第330話 自分のラジコン
「さて、敵が現れるまで暇だし、状況整理と行こうか」
『『マスター、外に出たいです』』
「今の僕は透明人間だから、二人を外に出すわけにはいかないよ」
『『マスターから虐待を受けていると告げます』』
「こ、こら。滅多なことを言うんじゃない」
現在、僕は心地よい晴天の下、町中のとある建物の屋根の上に立っていた。建物は住宅であったり、何かのお店であったりと、ある人物の行動に合わせて、それらの屋根の上を移動している。
指輪――<ギュロスの指輪>の力を使い、透明人間の状態で。
で、ある人物とは、ミーシャさんが【固有錬成】で複製してくれた僕である。僕の複製体こと鈴木二号は、意味も無く町中をぶらぶらしている。
一応、ミーシャさんによれば、単純な行動ならば命令できるとのことで、その指令の権利は僕に与えられた。鈴木二号のできることと言えば、そこら辺歩いて、露店に寄って買い食いするくらいだろうか。
そんな指示を、建物の屋根の上から飛ばしている僕は、ある目的のために透明人間になっていた。
それは先日襲ってきた――教会の裏で暗躍する連中たちとの接敵だ。奴らに鈴木二号を殺させて、僕の死を偽るのである。
で、その死の偽りの信憑性を上げるために、僕は透明人間になった状態で、戦闘に参加しなければならない。鈴木二号が弱いから仕方ないんだけど、面倒ったらこの上ない。
一応、念の為、敵に気づかれないよう、こうして鈴木二号から距離を置いて、監視しているのだが、連中は全然、僕の複製体と接触してこない。まだ見つかってないのかな。堂々としているのに。
『あ、マスターがホットドッグを購入しました』
『ズルいです、マスター』
「いや、アレは僕じゃないって」
『『ズルいです』』
う、うるさいな。
ちなみにインヨとヨウイは武具の状態になってもらって、<パドランの仮面>の中に居てもらっている。
どうやら異空間の中から、僕らの様子を見れるみたい。異空間ってどんな所なのかね。二人の声も聞こえてくるし。
『鈴木、ガキンチョどもがうるせぇから、なんか適当に露店で買ってやれば?』
『ですね。以前のように、こちらの意思を無視して、仮面の中から出てこられたら堪ったもんじゃありません』
『『心外です。子供扱いしないでください』』
じゃあ駄々をこねるな。
僕は魔族姉妹の言う通り、どこか適当な露店で食べ物を買おうと思っていたのだが、インヨとヨウイから満足げな声が聞こえてきた。
『もぐもぐ。マスター、ホットドッグは不要と告げます』
『パドランから頂きました』
『あ、こら! オレのことは黙ってろって言ったろ!!』
『『あ』』
「『『え゛』』」
僕と魔族姉妹の口から間の抜けた声が漏れた。
え、ちょ、は? この仮面、“
初耳なんですけど......。サースヴァティーさんも<パドランの仮面>は別に“
『あ、苗床さん、二号の跡を付けている者が現れました』
などと、僕が考え事していたら、姉者さんからそんな知らせを受けた。
仮面のことはまた今度考えよう。
『三人居るな』
「例の奴かな?」
『さぁ? それにしても下手くそな尾行ですね』
鈴木二号の跡を付けている三人組は、少し離れた所に居る僕からでもわかるくらい、柄の悪そうな男たちだった。
勘だけど、黒装束の集団とは関わりが無い気がする。シンプルに僕の懸賞金を狙ってきた輩って感じ。
「放置しちゃマズいよね」
『だろぉーな。戦闘能力皆無なんだろ』
らしいので、とりあえず、僕は二号を人気の無い場所へ移動するように指示を飛ばした。この指示も強く念じるだけで二号に伝わるので、非常に便利である。
ミーシャさんの複製体が欲しい。
ああ、そんなこと考えている場合じゃなかった。
「片手間で相手しようか。できればあんな連中に殺されたくないし」
『ですね。連中に関係無いゴロツキが殺したことを素直に信用してくれるとは思えませんし』
まだ予定のポイントまで余裕があるので、僕は魔族姉妹に最初の話題を振り直すことにした。
「で、状況整理だけど、再び奴らに奪われる可能性があるかもしれない姉者さんの足には、何もしない、でいいんだね?」
この問いの意図は、姉者さんの復活に直結している。
なんでも、姉者さんは妹者さんと違って、ネームロスの呪いを受けていても、肉体さえ破壊すれば、元の姿に戻れるのだとか。もしくは姉者さんの核を、その足に埋め込むことで復活が可能とかなんとか。
なんかそれを聞くと、土に種を撒く気分になってきた。
『ええ。回収できたことは何よりですが、連中は私の足を使って何をしていたのか気になります。......まぁ、大凡の検討はつきますが』
「『?』」
『なんでもありません。とにかく、安易に私の足を破壊したり、私が肉体を取り戻したら、何か悪い方向に事が進むかもしれません。保留です』
『あーしならすぐにでも身体を取り戻したいけどなぁ〜』
僕も妹者さんの意見に賛成だな。お互い、自分の身体で自由に動けるようになりたいでしょ。これじゃあ僕はいつまで経っても彼女を作れやしないし。
そんな事を考えていたら、妹者さんがなんか照れくさそうに語り始めた。
『あ、あーしの本当の姿を見たら、鈴木はメロメロだろうーな! よく男好きする身体って言われてたし!』
なんだその自信。
「う、うーん」
『ちょ、おい! おま、なんだよ! その微妙な反応は!!』
いやだって妹者さんじゃん......。男勝りで、男口調で、オラオラ系の。
ヤンキー女って守備範囲外なんだよね......。そんなこと女性に言ったら失礼だから言わないけど。殴られそうだし。
『ほら、すぐ無駄話しないで、あの連中に集中してください』
「あ、ごめん」
『後悔しても知らねぇーから! 胸揉ませてくれって言っても揉ませねぇーから!!』
え、頼んだら揉ませてくれるの?! うわ、惜しいことした......。
などと、考えていると、二号が人気の無い空き地っぽい場所に移動したのと同時に、ゴロツキ三人組が急接近して、姿を現した。
三人は下卑た笑みを浮かべて、僕を逃さまいと早々に囲んだ。奴らは全員、物騒な武器を手にしているのが見受けられる。
僕は二号の背後に飛び降り、戦闘態勢に入った。
「さて、二号と息を合わせて戦うか」
『ま、本命じゃねぇーが、練習がてらちょうどいいだろ』
『こら、苗床さんの声は隠せないんですから、静かにしててください』
などと、姉者さんに言われて、<
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