第338話 大天使と聖女
「その首......』
大聖堂地下にて、アデルモウス枢機卿に連れられてこの場にやってきたレベッカは、<
そして床に転がっている生首を目にして驚愕した。
なにせその首は――鈴木の生首そのものだったからだ。
途端、この地下空間に剣呑な雰囲気が漂う。レベッカを中心に冷気さえ感じるような空気が広がり、場が殺気で満ち溢れた。
「っ?!」
「ほう......」
「......。」
それを受けた<
そんな三人を他所に、レベッカは悠然と歩み出した。
一歩、一歩、また一歩。ヒールが石造りの床を小突く音だけが響く。
<
「スー君......」
そしてレベッカはくしゃりと顔を歪めて、腕の中にある鈴木の生首を見つめた。その眼差しは大切な仲間の死を嘆くように、悲哀に満ちている。
「アデルモウス、スー君......<
レベッカのその問いに、アデルモウスは視線をガープンに向けたが、その視線の先はレベッカは見ていない。ただ生首を見つめているだけである。
アデルモウスは黙考した後、答えた。
「誰だろうな」
「今、この場で全員、殺してもいいのよ」
「はッ。それができる立場か?」
レベッカの脅しとは思えない物言いに、アデルモウスは怯むどころか、どこか挑発するように返した。
「貴様はここへ何しに来た? 知人の敵討ちか? 違うだろう」
「......ちッ」
「依頼だ。レベッカ、ここから女神様の御御足を奪った者が居る。おそらくどこかの組織の仕業だろう。その正体を暴くこと、及び女神様の御御足を持ってこい」
「......。」
アデルモウス枢機卿の言葉に、レベッカは何も返さず、この場を立ち去ろうとした。レベッカはアデルモウスの横を通り過ぎる際、ぼそっと呟く。
「変わったわね」
「......これが本当の私だ」
その言葉を最後に、レベッカは女神の片足を盗んだ者を追跡するのであった。物言わぬ、鈴木の首を抱き抱えて。
*****
『調査するためにも、シスイちゃんの安全は確保したいって訳か』
現在、僕は聖女さんと一緒に、日の出の頃合いで、大天使ガブリエールの石像がある部屋に来ていた。
本日のロリ天使は、先日と違って姿を見せてくれない模様。石像から少女の声が聞こえてくるという摩訶不思議な現象が発生していた。
で、ここに来た目的は昨晩、聖女さんからの提案を採用したからである。僕が留守の間、ロリ天使さんに聖女さんを守ってもらうためだ。
聖女さんは周囲に怪しまれないよう、この部屋の掃除をするという名目で、半日ほどここに居てもらいたいので、ロリ天使さんに彼女の護衛をお願いしている次第である。
まぁ、僕が護衛してから今までに、聖女さんに近寄ってくるような怪しい人物は居なかったけどな。
強いて言えば、僕の方がよっぽど危ない人間かもしれない。
自分で言ってて悲しくなってきた。
「ガブリエール様、どうかお力をお貸しください」
「ガブちゃん、お願いします」
『ねぇ、大天使様に向かってガブちゃんって言った? 聞き間違いかな? かな??』
す、すみません。いつもの悪ふざけです。
しかし寛大なロリ天使はこれ以上問い詰めてくることなく、僕らのお願いに応えてくれた。
『まぁ、それくらいならお安い御用だよ。好きなだけここに居てくれたまえ』
「っ!! ありがとうございます!」
ロリ天使に許可をいただけたことで、聖女さんは大喜び。
よし、ロリ天使さんの実力はわからないけど、なんか教会の裏の連中は邪悪な者って感じがするし、大天使ガブリエールの力があれば余裕でしょ。
「では、後のことは頼みますね。日没までには帰ってくると思います」
『じゃあね~』
「はい。お気をつけて」
ということで、僕は心置きなく大聖堂を後にすることができるのであった。
*****
「あれ、あそこに居るのって、レベッカさんじゃない?」
『んぁ? ほんとだ。何してんだ、あいつ』
『さぁ? というか、よくあんな遠くに居る人が、見ただけで誰だかわかりますね』
「うん。レベッカさんのシルエットというか、身体のラインは把握しているから」
『さらっとキショいこと言うな』
『いちいち鳥肌立つようなことを言わないと気が済まないんです?』
どいひ。正直に言っただけなのに。
大聖堂から出た僕は、街へ向かう途中で近隣にある墓地を突っ切っていたのだが、その道中で見知った人物を発見した。
ブロンドヘアーが特徴のレベッカさんである。タイトドレスに身を包め、相変わらずえっろい身体してる。結構距離があるのだが、ひと目見てわかったね。ぐへへ。
僕はレベッカさんの方へと向かった。
レベッカさんはスコップを手にして、何やら土を掘っていた。
「『『は、墓荒らし......』』」
僕と魔族姉妹が同じ言葉を口にする。
レベッカさんは墓地の端、空いたスペースの土を掘っていた。
こ、ここ墓地だぞ。レベッカさん、なに土掘ってんの。お金にはがめつい人だと思ってたけど、まさか墓を荒らして金目の物を狙うなんて......。
正直、そこまで切羽詰まってるのかと不安になってしまう。
が、レベッカさんに近づくにつれ、彼女がなにやら泣いていることに気づいた。
「ひっぐ......ごめんなさい......スー君、ごめんなさい......私がちゃんと傍に居てあげれば、死なずに済んだのに......」
え? 僕? 死なずに済んだ?
どういうことかと思いつつ、彼女の足元にあるモノを目にして、僕らは間の抜けた声を漏らした。
「『『あ』』」
レベッカさんの足元には、僕の生首があった。
正確には、ミーシャさんの【固有錬成】によって複製した鈴木二号の、だな。
なんでレベッカさんが持ってんの。たしかガープンって奴に、死体を持ってかれた気がするんだけど。
ちょっと理解が追い付かないので、レベッカさんに話しかけようと思った。
「スー君......童貞のまま死なせちゃって......ごめんなさいね」
なんか泣きながら、とんでもないこと言ってるし。
気遣っての発言だろうけど、できれば死体に対して、懺悔するように股間事情を吐露するのはやめてほしい。聞いてるこっちが悲しくなるわ。
「あの、レベッカさん」
「っ?!」
僕が声を掛けると、レベッカさんは驚いた様子で辺りを見渡した。
そしてすぐ自身の足元にある鈴木二号の生首を見て言う。
「き、気のせいかしら? 今、スー君の声が聞こえた気がしたのだけれど......」
今の僕は透明人間だからか、まだ気づいていないらしい。
すると彼女は鈴木二号の生首を持ち上げて言った。
「やっぱり童貞のまま死んじゃったから、未練が残って成仏できなかったのね......」
「おいこら、さっきから童貞童貞うるさいぞ」
「ひゃ?!」
さすがに黙って居られなかった僕は、<ギュロスの指輪>の力を解除して、レベッカさんに自身の姿を見せつける。
レベッカさんは急に現れた僕に驚いて尻もちをついてしまった。
彼女は目をぱちくりとさせて、僕を見上げる。
そして口を開いた。
「ゆ、幽霊?」
「いや、生きてますって」
斯くして、先日、デートをドタキャンしてきた相手と僕は再会するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます