第333話 ゲテモノ料理を好む美少女
「さて、合法的に聖女さんをストーカーしようか。合法的に」
『いや、だから合法的なストーカーってなんだ』
『普通に犯罪ですからね』
『マスター、こんなに可愛い私たちが居るのに、なぜ他の女を狙うのですか』
『マスター、私たちはお手頃だと告げます』
ロリっ子どもは黙ってろ!
現在、僕はクーリトース大聖堂の門前に居た。
時間帯はお昼過ぎ。腹拵えは済んだし、インヨとヨウイは武器化させて、<パドランの仮面>の中に送り込んでいるから、準備万端だ。
で、この場にやってきた目的は、聖女シスイさんを護衛するため。
サースヴァティーさんの話によれば、教会の地下に居るヤバそうな連中の所から、聖女さんが女神の片足を持ち出したことはバレていないらしい。
が、もしかしたら、何かの拍子でバレてしまうかもしれないので、その際の護衛として、僕を聖女さんの側に置いておきたいのだとか。
ほら、今の僕って透明人間だから。
これ、効果時間に制限無いとかやべぇよな。犯罪してくれって言ってるようなものじゃないか。
『鈴木、何度も言うが、紳士にだな――』
「わかってるって。信用無いな」
『逆に日頃の言動でよく信用あると思いましたね』
ちッ。魔族姉妹が居なければ、薄い本みたいなことができたのに。
僕はそんなことを思いながら、堂々と真正面から大聖堂の中にお邪魔した。
『マスター、あそこに人が集まってます』
『マスター、あの人たちは歌っているのでしょうか?』
しばらく歩いていると、ちらほら人とすれ違ったが、中庭に繋がる通路を見つけた。そこに近づくと、インヨとヨウイが中庭に居る集団のことについて聞いてきた。
ちなみにだが、<パドランの仮面>の中に居るロリっ子どもの声は僕にしか聞こえない。頭の中に直接二人の声が聞こえてくる感じだ。死ぬまで外れないわ、頭の中に二人の声が響くわで、本当に不思議な仮面である。
魔族姉妹の声も誰にも聞こえないので、僕だけ声を発することに注意すれば怪しまれないはずだ。
で、その中庭に行ったら、
「あれ、シスイさんじゃない?」
『本当ですね』
『早くも発見したか』
シスイさんは聖女という割には簡素な恰好をしている。しかしそれでも白を基調とした修道服は清楚さが溢れていた。
そんな彼女は十数人の子供の前に立って、子供たちと一緒に何か歌っていた。
アレか、聖歌ってやつか。子供たちは皆統一された衣装を身に纏っている。年齢は多少ばらけているが、インヨとヨウイくらい見た目が幼い子ばっかだ。
そんな子たちとシスイさんは聖歌を歌っていた。子供たちの明るく元気な歌声と、聖女さんの透き通るような美しい歌声から成る聖歌は、聞いていて心地よかった。
「いいね。心が浄化されるよ」
『苗床さんがこの世で愛して止まないものは?』
「おっぱい」
『浄化されてねぇーじゃん』
などと、大聖堂の中で好き勝手言う僕ら。
すると、聖女さんの元へ、一人の初老の男がやってきた。白髪で初老の男を目にした聖女さんは、聖歌を終えた後、子供たちに言った。
「皆さん、先に中に入って、礼拝の準備をしてください」
そんな彼女の言葉に、子供たちは元気よく返事をして、教会の中へと入っていった。
中庭に残った聖女さんは、初老の男と会話する。
「ごきげんよう、アバロウ教皇」
「本日もあの子たちは元気いっぱいですね」
「ええ。嬉しい限りです」
初老の男は、アバロウ教皇というらしい。たしかに偉い人っぽい恰好してるな。
その教皇は聖女さんに優しそうな笑みを浮かべながら聞いた。
「少し、あなたに聞きたいことがありまして」
「? はい、なんでしょう」
「先日、どこかへお出かけしていたそうですが、どちらに?」
「っ?!」
おっと。この会話、もしかしなくても、聖女さんがこの大聖堂の地下から女神の片足を持ち出したことに関してか。
ミーシャさん曰く、実行犯がミーシャさんというのはバレていないらしい。こうして探りを入れてきたのは、アバロウ教皇のただの興味本位からだろうか。もしくは敵側という線も......。
ちゃんと誤魔化せるのかな、聖女さん。
聖女さんは教皇の質問に、真剣な面持ちを浮かべて、彼と目を合わせた。
彼女はその整った顔立ちに似つかわしくない大量の汗を浮かべていた。
......これ、一回見たことあるぞ。
「ま、ままままま街に買い物しに出掛けておりました」
『すごい早口です』
『こいつ、嘘吐くの下手くそか』
聖女さん、顔に出ちゃってる。そんなことしてませんって、顔に言っちゃってる。
これは教皇さんにもバレバレだろう。
「買い物? あ、以前、仰ってたゲテモノ料理の美味しいお店に行かれたのですか」
気づかないんかい。
てか、ゲテモノ料理ってなんだ。興味あんのか、聖女さん。ゲテモノを食す印象があると、聖女感が一気に掻き消えるぞ。
「は、はい! それです! カエルの唐揚げはサクサクで美味しかったです!」
「ふふ。若いっていいですね。私も昔は色々と食べていましたが、年々、そういったものが食べられなくなってきました」
歳関係ある? ゲテモノ料理って歳関係ある?
などと、聖女さんの嘘には気づかないふりをしている、なんて素振りを見せない教皇は、その後、説教に移った。
「が、教会に黙ってお出掛けするのは感心しませんね。あなたは昔と違って、聖女という立場なのですから」
「うっ。も、申し訳ございません」
「次からは護衛の方とお願いします」
「はい......」
「というのも、最近は物騒な話を聞きますので」
「?」
「実は街中で戦闘があったらしく......」
「っ?!」
聖女さん、顔に出ちゃってる出ちゃってる。
当事者だったとしても、さっきの嘘がバレなかったんだから、顔に出さないでよ。
「怪我人は居ませんでしたが、ちょうどあなたが外出した日の出来事でしたから」
「そ、そ、そそそそんなことがあったのですか」
「ええ。気を付けてくださいね」
そう会話を終えた後、教皇さんは聖女さんの下を去っていった。
『し、心臓に悪いな、あの聖女』
『嘘が下手というか、嘘を吐けない性格のようですね』
『人間のくせに嘘が下手とは変な話です、マスター』
『マスターを見習うべきと告げます』
僕が、嘘を吐くのが上手いみたいに言うのやめてくれないかな。
にしても、この感じだと聖女さんの嘘がバレるのも時間の問題のように思えてきたぞ。
一応、サースヴァティーさんからは、聖女さんの護衛に関しては、その対応は僕に一任されている。だから予め、聖女さんに僕が近くで護衛をしていることを伝えられるわけだ。
が、そんなストーカー行為、本人からしたらストレス以外の何物でもないだろう。
彼女に僕が居ることを伝えるべきか迷っていると、聖女さんは額を拭って呟いた。
「ふぅ。なんとか誤魔化せました。あまり褒められた行為ではありませんが、実は私、嘘が上手なのでは?」
今すぐ引っ叩いて、目を覚まさせてやりたい衝動に駆られた。
そしてシスイさんは、何か閃いたように手をポンと叩いた。
「よし。もし誰かに先日の外出の件を聞かれたら、街にカエルの唐揚げを買いに行ったと言いましょう」
『苗床さん、今思い出したんですが、あの戦闘であなたが黒装束の一人を吹っ飛ばした先、たしかゲテモノ料理を扱ってた店ですよ』
『マスター、私も覚えてます。とても興味があります』
『マスター、そのお店が復活したら、私たちを連れて行ってください』
『よく覚えてるな。てか、聖国にゲテモノ料理を食べられる店ってそう無いだろ。このまま嘘吐いてたら、いつかバレんじゃん』
「......。」
僕は手遅れになる前に、聖女さんに、僕が護衛していることを話すと固く決意したのであった。
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