第311話 犯罪グッズがたくさん

 「へぇー。色々と大変だったわねぇ」


 「いや、他人事のように言ってますけど、レベッカさんも傭兵として雇われた身でしょう」


 「スー君居るなら、私が出るまでもないかなーって」


 てへ、と舌を出してウインクするお姉さん。年不相応に可愛らしさがあったから、憎めないのが悲しいところ。


 現在、海賊船を退けた僕は自室に戻っていた。海賊との戦いは僕一人で終わらせちゃったし、生け捕りにした賊共は船員や冒険者、傭兵たちに処遇を任せた。今日はもうゆっくりしてくれと言われたので、お言葉に甘える次第である。


 きっと賊共はギワナ聖国で裁かれることだろう。


 にしても戦闘後、軽く海賊船を見て回ったが、特にこれと言ってめぼしいものはなかったな。今まで蓄えてきた財宝は全部いただいたけど。もちろん、この<パドランの仮面>で異空間に全て収めた。


 だから金目の物以外何も無かったというのが実際の所である。


 あの三叉槍......魔法具<鯨狩り>くらいだったな、使えそうなの。


 試しにその三叉槍で海賊どもを死なない程度で試し切りしてみた。どうやらあの槍、傷を付けなくても穂を当てるだけで、麻痺させることができるらしい。便利っちゃ便利だな。


 「それで、今日も<三想古代武具>を物色しに行くのかしら?」


 僕が色々と思い出していたら、レベッカさんが退屈そうにそんなことを聞いてきた。


 特に黙っておく理由も無いので、普通に返答する。


 「ええ。まだ全部見れてないので、今晩も見に行こうかと思います」


 「......そう、気をつけてね」


 「はい」


 そう言い残し、レベッカさんはこの部屋を後にした。そろそろ見張り役の交代の時間だからだろう。どこかレベッカさんが寂しそうな表情をしているように窺えたが、気のせいかな。


 まぁ、レベッカさんのやってることって、見張りの時間帯以外はこの部屋で退屈な時間を過ごしているだけだもんな。持参した本とか読んでるみたいだけど、暇そうにしているのが目に見えて確かだったし。


 「ふむ、ここはやはりドッキリとして、僕が透明人間になってレベッカさんを驚かそ――」


 『やめろ。胸を揉む気だろ』


 「そんな......。僕にはまだそんな度胸無いよ」


 『まだって言いましたよ、この男』


 なんで男に手があるかわかる? おっぱいを揉むためだよ。


 『いいか? その気になったら、あーしらが<ギュロスの指輪>を外せるんだぞ』


 「うっ」


 『こうして見逃しているのも、先の海賊船の一件で有用な武具と証明されたからです。エッチなことに使わないでください』


 「わ、わかってるって」


 『本当か? まぁ、あーしらが居る以上、鈴木だけで行為に走れないから歯止めを効かせられるが......』


 「ま、前から思ってたけど、二人は僕のこと何だと思ってるの......」


 『どうしようもない性獣』


 『性欲の権化ですね』


 「......。」



*****



 部屋で一休みした後、日没が近づいてきたので、そろそろレベッカさんが戻ってくると考えていた。


 ちなみに部屋で何をやっていたのかというと、新しい多重系魔法の考案である。


 『これ、私たちだからできるレシピですね』


 「あ、やっぱり?」


 『ただ一歩間違えると、鈴木が弾けるぞ』


 などと、物騒な会話をさっきから三人で繰り返している。本当は実験したいんだけど、ここは船だしなぁ。人気のない且つ生物に害を与えなさそうなところで試したい。


 「さてと、そろそろ予定の頃合いだし、宝探しに行こうか」


 『私と目的は違いますが、その心意気は買います』


 『あーしは気乗りしないがなー』


 まぁまぁそう言わずに。


 部屋に出ると、少し離れた所でレベッカさんの姿を見かけた。彼女は廊下の奥からこちらへやって来ているのだが、その傍らには二人の男が居る。一人は巨漢で、もう一人は身長こそ巨漢と同じくらいだが痩身だ。 


 誰だろ、あの二人。レベッカさんの知り合いかな。


 僕が疑問に思っていると、レベッカさんは心底嫌そうな顔つきをしていた。部屋から出てきた僕の存在に気付けないくらいには。


 「なぁ、レベッカ、いいだろ? 一発ヤらせろよ」


 「気持ちよくさせてやっからさ」


 「『『......。』』」


 おおう......。二人がたった一言発しただけで、三人が一緒に居る理由がわかっちゃったよ。レベッカさんは言うまでもなく絶世の美女。そりゃあ性行為のお誘いも一入だろう。


 「もしこれからおっ始まるなら、僕は<ギュロスの指輪>を使いたい」


 『だからさせねぇーって』


 「一生のお願い」


 『んなことに使うな』


 というツッコミを受けたが、レベッカさんをよくよく見ると、なんだか男共の対応をするのが面倒って感じだ。彼女の吐いた溜息が僕の耳にまで聞こえてきそうである。


 あれやこれやと言い寄られるレベッカさんは、ついに僕の存在に気づく。


 「あ、スー君」


 「どうも」


 「んだぁ? この仮面付けたガキは」


 「ガキはあっち行け」


 仮面しててもガキってわかるのか。そこまで僕は童顔なのかな。いや、若いと見られていることは悪いことじゃない。


 僕はレベッカさんに声をかける。


 「えっと、ヤるなら僕らが使っている部屋ではなくて――」


 「ちょ、ちょっと。その言い方はあんまりじゃないかしら」


 「あ、やっぱり面倒くさそうな人に絡まれた感じですか」


 「わかってるなら、か弱い女の子を助けて?」


 カヨワイオンナノコ?


 僕の頭上に疑問符が浮かんだが、美女が助けを求めているんだ。期待に応えねば。


 すると僕よりも背の高い男二人がこちらを睨んできた。


 「まさかレベッカの男か? 随分、年の差があんじゃねぇーの」


 「ぎゃははは! レベッカはそっちの趣味があったのかよ!」


 「ちょっと。レベッカさんが困っているじゃないですか。汚いんで彼女から離れてくれません?」


 「ああ?!」


 「んだとてめぇ!! ナメた口利いてると――」


 と痩身の男が何か言いかけているところで、僕はレベッカさんの手を取って、優雅にこちらへ抱き寄せた。まるでパーティーダンスの一端のような優雅さである。


 優雅に(ここ重要なので三回言いました)。


 顔面偏差値が低くてもその行為に戸惑いは無い。そんな僕の咄嗟の行動に驚いたのは男たちだけではなく、レベッカさんもであった。


 少し気取ることにした。


 「失礼。お怪我はありませんかな? マイ・レディー」


 「す、スー君? 頭打った?」


 一応心配の声をかけたのに、頭打ったかとか正気を疑われると傷つくな。そっちがか弱い女の子とか言うから乗ったのに。


 「お、おい! てめぇ、レベッカを返せ!」


 巨漢が僕に手を伸ばしてきたので、その手をペシンと叩き落した。


 「いや、返せって。彼女嫌がってたでしょう。


 『なに口走ってんですか、この男は』


 「ぶはッ! お前みたいなガキ、レベッカが好むわけねぇだろ!」


 「もう面倒くさいんでぶっちゃけますが、僕があの<口数ノイズ>です」


 『自分で異名を口にするってなんかダセェーな』


 「「っ?!」」


 「海賊船の件とか聞いてませんか? 次、似たようなことしたら、賊どもに与えた苦痛をあなたたちにもして差し上げますから」


 僕の言葉に男どもは、ぐぬぬ、と悔しそうに歯噛みして、踵を返してこの場を立ち去った。まったく、あんなのが同じ船に居るとか呆れちゃうね。


 というか、


 「レベッカさんならあんな連中、軽く痛めつけちゃえば、もう絡まれることないでしょうに。いったいどうしたんですか?」


 「......。」


 「レベッカさん?」


 「っ?!」


 僕の呼びかけにビクッと肩を震わせた彼女は、どこか顔が赤かった気がした。


 「大丈夫ですか? 風邪ひきました?」


 「な、なんでもないわ。ちょっとスー君らしからぬ発言にドキッとして――じゃなくて、こっちまで恥ずかしくなっちゃっただけだから。は〜暑い暑い。やぁね〜」


 『すげぇ早口』


 『この女、こういう不意打ちに弱かったんですね』


 そ、そうなのか。軽いノリで返されると思ったのだが、どうやら僕は対応を間違えてしまったみたいだ。

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