第337話 大天使公認! 聖女の護衛!

 「さて、まずは大聖堂の地下を調べるにしても、聖女さんの一日のスケジュールを把握しないと動けないよね。いつ身を清めるんです?」


 『欲求を直球させんな』


 失礼。


 現在、聖女さんの日課である<善なる極光>を浴びた僕らは、大聖堂内部になる女神様の石像の前でお祈りをした後、朝食をいただくため食堂に来ていた。


 無論、僕は透明人間だから、食事はできない。魔族姉妹や<パドランの仮面>の中に居るインヨ、ヨウイも同じだ。後者のロリっ子どもに至っては、先程までそのことに対してブーイングを食らっていたが、急に大人しくなった。


 おそらく<パドランの仮面>の中で、“有魂ソール”持ちらしいパドラン本人から餌付けでもされているのだろう。


 鈴木二号の件で<パドランの仮面>が“有魂ソール”持ちということは発覚したからね。なぜか僕との意思疎通は拒否されてるけど。


 まぁ、そのことは追々考えよう。急ぎの件じゃないし。


 「えっと、この後は担当箇所の清掃をします」


 と、僕の前の席にいる聖女さんが、朝食のパンを千切って食しながら、周りの人には聞こえないよう静かに答える。


 意外だ。こういうお堅い場所って、一言も発することなく黙って食事すると思っていたんだけど。いや、僕から話しかけといて悪いんだけどさ。


 無論、この場には聖女さん以外の修道女が食事をしている。皆、食事できることに感謝や祈りを捧げた後、静かに食事しているのに、だ。


 僕がそんな風に疑問に思っていると、何やら察した聖女さんが苦笑しながら言った。


 「意外でしょうか? 本来は他の方と同様、静かに食事をしなければなりません。聖女という立場ならば、お手本となるよう尚のこと」


 「決まりなのでは?」


 「はい、ルールです。が......」


 そう言い欠けて、聖女さんは照れくさそうに口を開く。


 「だ、誰かとお話ししながら、食事することに憧れてまして......つい」


 おう、なんだこの可愛い天使は。


 結婚してくれないだろうか。


 まぁでも、聖女というのはこの教会ではシスイさんしか居ないみたいだから、何かと寂しい思いをしているのかもしれない。


 「結婚してください」


 『おい』


 「けッ?! で、できません!」


 と声を荒らげる聖女さんは、周囲から注目を集めてしまった。すぐさま彼女は他の人に深々と頭を下げて謝罪した。


 事が落ち着いて、再び席に着いた彼女が口を開く。


 「つ、次、変なことを口にしたら、無視しますから」


 「すみません」



*****



 「ふむ、今日一日、聖女さんと一緒に過ごして色々と把握できたね」


 『だな』


 『同時に、調査するにしても、慎重に動かないといけないことがわかりましたね』


 「うんうん。ところでさ、僕を縛っているこの縄を解いてくれない?」


 『『ダメ(です)』』


 ダメか......。


 聖女さんと一日のスケジュールを共にした僕は、就寝前の時間帯に、聖女さんの部屋の床で寝っ転がっていた。


 いや、縛り上げられた、という表現が正しいな。両手両足を、姉者さんの鉄鎖により、拘束されているのだ。


 鉄鎖に魔力を流し込んで、普段より強度を上げている所が、僕への信頼の無さに直結しているようで悲しい。


 無論、僕がこの状態になっているのは、今、聖女さんは身を清めるために、沐浴場へ行っているからだ。


 ちなみに、この沐浴は一日二回ある。まずは一日の始まりである潔斎で一回、そして就寝前に一回。前者は水浴びで、後者は湯浴みとのこと。


 言うまでもなく、その時が来たら僕は魔族姉妹たちによって縛られる。


 僕は諦めて話を続けることにした。


 「やっぱ動くとしたら、皆が寝静まった頃合いかな?」


 『ぜってぇー夜間の方が厳重に警備されてるぞ』


 『そうですね。おそらく教会の裏の連中も、日中は教会の人間として動いているはずでしょうから、その隙に合わせたいです』


 「ならいつ動く?」


 『ある程度、時間が確保できそうなのが、昼食後、聖女として働く頃合いでしょうか』


 『そうなると護衛ってのが危うくなるよな』


 うーん、どうしたって人手が足らなくなるよなぁ。


 やっぱ一旦、ミーシャさんたちと合流して、手分けするか。でも姉者さんについて調査したいから、あの二人に調査を全部任せることもできない......。


 あとは教会について詳しい聖女さんにも相談して、もう一回考え直すことかな。


 僕がそんなことを考えていると、部屋の扉が開いて、潔斎から戻ってきた聖女が現れた。


 「ふぅ。やはり一日の終わりは湯に浸かることに限りますね」


 などと、ホクホク顔の聖女さんは、風呂上がりということも手伝ってどこか色っぽい。


 そんな彼女は、縛られて床に居る僕の存在に気付かず、こちらへやってきた。今の僕は透明人間だから仕方ないけど、え、ちょ、マジ?


 「あの、シスイさ――」


 と、僕が呼びかけるも、それは遅かったらしく、


 「きゃ?!」


 「っ?!」


 聖女さんは僕の足に引っかかって、こちらに倒れてきた。


 バタンッ。聖女さんは盛大に前方へと転んでしまったが、僕がクッションとなり、大した怪我は無さそうである。


 そして顔面に押し付けられる、むにゅぅ~というダイナマイトな感触。僕が愛して止まないおっぱいの感触だ。それが平たい顔面に、これでもかというくらい押し付けられている。


 風呂上がりの良い香りが、鼻孔全体に広がって、僕は一瞬だけ野に咲く花で埋め尽くされた楽園を幻視した。


 「え?! え?!」


 『『ま、マスターから離れてください!』』


 「ふごぉ」


 『な?!』


 『この男、そこそこラッキースケベしてますね』


 僕が聖女さんの双丘の中で呻くと、彼女は自分の下に何が敷かれているのか気づいたらしく、慌てて飛び下がった。


 ああ、おっぱいが遠退いていく......。


 余談だが、帝国のお姫様にも度々粗相を働いた僕だが、最低な発言が許されるならば、敢えて言おう。


 皇女さんより聖女さんの方がデケぇのなんの。


 何がとは言わないけど。


 姉者さんが左腕の支配権を使い、<ギュロスの指輪>の力を解除した。透明人間じゃなくなり、手足を縛られて床に横たわる僕の姿があらわになる。


 「な、ナエドコさん、なんでそんな所に?!」


 「シスイさんの入浴を覗きに行けないようにと、こうして信頼を得るために手足を縛っているんですよ。結果的に得しちゃいましたが」


 『この男、本当にクズですね』


 『ち〇こへし折ろーかな』


 『『その際は、私たちの“黒”の力を使ってください』』


 やめろ。


 しかし聖女さんは僕の顔面に自身の胸を押し付けたことに気づかなかったのか、どこか申し訳なさそうに言う。


 「さ、左様でしたか。どこかお怪我はされていませんか?」


 「結婚してください」


 「なぜ?!」


 いや、こんなクズの身体を心配するなんてどうかしてますよ......。


 あんたは聖女かって。


 ああ、聖女だった。ちょくちょくドジっ子の面を見るから忘れかけてた。


 『ナエドコさん、さっきの話をしましょう』


 あ、そうだった。僕は姉者さんに催促され、先程まで魔族姉妹と話し合っていたことを、聖女さんにも話す。


 「なるほど。私の安全を確保した状態で調査されたいのですね......」


 「はい。何か都合の良いタイミングはありますか? まずはミーシャさん――仲間と連携して動きたいので、一旦ここを離れる必要がありますが」


 という僕の言葉に、聖女さんは熟考してから口を開いた。


 「そういうことであれば、大天使様の石像のある部屋を清掃するという目的で、私がガブリエール様の守護範囲に居れば、その間、ナエドコさんは自由に動けると思います」


 「ああ、なるほど。ガブリエールさんに守ってもらうのが良さそうですね」


 「はい。いつも半日ほどかかるのですが、いかがでしょうか?」


 僕らは聖女さんの名案に賛成し、まずはミーシャさんたちと合流することを目的として動くでのあった。

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