第329話 鈴木二号、誕生する
「今なんと?」
「ズッキーには死んでもらおうかな、と」
「聞き間違いですかね」
「もう四回目だから聞き間違いではないと思う」
そりゃあ面と向かって、晩ご飯はカレーかな、感覚で死ねと言われたら、聞き間違いを何度でも疑っちゃうよ。
現在、僕はミーシャさんの【転移魔法】でクーリトース大聖堂から離れ、人で賑わっている露店を回っていた。夕食時だからか、辺りは人で賑わっている。ここを行き交う人たちのほとんどは、露店で買った物を手にしている様子が見受けられた。
また、言うまでもなく、ミーシャさんは仕事のパートナーであるサースヴァティーさんも連れている。
サースヴァティーさんは少女の姿をしているインヨ、ヨウイと一緒にあっちこっち露店を回って、買い食いを繰り返している。ロリババアの燥ぎっぷりがロリっ子どもと一緒なのが微笑ましい。
で、彼女たちの後を追うように、並んで歩いている僕とミーシャさんは今後のことについて話し合っていた。
「あの、あまりそういったことは人が多く居る所で話さない方が......」
「はは。これだけ賑やかだったら大丈夫だよ」
「さいですか。で、なんで僕が死ななくちゃならないんですかね」
「ワタシから言っといてなんだけど、すごく落ち着いてるね」
禿同。そう言われると、僕って本当に傷ついたり、死んだりすることに慣れてしまったな、と思ってしまう。......良くない傾向だ。
そんなことを考えていると、ミーシャさんが理由を話てくれた。
「ズッキーは目立ち過ぎた」
「まぁ、シスイさんを助けた際に、敵には僕が<
「うん。あの黒装束の集団は教会の裏で動かしている連中だろうね。それに加えて、ギワナ聖国に着いてから監視もされている」
「どっちも組織的には同一でしょうか」
「さぁ? 定かじゃないけど、その可能性は高いかな」
「じゃあ僕は奴らに見つかり次第、暗殺されるってことですか......」
「暗殺で済めば楽だね」
暗殺で済めば? 僕はミーシャさんの言葉に、頭上に疑問符を浮かべた。
「教会は表と裏でやってることが全くと言っていいほど別物なんだ。わかるかい?」
「まぁ、なんとなく」
「表では綺麗に、誠実に、神々しくなくてはならない。一方、裏では醜く、欲まみれで、真を嘘で塗り固めているような実態を持ち合わせている。そしてその後者が、君を捕えようと必死になっているはずだ」
「もっと別なことでモテたかったです」
「ふふ。連中はズッキーを暗殺で済ませると思うかい?」
「......女神の片足を全力で奪いに来ますよね」
「もちろん。現状、シスイが持ち出したことはバレていないはずだ。なら女神の片足の手がかりはズッキーだけになる」
「捕まって拷問とかされるんでしょうか」
「十中八九ね」
「マジすか......」
「そこで、だ。ワタシの【固有錬成】でズッキーの複製体を造って、影武者にしようと思う」
なるほど。それでその影武者に、僕の代わりに死んでもらうのか。
が、ミーシャさんの続く言葉で、それが容易じゃないことがわかった。
「ただちょっと問題があってさ」
「問題?」
「ん。ワタシの【固有錬成】で複製した人物は、まるで人形のように人間味が無い」
「あ、ああー、それはたしかに」
連中がぱっと暗殺してくれるようなら、これはそこまで問題じゃない。でも敵の目的は、僕から女神の片足の在り処を聞き出すことだ。
殺さずにあらゆる拷問を尽くして吐かせようとするから、人間味の無い僕が相手じゃ、逆に疑われるな。
それに、
「僕は<
「そこなんだよねー。もっと言えば、複製体は戦闘能力を持っていないんだ」
『というか、鈴木の複製体って、あーしらも複製されんのかな?』
『さすがにそれは無いと思います。この女の複製体を見る限り、感情がありませんから、複数の核まで有している状態の苗床さんを造ることは不可能なはずです』
「何か良い方法は無いですかね?」
「無いことも無いよ」
『<ギュロスの指輪>を使えってか』
『でしょうね』
「なるほど、<ギュロスの指輪>ですか」
「ズッキー、偶に人に聞いといて、すぐに答えに辿り着くのは、どういう思考しているの?」
などと、ミーシャさんがジト目で僕にぼやいてきた。
仕方無いじゃん。魔族姉妹の会話も聞こえるんだからさ。ミーシャさんがそのまま説明を続けた。
「察しの通り、ズッキーは指輪の力を使って透明人間になるんだ。で、敵と接触したら、影武者の後ろで良い感じに戦う......どう?」
「う、うーん。それでバレませんかね」
「それで必死に抵抗した後、複製体を死なせるんだ」
僕、そんな器用なことできる気がしないんだけど......。
「いいかい? 重要なことはその場で死ぬこと。敵に捕まっちゃ駄目だよ? <ギュロスの指輪>の力も解いてはいけない」
「は、はぁ」
「よし、決まりだ。そこの角から、ワタシが造った複製体を表に出すから、ズッキーはそこに向かって複製体と交代してくれ」
僕はミーシャさんに言われるがまま、指定された曲がり角に向かった。曲がった瞬間、僕は驚いてしまう。
事前に言われてたからわかってたけど、目の前にはミーシャさんが複製した僕が立っていた。
「うおッ」
『ほぉー。鈴木だな』
『苗床さんですね』
ぼ、僕だね。
僕こと鈴木は無表情だった。
今の僕と違って、<パドランの仮面>も<ヴリーディン>も付けていないから普通の黄色人種だけど......なんかぱっとしないな。
「僕ってもうちょっとイケメンじゃないかな」
『変わんねぇーぞ』
『苗床さん、人来るんで、早く透明人間になってください』
姉者さんに急かされ、僕は<ギュロスの指輪>の力で透明人間になった。
すると僕の複製体......“二号”が動き出して、人気のある表道へと出ていった。僕はそのまま二号の後ろについていった。
やがて僕らはミーシャさんの下まで辿り着くと、彼女は僕に振り向かずに言った。
「さて、ここからはズッキーの複製体が敵に殺されるまで別行動だ。いいね? 失敗は許されないよ」
「わかっておりますとも」
ということで、僕らは早速別れることになった。はてさて、敵さんはいつ僕を見つけて仕掛けてくるのだろうか。
余談だが、別れ際にミーシャさんの尻を触ろうとしたら、ヒョイッと躱されてしまった。なんでわかんの。
が、その後、彼女は悪戯っ子ぽく、可愛らしく舌を出したので、少なからず満足感を得た僕であった。
『後で説教な』
「......あい」
未遂なのにな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます