第319話 水中戦

 「んぐぐぐ!」


 『『あぼぼぼ!』』


 現在、僕は水中に居た。


 海上でトノサマリバイアサンと戦っていたのだが、奴が赤い閃光――ドラゴンブレスを放ったことで、咄嗟の判断で身を投じたのである。


 そのレーザービームを避けるために、勢いよく水中に飛び込んだので、結構深くまで入ってしまった。陽の光はまだ見えるから、すぐに浮上すれば問題無いはず。


 はずなのに、


 『あばぁ!!』


 「っ?!」


 僕の目の前にトノサマリバイアサンが接近していた。水中とは思えない速さである。いや、ここがあいつの本領を発揮できる場所だかは理解は難しくない。


 僕はほぼ無意識に、<ギュロスの指輪>を内側に回して透明人間になった。


 瞬間、勢いよく突っ込んできたトノサマリバイアサンが水中でピタリと動きを止める。辺りをキョロキョロしているな。最初から透明人間になればよかった。


 今のうちに浮上して――そう思った時だ。


 『ガァァァアアァ!!』


 「っ?!」


 トノサマリバイアサンの周囲に魔法陣が展開された。魔法陣は深海を思わせる濃い青色で、それら全てから巨大な槍の先端が出現する。


 次の瞬間には螺旋状に渦巻いて、僕の方へ放たれた。


 なんでだ?! どう見ても当てずっぽうじゃないぞ! 僕の位置がわかってるの?! 


 うち一つの巨大な水の槍を直に食らった僕は、その勢いに呑まれて、身体をぐちゃぐちゃに破壊される。


 すぐさま妹者さんが回復させるが、さっきの勢いで肺の中の空気が外へ逃げてしまった。


 「ごはッ!!」


 や、ばいッ......息が......。


 このまま死んだら、僕はもう生き返ることは出来ない。海の藻屑になるのだけは避けたい。


 でも......もう......意識が............。


 そう思った時だ。


 僕の口の中に、何かが送り込まれた気がした。


 「っ?!」


 空気だ。


 見れば、左の手のひらが僕の口と密着していた。


 姉者さんが僕に空気を送り込んでくれたのだろう。


 僕はその僅かな猶予を無駄にしないよう、次の一手に出る。


 「!!」


 【冷血魔法:氷壁】で水中に氷塊を生成し、トノサマリバイアサンから姿を隠す。


 同時に、【固有錬成:縮地失跡】で、奴の死角――すぐ頭上に転移し、奴の頭を足場にして【固有錬成:闘争罪過】と【固有錬成:力点昇華】を同時に発動した。


 死にかけだったからか、足にすごい力が入り、トノサマリバイアサンの巨体が水中でも折れ曲がるくらいの勢いがあった。


 僕はそのまま一直線に海上に出る。


 「ぶはッ!!」


 『ごほッ! おえッ!』


 『苗床さん、速攻でケリをつけますよ!!』


 姉者さんは僕が【闘争罪過】を使ったのを見て、ここからは時間をかけることができないと判断したようだ。【闘争罪過】は発動すると、身体中に赤黒い稲妻を纏うからひと目でわかるのだろう。


 もう【闘争罪過】を発動したんだ。力技でゴリ押しだ!


 「姉者さんは足場をッ! 妹者さんは僕と【多重魔法】!」


 『はいッ』


 『おう!』


 トノサマリバイアサンが影を徐々に大きくさせながら――姿を現した。


 鋭い牙で僕を食い千切らんと、大きな口を開けて、落下する僕に迫る。


 僕は妹者さんと姉者さんが吐き出してくれた鉄鎖で魔法を行使する。


 「『【多重紅火魔法:爆鎖打炎鎚ばくさだえんづち】ッ!!』」


 生成する途中で振るったので、宙で勢いよく回転した僕は、その円運動で生み出した爆発的な火力をトノサマリバイアサンの顔面に叩きつけた。


 瞬間、海上に盛大な爆発が生まれた。


 僕はその勢いで吹っ飛ぶが、すぐさま姉者さんが【氷凍地】で足場と、【氷壁】で疑似スターティングブロックを作ってくれたので、僕は速攻で跳んだ。


 トノサマリバイアサンが先の一撃で蹌踉めいた隙にもう一発。【爆鎖打炎鎚】であの強固な鱗の上から殴りつけると、奴は“く”の字に折れ曲がったが、手応えはイマイチ。


 直撃と同時に生み出される爆発も鱗が邪魔して、大したダメージになってない。


 『グアァァァアア!!』


 トノサマリバイアサンはまたも海の中へ潜ろうとする。


 「させるか!!」


 僕と妹者さんは、今度は【多重紅火魔法:閃焼紅蓮】を生成し、その炎剣でトノサマリバイアサンに斬り掛かった。


 刃は当たった瞬間、トノサマリバイアサンの肉体に火柱を生んだ。


 本来は地面にこの炎剣を突き刺して、その地面から噴火の如く灼熱の火柱を起こすのだが、こうして直接攻撃すると、その“地面”の代わりがトノサマリバイアサンとなる。


 それでもダメージは大したことなく、奴を水中へとみすみす見逃してしまう。


 「くそッ!」


 『次来ます!』


 姉者さんの掛け声と同時に、海面の所々に渦のようなものが徐々に作られていった。


 【氷凍地】に立っていた僕は、すぐにその場を離れた。


 突如、僕が先程まで立っていた【氷凍地】が水中から突き上げられた巨大な水の槍で破壊された。


 その一撃だけじゃない。僕が足場にしている場所が次々に狙われて、その全てを尽く破壊されていく。高速で海面上を移動しているから、当たらないけど、このままじゃジリ貧だ。


 トノサマリバイアサンは水中に潜ったままで出てくる気配が無い。


 どうすればッ!!


 『ブレス来ます!』


 次はブレスかよ?!


 どこからブレスが来るのかと思ったら、水中で一箇所、小さな赤い光点を見つけた。


 あっから撃つ気か?!


 僕が避けるのと同時に、紅の閃光が放たれた。


 回避が遅かったのか、掠ってすらいないのに、その熱気で背中が焼かれた。


 「ぐッ!!」


 そして姉者さん【氷凍地】は間に合わず、僕は再び水中に飛び込んでしまった。


 そんな僕を絶好の獲物と言わんばかりに、トノサマリバイアサンが接近してくる。また浮上しようとするも、先方の方が圧倒的に素早いため、次の瞬間に僕は丸呑みされそうになっていた。


 『ッ?!』


 が、咄嗟の判断で、【紅焔魔法:打炎鎚】を生成して、トノサマリバイアサンの口の中で支え棒代わりにする。


 危機一髪だったが、【打炎鎚】も長くは保たない。それにこのまま深海に、僕を運ばれたら普通に死ぬ。


 このままトノサマリバイアサンの口の中に、【多重凍血魔法:螺旋一角】でもぶち込むか?! でもそれには火力が必要で、魔力を込めている余裕なんか――。


 そんな焦燥感に駆られた僕であったが、どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 『『マスター! 私たちを使ってください!!』』

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