第315話 新しい仲間をお蔵入り?
「マスター、お願いします。私たちを使ってください」
「もうマスター無しでは私たちは生きていけません」
「ちょ、やめて――」
「「マスター」」
「......。」
現在、僕は白と黒のロリっ子どもに縋りつかれている。インヨとヨウイといい、前者は白髪で褐色肌の子で、後者は黒髪で白肌の子だ。
どちらも小動物で可愛らしい見た目だけど、正体はなんと<三想古代武具>。聞けば聞くほど謎が深まる不思議な現状に、僕は涙目であった。
僕はしがみついてくる二人を引き離して言った。
「さっきも言ったけど、君らの所有者になる気は今のところ無いよ」
『ロリに向かって所有者になる気は無い、とかやべぇ発言だな』
ちょっと黙っててくれないかな。
「ではどうすれば、マスターは私たちを使ってくれますか?」
「何でもします」
「「いえ、させてください」」
「君たち、さっきからわざと言ってない? いかがわしい会話に聞こえちゃうからやめて?」
僕の思考がいけないからだろうか、ロリ共の発言がさっきからはしたないことこの上ない。
僕は溜息を吐きながら聞いた。
「まず君らがこの船に乗っているということは、呪具と認定されたからだ。<三想古代武具>とは言え、呪具扱いの君らをそう安易に使おうとは思えない」
「きっとマスターの役に立てると思います」
「代償が大きいだけです」
「「チキるのは関心しません」」
こいつら、言い方を丁寧にすれば、ナメた口聞いて良いと思ってるタイプか。
こっちはその代償が怖いんだよ。
「じゃあ、聞くよ。インヨとヨウイはどんな力を持っていて、どんな代償を払う必要があるの?」
僕がそう問うと、二人は手を繋いで、インヨが武具の姿――太鼓のバチのような物に変身した。いや、変身というよりアレが本来の姿か。
ヨウイが手にしているインヨを僕に差し出しながら言う。
「私たちには二つの力があります。“白”と“黒”の力です」
「“白”? “黒”?」
「はい。まずは“白”です。この力は魔力を吸収もしくは放出している間は、必ず付着が継続します」
「?」
「インヨを持って、魔力を流してみてください」
と言われたので、僕はインヨを受け取って、魔族姉妹の魔力を流してみた。
すると、手にしているインヨから声が上がる。
『マスターのが、私の中に......ドクドクと注がれて......』
「へし折るよ」
「マスター、手を離してみてください」
ヨウイに言われるがまま、僕は手のひらをくるりと回して、インヨを床に落とそうとした。
が、
「『『?!』』」
インヨは僕の手にくっついたまま落ちなかった。僕は掴んでいないのに、だ。
ヨウイが説明を続ける。
「これが“白”の力です。今はマスターから魔力を受け取っている、つまり吸収している状態ですので、このようにくっつきます」
『なんとも地味な力ですね』
『これ、なんの意味があんの』
禿同。魔族姉妹の乾いた感想には、僕も思わず同意してしまう。しかしヨウイはそんな僕の反応を見て言った。
「ちなみに契約すると、私たちがどこに居ても、マスターが魔力を込めて求めたら飛んできます」
『常にオカズには困らないことを約束します』
「インヨは黙ってようか」
ふむ。ということは、例えば、彼女らがギワナ聖国に居て、僕が王国に居ても、魔力を込めて二人を求めれば飛んでくるってことか。
ちなみに、魔族姉妹に聞いたら、これは<三想古代武具>の所持者、つまり契約を交わすと、割と付属される機能らしい。だから二人はこの呼び出し機能に納得していた。
さて、“白”の方は良いとしよう。“黒”のことを聞くか。
「“黒”の力は?」
「これで何かをぶつと、対象を必ず破壊します」
「な?!」
ヨウイの言葉に驚いたのは僕だけじゃない。魔族姉妹もだ。ヨウイはあまり顔に出さないようにしているが、僕の驚きに満足しているのか、若干ドヤ顔しながら説明を続けた。
「もちろん、その影響範囲はものによります。例えば、城壁を殴ったからといって、城壁の端から端までを破壊するわけではありません」
「そ、それでもすごいな。じゃあ、あの堅くて厄介な【魔法結界】も一撃で壊せるということでしょ」
「『もちろんです』」
思い起こすは、トノサマゴーストとの一戦。奴はモンスターのくせに魔法を使う。んでもってその中でも厄介なのがバリア。
あれ、ほんと硬かったんだよなぁ。
シバさんの【固有錬成】による風のバリアはそれ以上だったけど、もしかしてそれも破壊できるのかな? いや、彼のバリアは即再生できるから、一度破壊したくらいじゃ、あまり意味は無いか。
して、気になるのは代償だな。
「今度は代償を聞くよ」
「“白”の力の代償は、一度、マスターが私たちに魔力を流してしまえば、マスターから供給を断つことはできません」
「......魔闘回路への接続が自由になるということか」
「はい」
「“白”の力を使えば、僕の魔力を根こそぎ奪えるわけだ」
「......しないと誓います」
と言っても、口約束なんだよね......。嘘を言っているようには思えないけど。
「それで、“黒”の力を行使した場合の代償は?」
「それは......」
僕の問いに、ヨウイは黙り込んだ。インヨもうんともすんとも言わない。
こ、ここで黙ったら、僕は二人の所有者になるつもりはないよ。
しかしインヨとヨウイの黙りは束の間。二人は覚悟を決めた様子で言った。
「『使う度に、使用者の骨が砕けます......』」
「『『......。』』」
この回答には思わず僕らも黙りだ。
この太鼓のバチなようなもので何かをぶつと、その拍子に使用者の骨が砕けるのは笑えない。
彼女らが呪具たる所以を知った瞬間であった。
静まり返った僕らに対し、インヨがバチから少女の姿に戻ってから、二人は揃って僕に迫ってきた。
「マスター、骨が折れると言っても、全ての骨が折れるわけではありません。まれに数本、同時に折れることもありますが、基本は一本です」
「はい。小指の骨が折れたり、首の骨が折れたりと、ランダムで選ばれますが、引き換えに絶対的な力を得られます」
「いや、常人は首の骨が折れたらお終いでしょ......」
「「運が良いときはアブミ骨だけで済まされます」」
いや、大きさの問題じゃないだろ。一番ちっちゃくでも砕けたらヤバい骨じゃん。
一瞬、妹者さんの【祝福調和】という全回復スキルがあれば、割と好条件なのではと思ったが、それ以上にデメリットもある。
『苗床さん、これは私たちにとっては破格の条件かもしれませんよ』
すると、姉者さんが真面目に話し始めた。
『私たちは【回復魔法】を持ち要らず、ほぼ限り無く即時全回復できます』
『あーしのスキルならな。でも鈴木が気にしてるのは、その代償で、致命的な隙ができちまうことだろ』
『ええ。そうならないためにも、あなたができるだけ早く苗床さんを全回復させることです』
『それに集中すっと、あーしがろくに戦いに参加できなくなるぞ』
『そこは痛手ですが、最近の苗床さんはかなり戦闘力が高まってきたように思えるので、任せてもいいのではないでしょうか?』
『え、ええー』
意外なことに、姉者さんから褒められてしまった。
僕の力はどこまでいっても、借り物の力に過ぎない。魔族姉妹の魔法にしろ、【固有錬成】にしろ、ね。
だからインヨとヨウイを使うときは、僕の戦闘力の強化を選ぶことになる。正直、妹者さんの魔法的なサポートが見込めなくなるのは避けたいが。
僕が悩んでいると、白と黒の少女たちが僕に抱き着いてきて、瞳を潤ませながらこちらを見つめてきた。
「「マスター」」
「うっ。そんな目で見られても......」
『苗床さん、他に代償も無さそうですし、契約しちゃいましょう』
『“白”の力は微妙だが、“黒”は破格だしなー』
なんか魔族姉妹は賛成してるし。
僕、あんま契約について知らないんだけど、一度でも契約しちゃったらお終いじゃない? こっちからそれを一方的に破棄できるの? そもそもどうやって契約すればいいのさ。
そんな僕の疑問を察して答えてくれたのは妹者さんだ。
『ちなみだが、契約成立させるには、鈴木が自分の血をこのガキンチョたちに与えれば済むぞ』
あ、意外と簡単な方法だった。
まぁ、その方法はいいとして、問題はメリット・デメリットを吟味してからじゃないと――そう僕が考えていたときだ。
インヨとヨウイが互いに抱き合いながら口を開いた。
「マスター、今の私たちはこのような容姿ですが」
「マスターの好みにそった女性に変身することも可能です」
僕はそれを聞いた途端、【閃焼刃】を生成し、自身の手を切りつけて、二人に血の噴水を浴びせるのであった。
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