第314話 白と黒の調和
「マスター、この着物という衣装、非常に動きにくいです」
「え、あ、うん。僕から言っといてなんだけど、別に服は着物じゃなくていいから」
「脱げと? オーダーが入りました」
「かしこまりました」
「してないしてない! オーダーしてない! こら! 脱ぐな!」
僕は着物をはだけさせた少女二人の手を止めた。着る時は魔法でぱっと着用したのに、脱ぐときは手でって、その違いはなんなん。
現在、僕は借りている部屋にて、白と黒のロリっ子どもの対応に精一杯であった。二人は整った顔立ちも、腰の高さまである髪の長さも、華奢な体格も全く一緒で、色違いって感じだ。
どうやら彼女たち――本人たちは双子と主張していたな。その正体は、数刻前まで僕の両足にくっ付いていた棒らしい。無論、ただの棒じゃない。<三想古代武具>の一種のようだ。
ちなみにその棒とやらの見た目は、太鼓などを叩くときに用いるバチに近い。ちょうど二本あるしね。
そんな双子姉妹を他所に、僕らは小声で話し合った。
『どうするよ、こいつら』
「うーん。そもそも“
「そうよ。そこは私のベンちゃんと共通ね」
『そういえば最近、<討神鞭>の声を聞いてませんね』
姉者さんの何気ない言葉に、レベッカさんは「お、おほほ」と誤魔化されてしまった。どうしたんだろ、また喧嘩かな?
「「......。」」
双子の視線が痛い。めっちゃぼくのこと見つめてくるんですけど。
『このまま色々と聞いちゃいましょ』
「そ、そうだね。......えっと、二人はなんて名前なの?」
「インヨと言います」
「ヨウイと言います」
白髪で褐色肌の子がインヨ、黒髪で白肌の子がヨウイ。変わった名前だ......。
「二人はどうやって人間の姿に?」
「マスターの魔力を使用しました」
「......。」
『おい、もしかしてこいつら......』
『ええ、おそらく、苗床さんを介して、私たちどちらかかの魔闘回路にアクセスしたのでしょう』
正直、この問題を先延ばしにしていたのは良くなかったな......。
通常、他人から魔力を貰うとき、それは魔力供給と言って、経口摂取などで自分から他者、他者から自分へと魔力を流すのだが、僕の場合は魔族姉妹の魔闘回路に接続できるため、他者から僕、僕から魔族姉妹という一連の流れが作れちゃうのだ。
で、恐ろしいのが、それに蓋ができないということ。
これは......あまり思い出したくなかったのだが、シバさんとの魔力供給で実証されたことだ。
僕は魔力がなんたるかをまるで理解していない。そのせいか、魔力を自分から他人へ流したり、他人から魔力を貰うことはできても、それを制御することができない。
鍵のない扉みたいなもんだ。皆、普通に自分の魔闘回路という部屋には扉に鍵をかけているのに、僕の場合は自動ドア感覚で開いたり閉まったりする。
でも、これ経口摂取という魔力供給に限っての話だと見ていたが、まさか接触しているだけで可能とは。この子たちが<三想古代武具>だからかな?
今後、これがどう影響していくのかわからないので、早めに解決しておきたかったのだが、まさかもう問題に直面するとは......。
白と黒の少女たちが僕に問う。
「マスターからはなぜ魔力を込められていないのに、私たちは魔力を得ることができたのでしょうか」
「あ、ああ〜、うん、体質ってやつ? 僕の身体は変わってるんだ」
『気が小さいくせに、イチモツはデカいですしね』
それ関係無いから。
レベッカさんが居る手前、二人の少女について掘り下げるのは良くないかな......。
僕がそんなことを考えていると、レベッカさんが立ち上がって、この部屋の出入り口へと向かった。
「レベッカさん?」
「私が居たら邪魔でしょう? こういうのは線引をしっかりしておかないと、後で絶対に後悔するわ」
この人、気遣いの神か。
「......ありがとうございます」
「ふふ。これは私のためでもあるのよ。なんでも知ることは良いことばかりじゃない。いつも口を酸っぱくして言ってるでしょ」
「知って良いことと悪いこと、ですね」
「よろしい」
そう言って、レベッカさんはこの部屋を後にした。
僕が傭兵になってあの人と一緒に仕事していると、彼女から色々と学ぶことが多くなった。自分がいつ、なにを、どのようにして行動を取るべきか。より最適に近づくには選ぶべきか。
今回の件もそうだ。レベッカさんにとって、僕らとこの子たちの関係を知る必要は無い。もしくは知るだけリスクとなる可能性が生まれるかもしれない。だからこの場を去った。
“勘”ってやつだろうな......。
僕は白と黒の少女を見やった。
「さて、僕の魔力を勝手に使ったって認識でいいかな?」
「「はい」」
「そう。なぜ僕を“マスター”と?」
「「......駄目でしょうか?」」
「それはこれからの君らの返答次第だ」
「「......。」」
僕のその言葉に、二人は黙り込んだ。
感情の起伏に乏しい少女たちと思っていたが、なんだろう、俯いた様子を見るとそうには思えない。
とりあえず聞き出さないとわからないことが多いな。
「まずは......そうだな。君らが僕から盗った魔力はどれくらい?」
「あと一日、この姿を維持できる量です」
「これ以上はマスターの許可を得てから、供給させてほしいと告げます」
「それもこれからの二人の返答で考えるよ。あと、なんで二人は“着物”を知っているの?」
「正確には知りません」
「知っているのは、マスターが求めていることを思い浮かべることができたからです」
「え? どういうこと?」
「マスターが『これを着て欲しい』というイメージを我々が受け取り、【変身魔法】で再現しました」
『擬人化も【変身魔法】の一種だからな。わからねぇー話でもねぇー』
『ということは、苗床さんの記憶を覗いたわけじゃないんですね』
僕もそれを心配していた。別に僕が異世界人ってのはそこまで隠したいことじゃないけど、できるだけあっちの記憶はこちらの世界に持ち込みたくない。
主な理由は文化の違いだろうか。こっちは中世ヨーロッパ風だが、日本は先進国もいいとこな科学技術が発展した国だ。僕はこの世界をファンタジーのままにしておきたいから、地球の技術なんて不要である。
あ、料理とかそういうのは話が別ね。兵器とかに直結するような情報は流出させたくないだけ。
ということは、魔族姉妹は例の魔法で声を隠しているから、この子たちには二人の声は聞こえていないのか。僕の記憶を覗かれた訳でも、魔族姉妹の口を見られた訳でもないし。
「マスター、宣告しましたが、この衣装、非常に動きにくいです」
「足を出します」
「出すな出すな出すな。待って、【変身魔法】できるなら、別の衣服を僕がイメージするから......うーん、よし。これにしよう」
「オーダーが入りました」
「“体操服”に着替えます」
『なんちゅーもんに着させようとしてんだ』
『一周回って犯罪ですよ。ルホスちゃんが普段着ている衣服を想像しなさい』
「ごめん、無しで。こっちがいい」
「オーダーが入りました」
「マスターから衣装と共に、他所の女のイメージが届きました」
言い方。
「「拒否します」」
拒否するんかい。
「私たちだけの特別なものが良いと告げます」
「動きやすいやつが良いと告げます」
「ああ、じゃあ、もうこれで!」
「オーダーが入りました」
「ミニスカ浴衣に着替えます」
『『おい』』
ご、ごめん。他意は無いんだ、本当に。本当に......。
さっそく着替えた白と黒の少女たちは、目をキラキラさせて自分たちの衣装を眺めていた。
インヨは黒を基調とした浴衣を。
ヨウイには白を基調とした浴衣を。
くるりと回ったり、袖を振ったりと楽しそうである。そして二人は鼻をすぴすぴとさせながら興奮した様子で言う。
「「気に入りました」」
「......そう」
『なぁ、姉者。鈴木ってロリコンなのかな......』
『知りませんよ』
気に入ってしまったのだから仕方無いじゃないか......。
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