第347話 ドラちゃんと合体

 「さてと、パドランの気持ちも確認できたことだし、今後について話し合おうか」


 『っ?! さ、“さん”を付けろよ!! 年上だぞ?!』


 「あーはいはい。


 『どら?!』


 「「ドラちゃん(笑)」」


 「話進めていい?」


 『こ、こんのぉ』


 と、仮面の中で、顔を真っ赤にしてそうな少女の様子を思い浮かべながら、僕は話を進めることにした。


 なんかドラちゃんをいじるの面白いな......。


 「ドラちゃんが外に出られるようにするのはいいとして......僕のこの石化、どうにかならないかな?」


 『それならオレがなんとかできるぜ』


 「「「え?!」」」


 『石化を解除する魔法使えるし』


 「それ先言ってよ?!」


 『うっ。わ、悪かったって』


 石化を解除する魔法があるのか......。いやまぁ、何かしら状態異常を回復させる魔法くらいあるか。


 聞けば、ドラちゃんは他にも色々な魔法を知っているみたいだ。


 『が、問題があるな』


 「問題?」


 『ああ。オレが異空間に居たままだと、の石化を解除できねぇ』


 「僕のこと、“ご主人”って呼ぶの?」


 『い、今はどうでもいいだろ、そんなこと』


 なんかドラちゃん、照れてる気がする。声だけしか聞こえないのに、手に取るようにわかるよ。


 「「つまり、パドランが外に出ないと、マスターに魔法をかけることができないということですか?」」


 『そういうことだな』


 みたいなので、ドラちゃんを異空間から出てもらうことが最優先事項となった。


 で、だ。ドラちゃんを外に出すにはたしか――


 「【融合化チェック】しないと無理か」


 『おう』


 「僕、【融合化チェック】というのが何なのか理解してないんだけど」


 「「パドランとマスターが合体することを指します」」


 『うおい! 勘違いされるようなこと言うんじゃねぇ!!』


 ドラちゃん、苦労人臭がするな......。


 そんな彼女は軽く咳払いしてから言った。


 『正直、オレも一回しかしたことねーから、上手く説明できねーが......』


 「「「が?」」」


 『その、えっと......』


 僕らは彼女の続く言葉を待っていると、ドラちゃんはなにやらゴニョゴニョと口ごもる様子で言った。


 『ご、ご主人とオレが強くか、かん、かかか感じ合えば、できる......と思う』


 「「わーお」」


 その、そういうことは、できれば恥ずかしがらずに言ってくれませんかね。かなり危うい発言だと思いますよ。


 「強く感じ合うってなんだろ」


 「「二人同時に“イク”ということでしょうか」」


 「ちょっと君ら黙ってようか」


 『た、互いの望みを共感......いや、共鳴させる感じって言えばいいのかな? たぶん』


 なるほど。まぁ、ドラちゃんも一回しかしたことないって言ってるから、ほぼ未経験者みたいなものか。


 よし、そうと決まればさっそくやってみるか。


 「とりあえず試してみようか」


 『よっしゃ。気張ってこーぜ!』


 という男口調なドラちゃん。僕はそんな彼女の望みをイメージすることにした。


 たぶんだけど、【融合化チェック】は互いの欲望を強くイメージすることが重要に思える。


 ドラちゃんの望みは――僕と一緒だ。


 ――この世界の生活を謳歌すること――


 そう心に強く思い浮かべた瞬間だ。ドクンと心臓が跳ね上がったように、一際大きく脈を打った感じがした。それから胸に込み上げてくる熱い何かと共に、パドランの望みが僕の中に流れ込んでくる。


 パドランの望みは僕の望みで、僕の望みもパドランの望みで――。


 そして互いの望みを確かめるように、僕はパドランと一緒に、自然と次の言葉を発していた。


 「『【融合化チェック】』」


 これは頭に浮かんだ言葉だ。いや、合図に近い。


 この合図を口にしろと、何かが僕に訴えかけている気がした。続く言葉もはっきりしている。


 「“真名を示せ”――」


 そう静かに、仮面の中に居る少女に呼びかけると、彼女は答えてくれた。


 『“我が名は<>。世に災厄を解き放つモノなり。汝の望みを示せ”――』


 パドラン――いや、パンドラが幾分か低くなった声音で、僕の望みを聞いてきた。


 「“望みは”――」


 僕の理想とする異世界生活。


 つまり――。


 「“自由”」



******



 ズドンッ。


 【融合化チェック】が完了し、成功を確信した次の瞬間、僕の仮面から何かが解き放たれた。


 それはここが船の中にある倉庫という狭い空間に止まらず、部屋の壁を突き破り、船の外装を破壊し、外へと突き進んでいった。その破壊しつくされた眼前の光景に、僕は目をパチクリとさせていた。


 ここから覗ける外の景色はオレンジで一色だ。夕暮れ時なんだろう。


 船内に居る賊どもの、急な衝撃と破壊音に慌てふためている様子が、喧騒となって聞こえてきた。


 そして、


 「あいた?!」


 聞き覚えのある少女の声が目の前から聞こえてきた。


 そこに居たのは――見たこともない少女だ。


 砂色の長い髪。いや、長いなんてもんじゃないな。毛玉みたいだ。


 その髪の隙間から垣間見える牡丹色の瞳がまるで宝石のように綺麗だった。少女の華奢な身体は、首から下は石化している僕の下腹部の上にある。


 もしかしてこの子が――


 「ドラちゃん?」


 今しがた【融合化チェック】を終えた、<の仮面>本人だ。


 ドラちゃんは下敷きにしている僕を無視し、辺りをキョロキョロと見渡して、バッと立ち上がった。それでもってバンザイをする。


 「外に出れたー!!」


 「っ?!」


 「「わーお」」


 そして驚愕する。


 僕の真上で仁王立ちした少女は――全裸であった。透き通るような真っ白な肌は凹凸が乏しく、少女らしい華奢な身体をしている。


 ドラちゃんは真下に居る僕の視線に気づいて、一瞬理解が追いついてないといった感じで小首を傾げた。が、それも束の間。すぐさま自分が今どんな姿かを思い出す。


 「ぬわぁぁああ!!」


 その場でしゃがみ込んで、自身の起伏の少ない胸やら、毛も生えて無さそうな秘部やらを両手で隠すドラちゃん。


 顔は言うまでもなく、真っ赤っ赤である。顔から火が吹き出るとは、正しくこのことではなかろうか。


 勘弁してよ......。既にインヨとヨウイのせいでロリコン疑惑がかかってるのに。


 インヨとヨウイが気を利かせ、近くにあった敷布を持ってきて、軽く埃を叩いてから、ドラちゃんの背に掛けた。


 「なんで服着てないの......」


 「ち、ちがッ。これはえっと、その、偶々服を着ていなくて!!」


 「「パドラン、嘘は良くないと告げます。異空間でも全裸でした」」


 「へ、変態だったのか......」


 「ちっがう!! てか、ご主人に言われたくねぇー!!」


 と、とりあえず、あまり時間は無いみたいだし、細かいことは後で聞こう。


 「そもそもオレは武具であって、人間じゃないから、服を着るっつー習慣とか無くてだな――」


 「あの、とりあえず石化解いてくれません?」


 「......。」


 必死に言い訳してたドラちゃんが、そんな僕の言葉を受けて、ジト目になってこっちを睨んできた。


 いや、これから<大魔将>と戦うんでしょ。急いで準備しないと。


 ドラちゃんは仰向けになっている僕に、片手をかざして魔法を唱えた。すると、僕の首から下が徐々に元の色を取り戻していく様が見えた。


 「おお!!」


 「「ところでマスター、仮面の形状が変わっていると告げます」」


 という、インヨとヨウイに言われたことを気にしてみると......本当だ。


 今まで<パドランの仮面>は仮面舞踏会で着けてくような、目元だけを覆うような形状だったが、<パンドラの仮面>になってからは、顔全体を隠すようなお面みたいになっている。


ちゃんと口の部分は可変するらしく、顎に仮面下部が着いてると言った感じで、普通に食事ができそう。


 少し形状が変わったのか。詳しくは鏡を見ないとわからないけど、角張った感じは今まで通りゴツゴツしていて、最高に厨二心を擽られる。


 「ふふ。最高に格好良いね」


 「っ?!」


 「「不気味な気がします」」


 これだから素人は......。


 ほら、そこに居るドラちゃんを見てみ。褒められて照れてるよ。


 『どぅあお?! へ? こ、ここはどこだ?! あのドS女は?!』


 『ここは......苗床さん、説明できますか?』


 すると、石化していた両手が元通りになって、魔族姉妹が覚醒したことに気づいた。


 二人は石化していた間の記憶が無いみたい。


 僕が端的に説明すると、彼女たちは二つ返事で応じた。


 『かか! 詳しいことはわかんねーが、要はあの化け物を倒せばいいんだろ!』


 「そ」


 『まったく......。あなたはなんでこう、予想の斜め上の事態に陥ることが多いんですかね』


 知りませんがな。


 完全復活した僕は、眼前の開けた景色の前に立った。


 少し離れた海上に、先程、僕の仮面から解き放たれたと思しき化け物――<大魔将>が浮かんでいる。


 見た目は大きな火球だ。今乗っている船と同等くらいだろうか。綺麗な球状なんだが、徐々にその輪郭が波打って変形している様子が見受けられる。


 あれ、ドラちゃんから聞いていた<大魔将>とは違うな。彼女の記憶では、水属性の化け物って聞いてたけど、海上のアレは見るからに火属性だ。


 まぁ、いいか。


 「ご、ご主人ッ」


 すると、背後からドラちゃんの心配そうな声が聞こえてきた。


 僕は振り返らず、背を向けて言った。


 「僕は大丈夫だよ。それより、せっかく外に出れたんだ。まずは手始めに、特等席で僕の最高に格好良い戦闘シーンでも眺めてて」


 「っ?!」


 『うッ、背筋がゾワッとしました』


 『鈴木、あんまそういうこと言うのやめろよ』


 などと、魔族姉妹からブーイングを受けてしまった僕である。


 たしかにドラちゃんの顔赤いし、聞いてて恥ずかしくなったのかもしれない。


 でもここで格好つけないと、いつやるんだよって話。


 「よし、最初から飛ばしていくよ、二人とも」


 『かかッ。クールにいこうぜぇ!』


 『ふふ。燃えてきましたね』


 斯くして、僕は<大魔将>と戦うのであった。

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