも違う。
火の<大魔将>の片足を斬り飛ばしたんだ。
僕と姉者さんが完成させた魔法で。
「『ふぇ?』」
妹者さんとドラちゃんが間の抜けた声を漏らす。
僕はそんな二人にかまわず、今しがた姉者さんと発動した魔法――【多重凍血魔法:氷凍戦斧】をゆっくりと持ち上げて担いだ。肩にずっしりとした重たい感触を覚える。
それは僕の身長を優に超える戦斧で、言うまでもなく、氷で造形された武器だ。
その戦斧を一振り......そう、たった一振りしただけで――。
ドラちゃんが辺りの光景を見て驚愕した。
「う、海が凍ったぁ?!」
【多重凍血魔法:氷凍戦斧】。一度、振るえば荒々しい海だろうと、深い斬撃による一線を残す――氷漬けという静かな爪痕によって。
熱せられた海上の空気が、その一撃によって急激に気温を下げていく。
僕は肺に溜めた息をゆっくりと吐き捨てた。それが白い息になる程、僕の周囲一帯は冷気を帯びている。
この魔法の完成度に満足気な姉者さんが口を開く。
『どうです? 使用感は?』
文句無い火力でしょう? と言いたげな雰囲気を醸し出す姉者さん。僕は苦笑しながら素直に答えた。
「悪くないね。ただ大きいから扱いづらいな」
『そこは苗床さんの腕の見せどころですよ』
ということなので、全力で頑張りたいと思う。
『ギィエェェエエ!!!』
火の<大魔将>の切断された足は生えてこない。凍ったままだ。すごいな、あの炎の塊を凍らせたのか。
そんな火の<大魔将>は怒り狂って、全身から火を吹きながら、再度、僕の方へ突撃してきた。
僕はここが正念場と思い、自身の膂力を一気に強化する。
「【固有錬成:闘争罪過】、発動」
瞬間、僕の全身に赤黒い稲妻が走った。
僕は【氷凍戦斧】を構えて、更に自身の膂力を爆発的に強化する。
「【固有錬成:力点昇華】!!」
足場だった氷塊を破壊するほど、弾くように跳んだ僕は、そのままこちらに向かってくる火の<大魔将>と激突した。
「うぉぉお!!」
『ギィエェェェエ!!』
燃え上がる鉤爪と、凍てつく戦斧が衝突し、その衝撃波が周囲へ広がる。
僕は押し負けて無い。相手も後退しなかった。結果は引き分け。
でもこれで終わりじゃない。
「らぁぁぁあああ!!」
【氷凍戦斧】を海上に向けて振れば足場が作られ、空中を高速移動する火の<大魔将>に向けて振れば氷の斬撃が飛んでいく。
振る度に、目に映るものが氷漬けにされていった。景色が氷塊によって詰め尽くされるほど変わっていって、もはやここが海の上ということを忘れてしまいそうだ。
段々とコツを掴めてきた僕は、自身よりも大きな戦斧を振り回し、その回転力を活かして次の一手に繋げる。
氷の戦斧による斬撃を一線、一線、また一線。
その度に、火の<大魔将>が起こした熱風の嵐を、灼熱の鉤爪を、炎の槍を、全て凍てつかせた。
姉者さんの鉄鎖による吸収も手伝ってか、当初の苦戦がおかしいくらい、火の<大魔将>は弱っていった。
そして、
「次で決める!」
【闘争罪過】は時間経過と共に、身体能力が飛躍的に底上げされていくスキルだ。
それは僕の命が尽きるまで続く。そして、今がその頂に達する時だ。
「【固有錬成:力点昇華】!!」
大振りの一撃。一直線に突き進む僕に対し、火の<大魔将>も最後の力を振り絞って全力の一撃を繰り出す。
今まで弱まっていた全身の炎を一気に焚き付け、獄炎を纏いし巨体で体当たりしてきた。
僕のありったけの力と【氷凍戦斧】と火の<大魔将>が衝突する。そして――
『ギィエェェェェエエエ!!』
「おぉぉおおおおおお!!」
――火の<大魔将>の巨体に一線、左右を分かつ氷の斬撃が走った。
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