第348話 <大魔将>

 「さて、どうやってあの<大魔将>を倒そうか」


 『ふぁ?!』


 『<大魔将>?! 苗床さん、今、<大魔将>と言いましたか?!』


 い、言いましたけど。


 現在、海上の上に降り立った僕は、トノサマリバイアサン戦よろしく、【冷血魔法:氷凍地】によって海上に足場を作った。


 賊どもの船を巻き込まないようにと、足場を作りながら魔族姉妹と会話する。


 海上には、船と同じくらいの大きさの火球が浮かんでいる。それが徐々に輪郭を歪ませながら、何かに変形しようとしていた。


 ......今、攻撃を打ち込んじゃ駄目かな?


 いや、これはお約束じゃないか。あの火球の変身を待たないと。ドラちゃんが目を輝かせてるし。


 ちなみにインヨとヨウイも船に置いてきた。二人の火力は半端ないけど、如何せんリーチが短いから、未知の敵相手に使うことが憚られる。


 それに必要な時は武具になってもらって、こちらに引き寄せることができるし。


 ロリっ子どもは観客席に居てもらおう。


 「二人は<大魔将>を知っているの?」


 『た、たりめーだろ!! 超強ぇー大悪魔だぞ!!』


 「え、マジ?」


 『悪魔......というか、魔界に住まうモンスターに近いですかね。<大魔将>は基本的に単一属性のみを扱います。あの感じからしたら、火の<大魔将>でしょうね』


 ドラちゃんの昔の記憶では、当時は水の<大魔将>を山奥で召喚しちゃったらしい。が、その時は山に住み着いていた山賊どもの虐殺のみで被害は止まり、ビスコロラッチさんが対処してくれたとのこと。


 で、その<大魔将>とやらは、各属性の使い手で、実力は頂点に達するほどらしい。


 要は、今回の件で言うと、火属性魔法のスペシャリストってところか。


 『あの、あなた、何か軽く考えてません?』


 「う、うーん。ごめん、ちょっとその節はあるかも。<大魔将>がどれくらい強いのかわかんないや」


 『トノサマリバイアサンより数段上だな』


 マージか。


 「か、勝てるかな?」


 『勝てる勝てないじゃなくて、やるんでしょう? あの子――パドランのために』


 うっ。そうだけど......。


 僕は気を引き締めるため、自身の両頬をパンッと引っ叩いた。


 「頑張るか! 二人とも、サポートお願い!」


 『ふふ。端からそのつもりです』


 『おうよ! まぁ、火の<大魔将>相手だと、あーしの魔法は役に立たないと思うがな!』


 「え、そうなの?」


 『ったりめーよ。つか、アイツに火属性魔法をぶつけたら、回復させちまうぞ』


 マジかよ......。


 『なので、火気厳禁です』


 『安心しろ、その分、【固有錬成】の使用に集中すっから』


 ということで、戦闘が開始となった。


 眼前の巨大な火球が一気に形状を変える。


 球体は大きな翼を生やし、鷲のような輪郭を見せた。しかしその鷲の尾は龍のように長く、靭やかで逞しいものを生やしている。


 なるほど、異形の怪物とは正しくこのことだな。


 まるで先程まで卵だったものが、一気に大型の鳥へと成長したようだ。


 火の<大魔将>は眼下の僕を見ろ押して、大きな嘴を開けた。


 『ギィエェェェェエエエエ!』


 「っ?!」


 耳を劈くような咆哮。思わず、両耳を塞いでしまったが、


 『鈴木! 後退しろッ!』


 「っ!!」


 妹者さんに従い、僕はすぐさま【固有錬成:力点昇華】で後方へ跳ぶ。


 すると、今しがた僕が居た足場に、図太い火の槍が数本、上から突き刺さっていた。足場となっていた【氷凍地】が一瞬で崩れる。


 おいおい。あんなの身体に食らったら、大穴ができて魔族姉妹の核を海に落としちゃうぞ。


 『とりあえず距離を取れ! 近接戦はまだすんな!』


 「了解ッ」


 『【螺旋氷槍】!』


 海上を足場を作りながら駆ける僕は、姉者さんが放った魔法を見届けた。


 【螺旋氷槍】は<大魔将>目掛けて飛来したが、着弾と同時にジュッと音を立てて蒸発した。


 『ちッ。大したダメージにもなりませんね』


 「多重系の魔法で高火力を狙うしかないか!!」


 『んな隙があればな!! おら次! 正面から来るぞ!!』


 そう妹者さんの忠告とほぼ同時に、火の<大魔将>は羽ばたきに合わせて、自身の前に唐紅色の魔法陣を展開した。


 そこから放たれたのは、炎からなる龍の頭――【紅焔魔法:火炎龍口】だ。


 そんな龍が大口開けて、僕を呑み込まんと、猛スピードでこちらへ向かってくる。


 「くそ!!」


 僕は真横へ跳ぶが、炎の龍は僕を捉えて離さない。進行方向を変えて、僕を追いかけてきた。追尾機能あんのか!


 慌てて【氷壁】を生成して、炎の龍の頭がそれと正面衝突した。その衝撃で海上は一気に荒れる。


 なんとか凌ぐことができたみたい。


 『おい! 後ろ!!』


 「っ?!」


 が、妹者さん言われて気づく。


 僕の後ろに、炎の龍の頭が三つ――全て【火炎龍口】だ。


 慌てて避けようとしたが、空中に居るので間に合わない。


 『【烈火魔法:爆炎風】!』


 しかし妹者さんが、回避が遅れた僕に対して、【爆炎風】を放って、強制的に宙に居る僕を移動させた。


 三つの龍の頭が僕が居た場所を過ぎ去る。その熱気だけで焼かれてしまいそうだが、なんとか耐えられた。


 「助かった!」


 『おう!』


 『苗床さん、相手は火属性の上級魔法を連発してきます。が、あの身体は炎でできていますので、魔力の塊みたいなものです』


 と姉者さんが、何か閃いたらしく、僕に提案してきた。


 『私の鉄鎖を当てれば、魔力を吸収しつつ、その分ダメージにもなって一石二鳥です』


 「なるほど。じゃあ、どこからでも鉄鎖を出せる姉者さんに、僕の身体を渡した方がいい?」


 『いえ、私ではあなたの持つ【固有錬成】が使えませんので、総合的に見てマイナスです。別の方法で行きます』


 「別の方法?」


 僕がそう聞き返すと、彼女は口から鉄鎖を吐き出した。やがてある程度の長さまで吐き出すと、ガキンと歯で噛み千切ってから言う。


 『今から私の全魔力を、この鉄鎖の耐久力強化に注ぎます』


 「なるほど、ね!!」


 僕は姉者さんの意図を察して行動に出る。


 火の<大魔将>目掛けて、海上を駆けた。


 姉者さんの狙いは、その極限にまで強度を上げた鉄鎖を、<大魔将>に巻き付けて、魔力吸収とさらなる耐久性の底上げを狙っているんだ。


 姉者さんはそんな僕に、若干弱気なことを言い始めた。


 『ただこれは賭けです。失敗したら、私の鉄鎖が一瞬で溶かされて、魔力を無駄にしてしまいます』


 「その時はその時だ!」


 火の<大魔将>はそんな僕に対し、まるで隕石のように火球の雨を頭上から降らしてきた。


 はは、笑えん。


 でも、僕にはまだ初見殺しがあるからね。


 僕はその火球の雨が直撃する直前まで引き寄せて――<ギュロスの指輪>の力を発動した。


 『ッ?!』


 魔力の塊に眼球なんてあるかわからないけど、僕が透明人間になったと同時に、敵は僕を見失ったらしく、【固有錬成:縮地失跡】が使用可能になった。


 瞬時にそれを発動して、僕は火の<大魔将>の真後ろに転移する。


 同時に、姉者さんの鉄鎖を眼前の敵に巻きつけるよう、思いっきり振るった。


 『ギェ?!』


 突如、自身に鉄鎖を巻き付けられたことに気づいた<大魔将>は、すぐに真後ろに居る僕の存在にも気づき、極太の【火槍】を放ってきた。


 トノサマリバイアサン戦の時もそうだったが、透明人間が通用するのは一瞬だけなのか。


 僕は【爆炎風】で回避しながら、海上に足場を造って降り立つ。


 『お、姉者の鉄鎖は溶けてねぇみたいだな!』


 『まずは第一関門突破です』


 姉者さんの魔力は空っぽ。有効打になりそうな氷属性魔法は使えない。巻き付けた鉄鎖から魔力を吸収したら、何かデカい魔法を使おうとしているみたいだから、ちょこちょこ魔力を使うのは憚られるな。


 妹者さんはまだ魔力に余裕はあるけど、相手を回復させるかもしれないので、火属性攻撃は使えない。


 僕の【固有錬成】のみで時間稼ぎできるかな?


 僕がそんなことを考えていると、


 『ご主人!!』


 「っ?!」


 <パンドラの仮面>からドラちゃんの声が聞こえてきた。


 「え、なんで仮面から聞こえてくるの? 仮面の中に戻ったの?」


 『いや、まだ船の中に居る! 仮面を通して話しかけているだけだ!』


 「そ、そう。今ちょっと忙しいから――」


 『やっぱり嫌だ!!』


 僕の言葉を遮って、ドラちゃんが叫ぶようにして言ってきた。


 『オレはただ見てるだけなんて嫌だ! 特等席はオレが決める! オレはご主人の隣に居たい!!』


 そして少女は自身の熱意をそのまま僕にぶつけてくる。


 『だからオレを使え!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る