第312話 アイテムゲット?

 「ということがありまして、なんでレベッカさんは男どもを蹴散らさなかったのでしょう?」


 「知らないけど。ズキズキは意外と暴力的なんだね、思考が」


 そりゃあ頭使うより手を使った方が早いし。


 現在、僕は以前のように、ミーシャさん、サースヴァティーさんと一緒に<三想古代武具>の保管庫で物色していた。


 これも歴とした犯罪なんだろうけど、それでもお宝を求めてしまうのが男の子というもの。ああ、海賊たちの気持ちが少しわかった気がするよ。手足折ってごめんね。


 で、今は物色しつつ、先程のレベッカさんの様子がおかしかったことを二人に話すと、二人は作業をしながら会話に応じてくれた。


 「おそらくギワナ聖国で何か用事があるからだろうね。もしくは観光する気とか」


 「用事?」


 「ん。実はこの船には聖国の者が一人、監視役も兼ねて紛れているんだ」


 「な?!」


 僕はミーシャさんの言葉に驚いてしまった。マジか。じゃあ、この<三想古代武具>の山を処分するって言って巨船に積んでるのに、僕らが物色してたら敵対行動も良いところじゃないか。


 最初、バレなきゃいいと思ってたのに、教会の人が居たらバレるかもしれないってことじゃん。


 しかしそんな僕の不安に気づいたのか、ミーシャさんがなんとなしで言った。


 「ああ、安心していいよ。その人もワタシがここに来る前に寝かせているから」


 「......。」


 どこに安心すればいいんだろ。もう立派な敵対行動じゃんね。


 『苗床さん、この棒みたいなのなんでしょう? 苗床さんの苗床さん二本分は丈のある棒みたいです』


 『ぎゃははは! たしかに元気になった鈴木の鈴木二本分あるな!!』


 なんか魔族姉妹が下品なこと言ってるし。なんで人のイチモツで尺を取っているのかね。僕のは反り返ってるから、正確な長さはわからないだろうに。


 ってそんな下品な話をしている場合じゃないや。


 「で、その聖国の人とレベッカさんは何か関係しているんですか?」


 「いや? おそらく無いと思うよ」


 「え、無いんですか」


 「うん。ただこの船で騒動を起こす......男どもを返り討ちにしたら、心象が悪くなるだろうね。聖国で観光したいなら、教会の連中に警戒されないよう振る舞わなきゃ」


 「えっと、正当防衛でもアウトですか?」


 「そんなことは無いよ。ただレベッカの場合、<赫蛇>という異名の由来からそもそも悪目立ちしている。大人しくするのは正解だろうね」


 へぇー。レベッカさん、ギワナ聖国で観光したいがために、あの男どもに対しても大人しくしていたのか。そこまでするかな、普通。


 ちょっと引っかかるけど、そういうことにしておこう。


 「ということは、レベッカさんとはギワナ聖国でお別れですね」


 「「え?」」


 僕のそんな呟きに、二人が間の抜けた声を漏らした。


 「いや、だって僕はこの護送が終わったら、王国に戻りますから」


 「いやいや。何言っているんだい。ワタシたちと聖国で調査する約束があるだろう」


 「ズキズキったら忘れっぽいんだから〜」


 「はは、行くわけないでしょ。そんな危ないことして、僕になんのメリットがあるんですか」


 「稼げるよ! 白銀貨二枚!」


 「ああ、もしかして報酬額が少なかったから不満に思ってたのかい。言ってくれれば、白銀貨をもう一枚くらい出すのに」


 「いや、要りませんって」


 「ミーシャ、ズキズキはきっと三枚でも足りないんだよ。思い切って倍出したらどうだろ」


 「ああ、なるほど。じゃあ四枚だ。この欲しがりさんめ♡」


 「......。」


 僕は笑みを絶やさぬまま、金色の指輪を内側に回した。


 「おっと。一度警戒に入ったワタシには、透明人間になっても居場所がバレバレだよ」


 「な?!」


 僕が姿を消してこの場を去ろうとしたら、ミーシャさんがいつの間にか僕の前に立ち塞がっていた。


 マジで?! 透明人間視えてんのかよ!


 「サースヴァティー、アレを出してくれ」


 「アレ?!」


 「はーい、アレね〜」


 「アレってなに?!」


 僕は二人の会話に底知れぬ恐怖を覚えて、すぐさまこの場を立ち去ろうとした。


 が、ミーシャさんの対応がそれよりも早かった。僕の背後に回って、両腕を組み伏せてきた。


 『なんだなんだ?!』


 「ぐお?!」


 『逆レですかね』


 んな呑気なこと言っている場合か!


 床に組み伏せられた僕に対し、ミーシャさんが残念そうに言う。


 「本当はこんなことしたくなかったんだが、仕方無い」


 「おいこら! 僕に何をする気だだだだだだだ?! 折れる折れる!」


 「ちょーっと大人しくしててねー」


 ミーシャさんが線の細い身体とは思わせぬ腕力で、僕の頭を鷲掴みして上に向かせた。


 そして僕に近づくサースヴァティーさんは、その手にどこから取り出したのか、錆びついたような鉄の首輪を持ってきた。それを僕の首にはめようとするのは丸わかりだ。


 なにそれ、ヤバいやつだろ。


 「姉者さん! 妹者さん! 助け――」


 『この首輪、絶対<三想古代武具>ですよ!』


 『言ってる場合か! 鈴木を助けんぞ!』


 『駄目です! はむ!』


 『いででで! 噛み付くな!!』


 ガシャン。


 僕の首にあっさりと首輪が付けられてしまった瞬間であった。


 魔族姉妹、ここぞという時に限って争うの、マジで勘弁してくれない......。


 僕は抵抗する気も失せて、目端に涙を浮かべた。


 『ん? はめられても何ともありませんね』


 「......この首輪、なんですか」


 「それは【理想武具アイ・アーマー】の一種、<ヴリーディン>と言って、向こうしばらくは主の命令に忠実になる首輪だ」


 「なんちゅーもん着けてくれちゃってんすか......」


 「ただ代償がでかくてね。本当は使いたくなかった」


 「代償?」


 「うん。ズッキーに絶対服従を誓わせた期間分、今度は主であるワタシが服従しなければならないんだ。立場が入れ替わるって感じだね。しばらくはワタシが上だけど」


 「......その時が来たら、ドエロい仕打ちをしますから。覚悟しといてください」


 「だ、だから使いたくなかったんだ」


 くそう、これじゃあ危ない調査に手伝えって言われたら、手伝うしかないじゃないか。僕はどれくらいの間、彼女に従わなければならないのだろう。


 その効果が切り替わって、今度はミーシャさんが僕の下僕となったら、彼女には絶対に性奴隷になってもらおう。覚えてろよ。


 『ほうほう。これまた面白い武具ですね。色々と使い道はありそうです』


 『んな悠長なこと言っている場合かよ。もうこの女どもの言うこと聞くしかねぇーんだぞ』


 『それよりお二人とも足を見てください』


 と話題を変えるつもりか、姉者さんが僕の太もも辺りを見ろと言ってきたので、僕はそちらを見やった。


 僕の太ももには......それぞれ二本の棒が刺さっていた。


 あ、いや、違う。


 「く、?」


 まるで僕の太ももに刺さっているかのように見える二本の棒は、服越しだが、垂直に僕の太ももの上に立っていた。ど、どういうこと?


 というか、この棒、魔族姉妹が僕のイチモツ二本分はあるとか言ってた棒だぞ。二本あったのか。


 『なんだこれ』


 『さぁ? でもこれ、取れませんよ』


 そう言って、左手がうち一本の棒を握って、僕から取り除こうとするが、全然取れない。力入れすぎて、却って僕の足が持ち上がるくらいだ。


 あ、でも横にずらすことはできる。僕の体表をなぞるようにして動かせるから、気分は完全に冷蔵庫の上に置いた磁石だ。その磁力が強すぎて取れないといったところ。


 マジでこれなんなん。


 僕がサースヴァティーさんの方を見やると、彼女は首を横に振った。


 「知らない。なにそれ」


 僕が知りたいよ......。


 『あ、この位置まで棒をずらすと、ち◯ち◯が三本あるように見えます』


 『ぎゃははははは!! コーカサスオオカブトかよ!!』


 いや、んなこと言ってる場合......。

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