第341話 本気じゃないから怒られる
「なんで首から上は石化させなかったかわかる?」
「......僕とキスするためですかね」
「この状況でよくそんな強がり言えるわね」
すみません。
現在、僕はレベッカさんの攻撃を受けて、石化という状態異常の一種にかかっていた。読んで字の如く、身体が石になっちゃったのである。
普段ならこういう状態異常も妹者さんの【固有錬成:祝福調和】によって、一瞬で直すことができるんだけど、その妹者さんが口を移動させる前に、石化しているから無理だ。
で、首から下は石化している僕は、直立不動になっていた。
にしても石化って謎だな......。首から下は石になっているはずなのに、普通に呼吸できるくらいには臓器が機能している気がする。
「スー君、これが最後よ。......お願いだから、女神の片足を渡して」
レベッカさんはそんな僕に歩み寄りながら、そう言ってきた。
きっとレベッカさんは、教会の連中が女神の片足を使って何をしているのか知っているんだ。それも絶対人には言えないやつを。
決して正しいとは言えないその行為が、おそらく何かしらの理由で聖女さんの為になると思っているから、こうして僕から女神の片足を奪い返そうとしているのだろう。
でも、
「僕は......姉者さんの願いを叶えたい。できることなら、レベッカさんにも協力したい」
「だったら――」
「でもそれは、レベッカさんの言いなりになることとは違います」
「......。」
僕の言葉に、レベッカさんは黙り込んだ。
しかしそれも束の間。彼女は鞭を両手で張ってから口を開く。
「わかってるの? スー君の中に居る魔族は石化してて動けないのよ? このまま私があなたの首を刈れば終わりよ?」
そう僕を試すように、真っ赤な鞭を見せつけるレベッカさん。僕はそんな彼女をただじっと見上げていた。
「......そう。異空間に女神の片足があると言っていたわね。死なないと外せないというその仮面、スー君を殺してから取り出せるように考えるわ」
そしてレベッカさんは震える手を押し殺して、鞭を振るおうとした――その時だ。
「「待ってください!!」」
どこか聞き覚えのある声と共に、僕の前に何者かが現れた。
二人の少女だ。見知ったその少女たちは――インヨとヨウイだった。
*****
「あわわわ! マスターが! マスターが死んじゃいます!」
「あわわわ! マスター、死なないでください!!」
「......。」
ここ、<パドランの仮面>の異空間にて、インヨとヨウイは外界の様子を見て慌てふためいていた。
少女二人の頭上には、外界の様子を示す映像が浮かんでいる。
今しがた、鈴木はレベッカの攻撃によって、首から下が石化してしまった光景が広がっていた。
パドランは胡座をかいたまま、そんな白と黒の少女の慌てふためく様を眺める。
「「パドラン!!」」
「......。」
そして藁にも縋る思いで、パドランを見つめてくる少女たち。
パドランは深い溜息を吐いてから口を開いた。
「知らん」
「「な?!」」
パドランの素っ気ない返事に、すぐさまインヨとヨウイは詰め寄った。
少女らしからぬ、相手の胸倉を掴み上げるというかたちで。
「このままだとマスターが死んじゃいますよ?!」
「マスターが死んでもいいのですか?!」
「ぐ、ぐるじぃ」
パドランは少女たちの手を振り解き、涙目になりながらジト目で睨む。
「う、うるせぇな」
「見損ないました! パドランはマスターのことを大事に思っていないのですか!!」
「マスターの手料理を食べてみたいとか言ってたくせに!」
「うおい! 滅多なことを言うんじゃねぇ!!」
やや騒がしくする見た目少女の武具たち。
ああだこうだと言っている間に、レベッカが鞭を持って、自分たちの主の下へ近づいてくる様子が、映像に映し出された。
「「ああー!! マスター!!」」
インヨとヨウイの、耳を劈くような叫び声に、パドランは両耳を塞いだ。
そんな白と黒の少女が絶望した様子を目の当たりにして、パドランは小さく呟いた。
「ったく。だったら渡しちまえばいいだろ」
「「?」」
「これだよ」
そう言って、パドランはどこからとなく、女神の片足を取り出した。それは布に包まれていたが、聖女シスイから預かった代物である。
それを敵に渡してしまえばいいと、パドランは告げたのだ。
「「おお! パドラン天才です!」」
「でもいいのか? ご主人はこれを敵に渡したくなかったんだろ? 望んでないぞ?」
「「知りません!」」
「え、ええー」
パドランは困った顔を見せた。
しかしインヨとヨウイは戸惑うことなく言ってみせる。
「「いつか夢を叶えればいいんです!!」」
「......。」
そんな二人の力強い言葉を受けて、パドランの脳裏にとある記憶が過った。
――――いつかオレの夢を叶えてくれる誰かに会いたい――――
儚い希望だ。遠い昔の、決して叶わぬ夢。
「「パドラン?」」
「......なんでもねぇ。外に出すぞ」
「「はい!」」
パドランはインヨとヨウイを外界に出すのであった。
******
「「待ってください!!」」
突如、インヨとヨウイが、石化して動けない僕の前に現れた。
え、なんで? あ、以前言ってた、<パドランの仮面>から自由に出られる件か。それを成すためには、実は“
またレベッカさんもインヨとヨウイの登場に、目をパチクリとさせている。
そして二人の少女は、互いの両手にあるものを抱えていた。
それは――女神の片足だ。
僕は思わず声を上げてしまう。
「ちょ、二人とも!」
「「マスター、黙っててください!」」
え、ええー。
しかし二人はかまわずレベッカさんに告げた。
「これは差し上げます!」
「だからもうマスターには手出ししないでください!」
「......。」
レベッカさんは二人の少女から、女神の片足を受け取った。そして僕を見やる。
「......いい子たちね」
と言われましても......。
それからレベッカさんは鞭を纏めて、腰に携えた。もうこれ以上戦う気は無いらしい。彼女は僕に背を向けたまま言ってくる。
「石化は解除しないわ。その状態で船に乗せるから、この国を発ってちょうだい」
「え?」
「安心なさい。懸賞金、白銀貨一枚に相当するスー君よ。あなたの身柄は賊共に渡すから、それで帝国まで行きなさいな」
そう言い残し、彼女はこの場を後にした。
ちょ、え、僕、このまま売り飛ばされるの?!
たしかに国家規模の指名手配犯で、帝国は僕の身柄を確保すれば、白銀貨一枚に色を付けて報酬を出すと宣言してたから、手荒な扱いはされないと思うけど......。
じゃあなに、このまま僕は皇女さんと再会しないといけないのか。
首から下、石化した状態で?
あの感動的な別れはなんだったの?!!
「「マスター!」」
すると、僕がそんなことを考えていたら、白と黒の少女たちが、石化した僕に勢いよく飛びついてきた。
ちょ、壊れないと思うけど、丁重にね?
僕は二人の少女を責めることにした。
「ふ、二人とも、なんであんな勝手なことを――」
と、問い質そうとした、その時だ。
二人は両の瞳に、大粒の涙を浮かべて、僕を見上げていた。
「なぜ勝手に死のうとしているんですか?!」
「私たちを置いてかないでください!」
「そ、それは......」
「【闘争罪過】や【害転々】を使わなかったのは、なぜですか?!」
「マスターならもっと上手く戦えたはずです!!」
「うっ」
「「死んだら嫌です。......マスターともっと......ずっと一緒に居たいです」」
「......。」
見た目相応に泣きじゃくる二人を見て、僕は何も言えなかった。
たしかに早計だったな......。そう思う僕は、深い溜息を吐くのであった。
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