第349話 ドラちゃんはご主人と共に戦いたい

 『だからオレを使え!!』


 <パンドラの仮面>から聞こえてきたその声に、僕は思わず魔族姉妹を見てしまった。


 これからの戦いは、二人の魔法を頼れない状態で始まる。そんな中、ドラちゃんも巻き込んでいいのか?


 僕がそう考えていると、


 『かかッ。ガッツあんじゃん!』


 『状況が少しでも良くなるなら、是が非でもお願いします』


 魔族姉妹は共闘することを望んだ。


 ならもう......信じるか!


 「わかった。ドラちゃん、こっちに来れる?」


 『おう! 【飛行魔法】でひとっ飛びよ!』


 ついでにインヨとヨウイも呼ぶか。もしかしたら二人の力が必要になるかもしれないし。


 二人の場合は、魔力を込めて求めれば、僕の下へ武具形態となって飛んでくるから、それで呼べばいいか。


 「ついでに、インヨとヨウイもこっちから呼ぶか」


 『あ、ちょ、やっぱオレもそっちがいい!』


 「え? なんで? 【飛行魔法】は?」


 『インヨとヨウイだけじゃなくて、オレも求めろよ! 不公平だろ!』


 な、なんのだよ......。てか、ドラちゃんにもできるのか。


 とりあえず、僕は妹者の魔力を使い、三人のロリっ子どもをこの場へ呼んだ――その時だ。


 『ギィエェェェェエエエエ!』


 「『『っ?!』』」


 火の<大魔将>が、僕を目掛けて人一人呑み込む程の火球を放ってきた。


 僕は【固有錬成:力点昇華】と【烈火魔法:爆炎風】を駆使して、すぐさま回避するが、奴はそれを連発してきやがった。


 なんとか回避を連続して成功させていると、僕の下へ武具形態のインヨとヨウイが飛んできた。


 『『マスター!』』


 「あばばばばばば!」


 そんでもって、別に武具形態になったりしない、ドラちゃんも猛スピードでこっちに飛んできた。


 風圧に耐え切れず、女の子としてどうなのって顔して、こっちに来てる。頬とか捲れちゃいそうなくらい、風をもろに食らってるよ。


 やっぱ【飛行魔法】で自分のペースで来ればよかったじゃん......。


 僕は火球の隙をついて、インヨとヨウイはそのまま<パンドラの仮面>の中に収納し、少女姿のままやってきたドラちゃんをキャッチした。


 『『マスター、パドランはお姫様抱っこで受け止めて、私たちはそのまま収納とは、どういう了見でしょうか?』』


 「し、仕方無いでしょ」


 んでもって、そのドラちゃんは目をぐるぐるとさせて、未だに絶不調のようだ。快適なお空の旅は苦手らしい。


 『鈴木! また火球の雨が来んぞ!』


 「っ?!」


 妹者さんに忠告され、僕は空を見上げた。


 空は真っ赤に染まっていて、彼女の言う通り、火球が雨のようになって海へと降り注ぐ。


 さっきより数が多いぞ?!


 焦燥感に狩られる僕であったが、


 「おらよぉ!!」


 突如、僕を包むようにして半透明の球状の膜が張られた。その膜はハニカム構造みたいな模様で、僕を中心に地球の自転のようにゆっくりと回転している。


 これはいつぞやのトノサマゴースト戦で見た――【魔法結界】だ。


 そして火球の雨がその【魔法結界】に直撃する。中に居る僕にまで轟音と僅かばかりの衝撃が伝わってくるが、【魔法結界】が破壊されることはなかった。


 「ドラちゃんの魔法?!」


 『おお! すげぇかてぇーな!』


 『中々の硬度ですね』


 「へへ。これくらい余裕よ」


 と、いつの間にか回復していたドラちゃんが、僕の腕の中で小さな鼻を照れくさそうに擦っていた。それからドラちゃんは自身の【飛行魔法】で浮遊する。


 てか、


 「な、なんでまた全裸なの?」


 ドラちゃん、また全裸なのはなんなん。露出の趣味でもあんのか、このロリ。


 「っ?! こ、これはご主人が急に呼ぶから!!」


 『このロリ、服着ていないのを人のせいにしてますよ』


 『どっちもどっちだな』


 いや、僕は悪くないでしょ。


 などと、僕らが戦闘中にも関わらず、ぐだぐだやっていると【魔法結界】に火球とは別の攻撃が衝突した。


 それは【螺旋火槍】のように、螺旋状に突いてくる火の槍であった。【魔法結界】に直撃しても壊れることは無かったが、螺旋の動きは止まることを知らず、ギギギギと甲高い音を立てている。


 『び、ビックリした......』


 「さすがに破れるかと思ったよ......」


 「いや、もう破れる!」


 え?!


 「ちょ!!」


 【魔法結界】にヒビが入ったのも束の間。【魔法結界】を破壊した火の槍は、そのまま僕を貫かんと進んでくるが、咄嗟の判断で、【紅焔魔法:双炎刃】を生成し、双剣を交差させて受け止める。


 双剣を交差させた中央に、螺旋状の火の槍の先端が激突するも、その勢いは衰えない。


 なんとかして軌道を逸らすことに成功した僕は、眼前に広がる光景に絶句した。


 先程受け流した【螺旋火槍】が、火の<大魔将>を中心に数百と並んでいるのだ。そしてその先端が僕に向けられている。


 『おいおい。なんだあの【螺旋火槍】の数は! 魔力底なしかよ!!』


 『これ、捌き切れますかね......』


 などと、魔族姉妹もこの数の攻撃に不安を覚えているようだ。


 しかしそんな中、不敵に笑う者が居た。


 「はッ。さっきは【魔法結界】を破られたが、オレが使える魔法はまだまだあるぜ!!」


 ドラちゃんだ。


 ドラちゃんはいつの間にか【飛行魔法】で浮遊していた。そんな彼女は掲げた手に、藍鉄色の魔法陣を展開している。


 「ご主人、今からでっかい魔法使う! 魔力は好きに使っていいか?!」


 そうか。ドラちゃんは使用者である僕から魔力を得ているのか。


 姉者さんは火の<大魔将>から魔力を吸収している途中だし、使うなら妹者さんの魔力だな。


 「妹者さん、ドラちゃんに魔力のほとんどを供給しちゃっても大丈夫?」


 『かまわねぇぜ! どうせあたしは魔法で攻撃しねぇーからな!』


 「んじゃ、ド派手に行くぞ! 【水月魔法】――」


 そうドラちゃんが唱え始めると、辺りの気温が一気に下がった気がした。


 先程まで、火の<大魔将>が高火力の火属性魔法をバンバン撃ってきたせいで、熱せられた空気が、瞬く間に冷えていくように。


 そしてその冷気は霧となり、辺り一帯に広がっていく。


 『お、おい。この魔法......』


 『ええ。あの女騎士が使ってた水属性魔法です』


 そう、この魔法には見覚えがある。


 女騎士――アーレスさんが<魔軍の巣窟アーミー>の探索のときに使っていた魔法だ。


 その時は、倒しても倒してもどんどん湧いてくるモンスターを一掃するために使った魔法。


 今度の対象はモンスターの群れじゃない、あの【螺旋火槍】の山だ。


 そして敵は、数百にも及ぶ【螺旋火槍】の全てを僕らに目掛けて放つ。


 同時に、ドラちゃんも叫んだ。


 「――【霧衝】!!」


 瞬間、【螺旋火槍】は濃霧の中を突き進もうとするが、全て呑み込まれ、道半ばで不可視の斬撃によって両断されるのであった。


 ど、ドラちゃん、つっよ......。

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