第339話 リベンジマッチは図らずも

 「な、なるほど。僕の生首が捨てられていたんですか......」


 「ええ。最初は見間違いかと思ったけど、よく見たら本物そっくりだし......」


 現在、僕はレベッカさんと一緒に街の中を歩いていた。


 彼女は先程まで、大聖堂付近の墓地に居て、許可された場所に穴を掘って鈴木二号の首を埋めていたのである。


 まさか自分の首が埋められる所を見る日が来るなんてな......。


 で、レベッカさんの話によれば、鈴木二号の生首を発見した当時は特に何もされることなく、放置されていたとのこと。


 ガープンめ、人の首をいったいどこに捨てやがった。


 「でもスー君が生きてて本当によかったわぁ」


 「あ、あはは」


 「あれってスー君そっくりだったけど、偽物?」


 「ええ。まぁ、一応。知り合いに頼んで作ってもらった次第です」


 なんか物みたいな扱いで鈴木二号には申し訳無いけど、致し方無い。レベッカさんに詳細を話すのも気が引けるしな。


 あの闇組織二人組との関わりを、レベッカさんにまで広げる必要は無いのだ。


 「ふーん? まぁ、詳しいことは聞かないけど」


 「ありがとうございます」


 「ふふ。最初は本当に焦ったのよ? スー君の訃報をロトちゃんやアーちゃんに知らせなきゃって右往左往しちゃって。でもその前に埋葬しなきゃとか色々考えたわ」


 「な、なるほど。それは申し訳ないです」


 「とりあえず、生臭かったし、虫も集っちゃいそうだったから、防腐する魔法をかけたのだけれど、それも無駄になったわね」


 防腐する魔法とかあるんだ。すげぇ。


 「「......。」」


 そして、しばらく世間話感覚で会話していた僕らだが、ある時から静かになってしまった。何かがきっかけで沈黙しているのではない。自然とこうなったのである。


 無論、お互い話す内容が無くなった訳じゃない。


 話せる内容が無いのだ。


 少なくとも僕はそうだ。


 レベッカさんと別れてから、聖女さん絡みで大事に巻き込まれて、闇組織に協力して、聖女さんを護衛して......。


 こんなの、レベッカさんに言える訳が無い。いや、レベッカさんに限った話ではないな。


 そしてそれは相手も同じだ。


 きっと僕が聞いても答えてくれない。


 そう思ってしまったのは、色々とレベッカさんと話した際に、気づいたことがあるからだ。


 いくらガープンがその辺に鈴木二号の生首を捨てたからって、それをレベッカさんが発見するのはおかしい。偶然の域を超えている。


 そしてガープンが鈴木二号の首を持って行った先は明白だ。大聖堂の地下――教会の裏の連中が潜む場所である。


 『おい、鈴木』


 『苗床さん』


 魔族姉妹もどうやら僕と同じ考えのようだ。真面目な雰囲気で、僕の名前を呼ぶから、きっとそうに違いない。


 そして二人はレベッカさんに聞こえないように、例の魔法で自分たちの声を隠しているんだろう。


 もう二人は警戒しているんだ――今まで一緒にやってきたレベッカさんのことを。


 ......嫌だな、こういうの。


 「レベッカさん――」


 「スー君」


 僕は沈黙が堪え切れず、ついレベッカさんを呼んでしまったが、続く言葉を遮られてしまった。


 レベッカさんは苦笑しながら言った。


 彼女も僕と同様、色々と察したのだろう。


 なぜ僕の複製体が存在するのか。


 なぜその複製体が教会の連中によって殺されたのか。


 なぜ透明人間になって、大聖堂内に居たのか。


 頭が切れるレベッカさんのことだ。もうほとんど勘づいているのだろう。


 だから彼女はどこか辛そうに言うのだ。


 「先日、私がすっぽかしたデート、今からしましょ」


 「......。」

 

 ああもう......嫌な予感ほど当たるんだよなぁ、くそ......。



*****



 「ねぇ、スー君。単刀直入に聞くわ。女神の片足について何か知っているでしょ」


 「......。」


 現在、僕はレベッカさんと一緒に、海岸沿いに来ていた。辺りは街灯一つない、人の気配すら感じない場所だ。ただ月明かりだけが僕らを照らしている。


 日没までには、聖女さんの下へ戻るって言ったんだけど、どうやらまだ戻れそうにない。


 なんせデート相手のレベッカさんが、僕を帰してくれないのだから仕方が無いのだ。ちくしょう。全然喜べないよ。


 「女神の片足? なんのことでしょう?」


 とりあえず、ダメ元で白を切るか。


 「お姉さんには、嘘は効かないと思った方が良いわよ?」


 「......。」


 うん、ダメみたい。


 仕方ない。


 「知っている、と言ったら、どうしますか?」


 「......。」


 途端、レベッカさんが視線を鋭くして僕を睨んだ。


 「正直に教えてくれないかしら?」


 口調こそ穏やかだが、視線に含ませた冷徹さは、殺気さえ感じるほど剣呑だ。


 レベッカさんは本気なんだ。


 でもそれはこっちも同じなんだよ。


 僕がこの世界に来てから一番世話になった魔族姉妹――姉者さんの為に、妥協はできない。


 「......ごめんなさい」


 「......そう」


 僕が謝ると、レベッカさんはそれ以上何も聞いてこなかった。


 代わりに腰に携えていた真っ赤な鞭を手に取る。


 「スー君の事情はわからないけど、きっと譲れないのよね......」


 「......はい」


 僕はそう短く返答し、両手にそれぞれ炎と氷からなる剣を手にするのであった。

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