第342話 初対面のロリに罵倒される件

 「これからどうしよ......」


 現在、僕はとある船の中にある倉庫に居ます。


 首から下は石化した状態のままで。


 そしてその船は航海中です。


 「マスターはこれから私たちと末永く、そして仲良く暮らすのです」


 「子供は十人欲しいです」


 「いや、君たちは子供作れないでしょ。武具なんだから」


 などと僕が言ったら、きっと姉者さんは『子供作れたらヤるんですか』ってツッコんで、妹者さんが『このペド野郎』って罵ってくるはずだが、僕の両手は静かなままだ。


 それもそのはず、二人は口を移動させる前に、石化してしまったのだから。


 ツッコミ役が居ないと、ただただロリっ子にセクハラする空間と化すぞ、ここ。


 「「マスター、暇です」」


 「......。」


 こいつら、主が石化してるっていうのに呑気だな......。


 で、なんで僕がこんな所に居るのかというと、それはレベッカさんの手配によって、僕の懸賞金、白銀貨一枚を得ようとする賊共が僕の身柄を帝国に渡そうとしているのだ。


 この“賊共”というのがポイントで、船の中に居るのは一般人じゃないのだ。


 そりゃあそうだ。こんな石化した上に、変な仮面付けて、錆びついた首輪をしている奴、ナエドコかどうかわからないもんね。


 だから一般人相手に輸送依頼すると時間がかかると見たのか、レベッカさんはそれなりに顔の利く賊共に、僕の発送を依頼。


 きっと彼女は時間がかかりすぎると、今回の件で僕の仕事仲間であるミーシャさんたちに勘づかれると見たに違いない。最悪だわ。


 とまぁ、そういう訳で、賊共はレベッカさんを信用して、僕を運べば大金が手に入るという関係が成り立ってしまった。


 ちなみにインヨとヨウイはそのおまけと言わんばかりに、同じ倉庫に放り込まれた。


 「困ったなぁ。この石化、いつまで続くんだろ」


 「「マスターが一生石化したままでも、私たちはずっと一緒です」」


 さらっと怖いこと言うな。


 まぁ、さすがに帝国に戻って皇女さんに頼み込めば、なんとかしてくれると思うけど、なんだか振り出しに戻る気がしてやるせない。


 どうしたものか、と悩んだ挙句、僕はあることを思いついた。


 「パドランさん」


 <パドランの仮面>に話しかけることにした。何か解決策は無いかと聞いた次第である。


 インヨとヨウイは既にパドランさんと対面したことがあるらしく、この仮面が“有魂ソール”持ちであることは判明している。


 「パドランさん、ねぇ、パドランさんってば」


 が、何度呼びかけても反応は無かった。


 僕はインヨとヨウイに聞いた。


 「ねぇ、パドランさんは居るんだよね?」


 「「秘密にしろと言われているので、言えません」」


 「居るんだね、わかった」


 ということなので、絶えず呼びかけることにした。


 が、しばらく続けても全く反応が無いので、インヨとヨウイを<パドランの仮面>の力を使い、異空間へと送り込んだ。


 二人の少女に対応を任せよう。そう思った僕だが、


 「「追い返されました」」


 「......。」


 二人はすぐに帰ってきた。


 僕、パドランさんに何かしたっけ? 嫌われてる? もしくは厄介ごとには関わりたくないとか?


 「僕、嫌われているのかな......」


 「「いえ、パドランはマスターのことを好ましく思ってます」」


 『うおい! 滅多なことを言うんじゃねぇ!!』


 え゛。


 思わず心の中で、間の抜けた声が漏れてしまった。


 少女特有の高い声だが、明確な怒気を孕んでいた。その声は以前聞いたことのある声で、パドラン本人のものだと察する。


 あれ、インヨとヨウイが異空間の中から僕に話しかけてくるときは、脳内に直接声が響くような感じだけど、今の少女の声は仮面そのものから聞こえて、耳に届いたぞ。


 まぁ、いいや。


 『あ、やべ』


 「「釣れました」」


 なにこいつら、怖い......。はめたの......。


 と、とりあえず話しかけるか。


 「パドランさん」


 『......。』


 「なんで無視するんですか」


 『......うるせ』


 お、反応があったぞ。


 「あの、僕はギワナ聖国に戻らないといけないんですが、この石化を解除する方法知りません?」


 『知らん』


 おお! 間髪入れずに返事を返してくれたぞ!


 塩対応だけど、なんか嬉しい。


 「そこをなんとか......」


 『なぁ』


 すると、どういう訳か、パドランさんから声を掛けられてしまった。


 『ご主じ――お前はいったいなんなんだ』


 な、なんなんだと言われましても......。


 そんな戸惑いを見せる僕に、パドランさんは続けた。


 『どんな事態に陥ってもヘラヘラして面白がってよ。気持ち悪い』


 「......。」


 初対面の相手に罵られたんですけど......。


 『さっきだって大切なもん奪われたっていうのに、平気な顔して......。まともに戦いもしねぇー』


 「な、なんかごめん......」


 『仮面オレを着けたときもそうだ。死ぬまで外れねぇーんだぞ? なにさらっと流してんだ。普通はもっと嘆くだろ』


 「いや、外そうと思えば外せるし......」


 『こ・ん・な! 不気味な仮面の何が良いんだ?!』


 「普通に恰好良くない?」


 などと、僕が返すと、


 『ああー!! もう! 調子狂うなぁ!!』


 そんなパドランさんの怒鳴り声が倉庫内に響く。


 なにこの人、怖い。


 『お前はいったいなぁにがしたいんだ?! ああ?!』


 と、ヤクザ口調で問い詰めてくる仮面さん。声音が少女のそれだから、ちっとも怖く感じないけど、怒ってるのがよく伝わってくる。


 とりあえず、聞かれたことには素直に答えよう。


 「ぼ、僕はただこの世界が好きなだけですよ」


 『..................は?』


 あ、これ答えになってないや。パドランさんから、何言ってんだこいつ、という感じの反応が返ってきたし。


 僕は補足するよう説明した。


 「あ、いや、その、言葉にすると難しいんですが、全部が楽しい......というか、面白いというか......そういう日々を送りたいだけなんです」


 『全く意味わからん』


 で、ですよね......。


 「こう言ったら変に思われるかもしれませんが、ぶっちゃけ女神の片足なんて大層なものを奪われても、すごく悔しいって気持ちがある程度です」


 『た、頼むから、人語を話してくれ......』


 「「マスターの言語能力が損なわれたと告げます」」


 「損なわれてないから。なんて言えばいいのか。......ああ、そうだ」


 『?』


 僕はインヨとヨウイを見つめながら言った。彼女たちが以前口にしていた言葉を思い出し、今度は僕がそれを言う。


 「いつか目的を果たせばいい――夢を叶えればいい」


 『っ?!』


 「大切なものを奪われても、こうしていつ死ぬかわからない状況に陥っても、全部巻き返してハッピーエンドを掴み取る。そして今はその過程に過ぎない」


 『......。』


 「最後に笑ったもん勝ちってやつですかね。だから僕は、僕が描いた理想の生活をこの世界で送りたい」


 『......。』


 「ロマン溢れる魔法やまだ見ぬ大自然の絶景、興奮が絶えない冒険......それらを感じられるこの世界が堪らなく好きだ」


 そう一頻り僕が言い終えると、パドランさんは呟くようにして言った。


 『......だって』


 「「「?」」」


 その声は決して大きくなかったが、ちゃんと耳に届いた。


 『オレだって......自由に生きてぇ』


 そう、彼はどこか辛そうに言うのであった。

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