第326話 闇組織に仲間入り?

 「あなた、闇組織の人間だったのですか?!」


 などと、シスイさんが僕を疑ってきた。


 現在、僕は人気のない路地裏にて、シスイさんに色々と話を聞いていたのだが、どこからか闇組織の人間がこの場にやって来た。


 薄桃色の長髪が特徴のスレンダー美女ミーシャさんと、天色の癖っ毛が特徴のロリババアことサースヴァティーさんである。


 なんで僕がここに居るってわかったの。言うまでもなく、ここを集合場所ににした覚えは無い。


 というか、そもそも二人はしばらく大人しくしてるって言ってなかった? 僕と同様に、ギワナ教の連中から監視されていなかった?


 とりあえず僕はシスイさんに弁解をした。


 「誤解です。この人たちとは無関係です」


 「ちょっとちょっと。それはあんまりじゃない?」


 「夜な夜な人様には言えないことを一緒にした仲じゃないか」


 「な?!」


 ミーシャさんの話を聞いて酷く驚いた様子を見せるシスイさん。


 アレか、護送の最中に<三想古代武具>の山を漁ったことか。あんなの不可抗力だったじゃないか。たしかに透明人間になれる指輪や、ロリっ子を二人も預かる羽目になったけど、全然美味しい思いなんかしなかった。


 シスイさんが目つきを鋭くして僕を睨んできた。


 「騙したのですね!」


 「だから誤解ですって。さ、こんな人たち放っておいて――」


 「おすわり」


 「わん!!」


 ..................え?


 あれ、なんで僕は両手を地面に着いてしゃがんでいるんだ。


 ......あれ? それに“わん!”ってなんだ。僕が言ったのか?


 僕が目をパチクリさせていると、目の前に立つ者がこちらを見下ろしながら、囁くようにして言った。


 嗜虐的な笑みを浮かべて。


 「<ヴリーディン>の力さ。ワタシの命令は絶対だゾ♡」


 「......。」


 『『マジすか......』』


 僕の首には錆びついた鉄製の首輪がはめられている。これは【理想武具アイ・アーマー】の一種で、はめられると主従関係が強制的に成立してしまう。


 その命令は期間限定という縛りがあるものの、絶対服従であり、逆らうことが許されない。そんな恐ろしさを、今、僕は身を以て知ったところである。


 こうして忠犬のように、ご主人様の前でおすわりしているのは屈辱以外の何物でもないぞ。


 「な、何をされているのですか、ナエドコさん......」


 そんな僕をシスイさんは半歩下がって、引き気味に聞いてきた。


 僕は慌てて事情を話そうとする。わんこ座りのまま。


 「こ、これはこの首輪のせいで、彼女たちに逆らえ――」


 「椅子」


 「ちぇあ!」


 今度は四つん這いになる僕。


 ミーシャさんの一言で、こうまでも身体の自由を奪われるとは。というか、“椅子”と言われて、四つん這いになる僕って......。


 そして椅子を体現した僕の上に、ミーシャさんが軽やかに座った。


 「うんうん。悪くない座り心地だ」


 「くっ。ありがとうございます......」


 『なにお礼言ってんだ』


 ごめん、間違えた。


 でもこのスレンダー美女、スレンダーのくせに尻が柔らかいのなんの。ムラムラしちゃいそうだ。......やべ、勃ってきた。


 「ナエドコさん......」


 そんでもって、シスイさんは僕を見る目を冷めたものにしていく。汚物でも見るかのような視線だ。ありがとうございます。


 ああ、またお礼を言ってしまった。


 でも感謝の気持ちは大切って偉い人が言ってたよ。


 とにかく今は事情を話すべきか。闇組織の人間なんて思われたくないし。


 「シスイさん! これは誤解です!!」


 「はい、私はナエドコさんが清らかな存在だと思っていましたが、どうやら違ったみたいです」


 「清らかな存在(笑)」


 「それを言ったら、六百年間処女の私は超清らかな存在だね」


 ロリババは黙ってろ!!


 マズい、四つん這いの状態で弁解なんて無理だ。もし仮に彼女と逆の立場だったら、すぐに踵を返して、どこかへ逃げていたに違いない。


 あ、シスイさんがマジで数歩ずつ下がってる。あの子、僕らから逃げる気だ。


 シスイさんが僕らから距離を取ろうと、数歩下がったところで言った。


 「あ、あの、私はこれで失礼――」


 「おや? ズッキーが持っていた“片足”はいいのかい?」


 「?!」


 ミーシャさんの言葉を聞いて、シスイさんがビクッと肩を震わせた。


 彼女は大切なことを思い出したかのように、慌てた様子で詰め寄ってきた。


 「め、女神様の御御足を返してください!」


 「断る。コレはワタシたちがこの国にやってきた目的の一つだ。貴重な情報源を手放すわけにはいかない。もちろん、君も、ね?」


 「っ!!」


 そうミーシャさんが言い終えるのと同時に、シスイさんの後ろにいつの間にか移動していたサースヴァティーさんが、腕を組んで仁王立ちしていた。


 前門のスレンダー美女、後門のロリババアという立ち位置である。


 「さて、騒がれても困るし、軽く縛っておこうかな」


 ミーシャさんが僕の上から腰を持ち上げ、僕に命令しようとする。


 「ズッキー、あの子の手足を縛って――」


 「縛って、彼女の衣服をひん剥いて、物騒な物を持っていないことを確認しろって命令ですか!! そんな酷いことできませんよ!」


 「いや、少年の心の中にある物騒なモノの方が怖いよ」


 「挙げ句、自由を奪われたシスイさんに、僕の性欲をぶつけて性奴隷にしようってんですね! 快楽堕ちさせるなんて最低です! たしかに情報を吐かせる手段としては、ベストだと思いますが! ええい、致し方無いのかぁ!」


 「全然致し方無くない。ワーストだよ。奴隷が奴隷を作ろうとしないでくれ。ワタシまで犯罪者に思われたらどうするのさ」


 「ねぇ、いい加減話を進めてくれない?」


 という、僕らのやり取りを見て、向こうに居るサースヴァティーさんがツッコんできた。


 まぁ、手段は褒められた行為じゃないが、シスイさんから事情を聞きたかったから、どっちみち彼女を見逃すことはできない。


 そんなことを考えていたら、シスイさんがどこか怯えた様子で口を開いた。


 「す、すみません、逃げないので、その方を私に近づけないでください......」


 「......。」


 『すげぇ、ものの数分で人の印象ってここまで変わるのか』


 『そりゃあ神に仕える身として貞操を守りたいですよね』


 解せぬ。


 「さて、何から聞こうかな。そうだ、ここはフェアに行こうか」


 「?」


 「質問と回答のキャッチボールさ。君の返答次第だけど、ワタシたちは今後ともと仲良くしたいからね。ある程度、今のうちに信頼してもらいたいところだ」


 「『『“聖女”?』』」


 僕と魔族姉妹の言葉が重なる。なんで今、聖女が出てくるんだ。


 そう疑問に思っていたが、ミーシャさんが答えてくれた。


 「そ。あの子はギワナ教の聖女シスイだよ」


 「え゛」


 そんな僕の間の抜けた声が、この路地裏にやけに響くのであった。


 聖女さんにセクハラのラッシュを浴びせちゃったよ......。

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