第323話 大きい山と小さい山
「さて、まだ昼前だけど、朝ご飯とってなかったから、どこかに食べに行こっか」
「マスター、私たちはマスターの手料理が食べたいと告げます」
「マスター、ヤキソバを食べてみたいと告げます」
観光初日くらい外食させてよ......。
現在、ギワナ聖国のとある宿にやってきた僕らは、直近の予定をどうするか話し合っていた。
まずは腹拵え。せっかく観光する時間ができたんだから、初日くらい外食させてもらいたいもんだ。
てか、魔族姉妹か。余計なことをロリっ子どもに教えたのは。ちなみに本物の焼きそばは作れない。なんちゃって焼きそばだ。麺とかパスタで代用しているし。
「いや、今日は外食で済ませたいから、また今度ね」
「「......わかりました」」
『つうか、あたしらと同様で、このガキンチョどもも何か飯食ったら魔力に変換されるんだよな』
『ええ。微々たる量ですが』
へぇ。魔族姉妹もせっかく僕の身体を作り変えるんだったら、そういうのにしてほしかったな。食っても排泄しなくて済む身体なんて便利じゃん。
......いや、やめとこう。僕は人間であると主張したいんだ。まだ。
*****
「「マスター、あの露店のスイーツを食べたいと告げます」」
「よく食べるね......」
「「スイーツは別腹と聞きました」」
また魔族姉妹が要らぬことを......。
適当な所で外食を済ませた僕らは、魔族姉妹用にテイクアウトし、宿に戻ろうとしていたが、インヨとヨウイが全然帰らせてくれなかった。寄り道ばっかだ。
ここは露店が点在する狭い路地で、人気はそこまで無い場所であった。
僕は二人が指す露店の所へ向かう。二人が選んだスイーツはクレープ。生クリームやシロップ漬けにした果物とか、多種多様な材料がクレープ生地に巻かれたスイーツである。
二人はお互い話し合って別々のものを注文した。
昼食の時もそうだったけど、二人は別々のものを注文して、それを互いに分け合って楽しむという関係を作っている。もちろん、僕が頼んだ料理も二人は摘んだ。パンとか一口噛ったものを返されたからね。
ただそんな二人でも食べているときは大人しいので、こうして言われるがまま買っているのである。
『これ、普通に考えて、相当な甘やかしですよね』
「言わないで。気にしないようにしてるんだから」
『育児って難しいなー』
二人は武具なんだけどな。
そんな二人を見ていると、
「おおー! これは中に色の違う甘い果物が入っています!」
「こっちはサクサクのクッキーが入ってます!」
すごく美味しそうに食べているので何も言えない。
食事に限らず、色々なことに対して一喜一憂するもんだから、一緒にいるこちらまでほっこりしちゃいそうだ。
が、そんな時のことだ。
「『『っ?!』』」
路地で食べ歩きしていたインヨとヨウイが、突然、その隣の建物と建物の間から出てきた人物とぶつかってしまった。
「きゃ!」
ぶつかってきた人は茶色い外套を纏っていて、顔すらわからなかったが、ぶつかった拍子に発せられた声からして女性だ。
三人が勢いよく転びそうになる。ロリっ子どもは宙を舞う、自分たちのクレープに釘付けだ。
「「クレープがッ!」」
「言ってる場合かッ!」
僕は咄嗟の判断で動いて、頭から倒れゆくインヨとヨウイを片腕と半身で支え、ぶつかってきた謎の人物をもう片方の腕で受け止めた。
一連の行動に、思わず周りにいた通行人や露店の人たちが拍手をし始める。
『さすがです、苗床さん』
「あ、危なかった......」
『それよか、鈴木、
『私もです』
え? 二人してなに?
僕は右手を見た。
そして絶望した。
「......。」
「ま、マスター、このような所で......駄目です」
僕の右手はヨウイのまっ平らな胸を、上から押さえつけていた。条件反射で手が動きそうになったけど、そんなことしたら本当に笑い事じゃ済まされないので、なんとか堪えられた。
ヨウイの真っ白な顔が若干赤く染まっている気がしたが、気のせいだろう。この子は武具なんだし。
そして左手。
「......。」
「あ、ああ、あ」
これまたヨウイとは比べ物にならない、たわわに実った双丘が僕の手のひらの中にあった。片方の山を鷲掴みしている左手は、言い逃れできないほど、モミモミしちゃってる。
僕の意思に反して。
姉者さん、こんな時に何してるの......。
『言っときますが、揉んでいるのは私の意思じゃないです』
僕の意思だったみたい。
そして僕に胸を揉まれた女性は......ぶつかった拍子に、顔を隠していた外套が捲し上がったらしく、その顔が晒された。
初雪のような白い肌。夕陽を思わせる橙色の髪は短めだが、横髪が肩まである。透き通った青の瞳は、この国に来るまでの海路を思わせるほど綺麗だった。整った容姿の彼女は、僕と同い年くらいだろうか。
控えめに言って美少女。そんな人の胸をもみもみ。お、おっぱいってこんなに柔らかかったのか......。感動すら覚えてしまう。
少女の真っ白な肌が瞬く間に真っ赤になる。
『『おい』』
「っ?! ご、ごめんなさい!」
魔族姉妹からツッコミが入ったので、僕は慌てて彼女から離れた。
謎の少女は自分の素顔が晒されていることに気づいて、すぐさま外套で深く隠した。
「こ、こちらこそ。ぶつかってしまい、申し訳ありません。で、では私はこれで」
「あれ、なんか落しましたよ」
「っ?!」
謎の少女はぶつかった拍子に何か落してしまったようで、それは人の足くらいある大きさで布に包まれていた。僕が拾い上げると、肉の塊のような柔らかさと重さが感じられた。
なにこれ。人の足? いや、それはさすがに無いか(笑)。
『これはッ!!』
『人の足みたいってか、人の足じゃね?』
「え゛」
「か、返してくださいッ!」
間の抜けた声を漏らす僕に、飛びかかる勢いで謎の少女がこちらへやって来た。僕が手にしている謎の物体に手を差し伸べるが――彼女の手は僕の前でピタリと動きを止めた。
「『え?』」
僕と妹者さんは同時に間の抜けた声を漏らした。
「っ?! 氷?!」
謎の少女は身動きを封じられるかのように、全身を地面から生えた氷塊によって取り押さえられていた。
僕じゃない――姉者さんだ。姉者さんが謎の少女を取り押さえたんだ。
町中でなんちゅーことしとんの。僕らは慌てて姉者さんを問い質した。
「ちょ、姉者さん?!」
『姉者、なにやってんだ?!』
『二人とも、この女が落した物は―――私の足です』
........................は?
再度、間の抜けた声を漏らす僕であった。
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