第318話 トノサマリバイアサン戦
「おわぁぁぁぁああ!!」
現在、ミーシャさんの【転移魔法】で海上の宙に放り出された僕は、重力という名の下、落下していた。
朝日が眩しいよ、ちくしょう。
『【冷血魔法:氷凍地】』
が、姉者さんが即魔法陣を展開して、荒々しい海の一部を凍らせた。規模もアイススケート場のそれだが、表面は荒い。
その場を足下にして、僕はそこに着地する。その際、インヨとヨウイを抱えていたからか、かなり勢いがあったので、左足を折ってしまった。
「いだ?!」
「「マスター、“黒”の力を使ってないのに、骨折されたのでしょうか?」」
「なんでもないよ、ただ次からは君たちをクッションにしようと思っただけ」
煽られたので、適当に返した僕である。
妹者さんのおかげで全回復した僕は【氷凍地】の上から辺りを見渡した。
「あ、船がある」
『あんな。あれくらい離れてりゃあ、ここで戦っても被害はねーだろ』
『でも大丈夫なんですかね。トノサマリバイアサンはあの船に乗っているロリババアを狙っているのでしょう? 私たちだけこんな所に放り込まれても......』
と、妹者さんが言い欠けたときのことだ。
ザパンッ!! まるで水中で何かが大爆発したかのように、水柱が上がった。
「『『っ?!』』」
災害級の大雨のような飛沫を浴びた僕らは、巨大モンスターと対峙する。
濃厚な青みがかった鱗。蛇のように滑らかな体躯。頭部には、いつぞやの<屍龍:ドラゴンゾンビ>を思わせる獰猛な肉食獣のそれがあった。
そいつは僕なんか丸呑みできるほど、大きく口を開けて咆哮する。
『ガァァァアアァ!!』
トノサマリバイアサン、参上である。
*****
「うおぉぉおぉおお!!」
僕は両脇にインヨとヨウイを抱きかかえ、【固有錬成:力点昇華】を発動して、その場を力強くジャンプした。
その瞬間、先程まで僕が立っていたアイススケート場が、トノサマリバイアサンの突撃を食らって呆気なく崩壊する。
『でっけぇ!!』
『デカいですね』
魔族姉妹が呑気なこと言ってるので、僕はインヨとヨウイに告げた。
「二人とも、武器になって!」
「「オーダーが入りました」」
インヨとヨウイはすぐに【変身魔法】を解除し、太鼓のバチのような棒へと姿を変える。
僕は二人をこの仮面――<パドランの仮面>で、アイテムボックスの中に保管した。
これは先程、船に居たときに実証したことだ。インヨとヨウイが武具の状態になれば、<パドランの仮面>の力で異空間へと収納できる。人の姿だとできなかったのはよくわからなかったが、今はそんなことどうでもいい。
『【氷凍地】』
本日二回目のアイススケート場。姉者さんが足場を生成してくれたので、そこに着した僕は、魔族姉妹に聞いた。
「トノサマリバイアサン、なんか僕のこと狙ってない?!」
トノサマリバイアサンは何故か、僕を狙って突っ込んできたのだ。
奴は今、一回目のアイススケート場を破壊した際に、海の中に潜り込んでしまって姿は見えない。
いや、海に映る大きな影が動いているから、すぐそこに居るのはわかるけど。
『今気づきましたが、その見解は間違ってないかと』
「なんで?!」
『ああー、あれか。鈴木、お前、身体ん中にあいつの核あんだろ』
“あいつ”?
あ。
「ど、ドラゴンゾンビ......」
僕は思い出して、力なくその名を呟いた。姉者さんが正解と言ってくれた。
『ドラゴンゾンビも元は龍種ですからね。あの龍種のロリババアも狙いの対象ですが、近くにあなたが居たら狙ってくるでしょう』
「じゃあ戦わないと駄目じゃん」
『かかッ! 端からそのつもりだ!』
妹者さんがやる気になってるので、僕は溜息を吐きながらも臨戦態勢に入った。
「勝てるかな?」
『おいおい。いつからそんな弱気になったんだ?』
『慎重になることはかまいませんが、臆病になるのはいただけませんね』
ああ、そうかよッ!!
僕は再度、【力点昇華】を発動して、今度は真上に跳んだ。
その刹那、僕が足場にしていたアイススケート場が崩壊する。
トノサマリバイアサンさんが真下から突き上がってきたのだ。
その勢いは止まることを知らず、頭上に居る僕目掛けて、大きく口を開けていた迫ってきていた。
もちろん、このまま食われるつもりはない。
「姉者さん!」
『準備オーケーです』
僕は口を大きく開いているトノサマリバイアサンを真似て、両手をそれぞれ、頭上と股下に持っていった。
眼前の敵に負けまいと、龍を体現するかのように――。
そして僕らは唱える。
「『【多重凍血魔法:
『ッ?!』
瞬時に展開された薄浅葱色の魔法陣。その巨大さはトノサマリバイアサンの頭部と同等かそれ以上だ。
そこから繰り出したのは、無数の氷の牙。それらがトノサマリバイアサンと激突する。
「っ?!」
『ガァァァアアァ!!』
結果は引き分け。僕は左腕を食い千切られたが、トノサマリバイアサンの鼻先に数本の牙が刺さってる。
「ちぃ! 龍種ってのはどいつもこいつも硬いなぁ!」
『だってよッ......鈴木ぃッ!......腕がッ!!!』
『お、声真似上手いですね』
いつの間にか、生えてきた左腕が呑気な感想を言う。
こいつら余裕だな......。
僕はまた【氷凍地】を生成して、そこに着地した。
トノサマリバイアサンはまたも海中に潜って、大きな影を揺らしている。
「さっきの【多重魔法】だと決定打に欠けるな......」
『あと何発か打ち込めば、勝機は見えてきますよ』
『ま、相手が大人しく食らえばの話だがな』
「妹者さんは何か良い魔法無い?」
『相当魔力込めなきゃ、あーしの火属性魔法じゃ大したダメージを与えられねー』
ふむ、それは困ったな......。
聞けば、姉者さんの火属性の【多重魔法】でもダメージは見込めるが、魔力の消費とダメージが釣り合わないとかなんとか。
今回は相性悪いってことだ。
できれば、相手の実力が未知数だから、時間制限のある【固有錬成:闘争罪過】や、初見殺しもいいところな【固有錬成:害転々】を使うのは避けたい。
あ、そうだ。
僕は姉者さんに、<屍龍>を氷漬けにした魔法はどうか聞くことにした。
「姉者さん」
『【凍結魔法:氷塊一輪】は当てにしないでくださいね』
「......。」
まだ何も言ってないのに。
姉者さんが理由を説明してくれた。
『あれを使ったら、私たちが乗っていた船まで凍らせますよ。あれ、範囲攻撃ですから』
「そこまでか......」
『使うとしてももっと離れないといけませんが、あのミーシャと言う女の【転移魔法】の有効範囲がわかりませんし』
じゃあボツだな。
僕がそんなことを考えていると、少し離れたところで水柱が上がった。
トノサマリバイアサンである。なんであんな遠くに――。
などと、不思議に思っている場合ではなかった。
トノサマリバイアサンが大きな口を開けて、その中に赤い光を収束させていった。
『ブレスだッ!!』
「っ?!」
そうだった、ドラゴンゾンビも使ってたじゃないか。
僕はすぐさま真横に跳んで、その身を荒々しい海原へと投じるのであった。
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