第309話 海賊狩りはもはや海賊で
「あ、ミーシャさん」
「ズッキーじゃないか、おはよう」
「ズキズキ、おはよー」
ズッキー? ズキズキ? 僕が鈴木だから? なんか鈍痛っぽいからやめてほしいんだけど......。
現在、レベッカさんと見張り役を交代した僕は、甲板へと赴いた。この船の護衛として雇われたけど、正確な配置などない。自由だ。まぁ、巨船とは言え、範囲は限られているから、誰がどこを担当するなんて決める必要が無いのだ。
そんな折、つい小一時間程前に別れたミーシャさんたちと遭遇した。
彼女たちは一睡もしていないはずなのに、その表情は出会った当初と変わらない。仕事慣れしているってことか。
あ、いや、サースヴァティーさんは僕を寝床にして寝てたな。
僕はそんなことを思いながら、二人の下へ向かう。
「なんです? その変な呼び方」
「スズキって名前だろう? 親しみを込めてズッキーと呼ぼうと思って」
「私はズキズキ〜」
闇組織の人間のくせに、なんでこんな距離感近いの。
僕がジト目で二人を見ていると、ミーシャさんが僕の左手を見ながら言った。
「で? 試してみたかい?」
「ああ、透明人間になれるかどうかですか? まだです」
「なんだい、使うことに葛藤しているのか。少年は口先だけの臆病者だったんだね」
「はは、ご冗談を。今回の件で同伴しているレベッカさんが湯浴みや着替えをしないで寝ちゃったので、使うタイミングが無かっただけですよ」
「この男、相当のクズじゃないの」
「目が本気だから笑えないよね」
「ちなみにお二人の部屋は何番です?」
「このタイミングでその質問は人のすることじゃないよ」
などと、軽くあしらわれてしまった童貞である。
だったら透明人間になれるもん男に渡すなよって話。覗きに来いと言ってるようなもんじゃんね。
『鈴木、言っとくが、あーしの目が黒いうちはそんなことさせねぇーからな』
『私も宿主が覗き魔になるなんて御免ですからね』
しかし悲しきかな。魔族姉妹が居ては透明人間がままならない。両手の支配権は彼女たちに分があるから、透明人間になってもすぐに解除されそう。
ミーシャさんの話によれば、透明人間になっていられる時間は限られていないらしい。僕が喉から手が出るほど望んでいた力を手にしたのに、それを自由に使えないのは辛いよ。
「それで、今晩も<三想古代武具>を漁るんですか?」
「いや、今日は控えるつもりだよ」
「ギワナ聖国に着くまでまだ時間はあるからね。それに昨日のうちにめぼしいものは大体見れたし」
ふむ、では今日は大人しく夜を過ごそうか。
そう思った時だ。
「海賊だぁぁぁ!!!」
そんな声が後ろから聞こえてきた。
聞き間違いではないだろう。僕はつい聞き返してしまった。
「海賊?」
「どこにでも悪党は居るってことさ」
「闇の組織がなんか言ってる〜」
などと、呑気な話をしていたら、近くに居た船員さんが僕らに声を掛けてきた。
「おい、あんたら! ぼさっとしてないで仕事してくれ! そのために雇われたんだろ!」
「あ、はい。海賊ってどこです?」
「この船の後ろだ!! 奴ら、すごい勢いでこっちに向かってきてやがる!」
ああ、甲板からじゃ見えないのは無理も無いか。
僕らは船の後方へ駆けつけた。
*****
「おお! あれが海賊船!!」
「そこそこデカいね」
「なんかお宝積んでないかな」
驚く僕と興味なさそうに感想を呟くミーシャさん、なんか海賊側のセリフを吐くサースヴァティーさん。
この船の後方、数百メートル先に僕らが乗っている巨船よりやや小さい船が、こちらに向かって進んでいる様子が見えた。その船の帆にはなんとも王道的な三角帽子をかぶった頭蓋骨のマークがある。
いいね、マジで海賊船かよって感じ。
そんな海賊船は小さいながらも、乗船している連中の数はこちらより多い。まだ距離的にゴマ粒程度の大きさに見えないけど、人数はこちらが不利だということくらいはわかった。
「チッ。奴ら、この船に乗り込む気か」
「ならここで応戦するか」
「遠距離攻撃が可能な者は前に出ろ! 近づいてきたら撃て! 撃って撃って撃ちまくれぇ!」
と、こちらの護衛さんたちが手短に作戦を立て始めていた。
いやいや。海賊相手に真っ向勝負じゃ駄目でしょ。セオリーって言葉知らないの?
僕は近くを通りかかったバルク船長に声をかけた。
「バルクさん、一つ聞きたいことがあるのですが」
「うお?! も、もしかして<
ああ、仮面着けたままだった。あ、いや、これ死ぬまで外れないから仕方ないんだけど。
そんなことよりも、
「あの海賊船に乗り込んで全員蹴散らすに当たって、何か問題でもありますかね?」
僕が気になっているのは、ビーチック国とかギワナ聖国の法だ。王国とか帝国なら軽く知っているが、国が違うんだ。犯罪集団とは言え、正しい対処法があるかもしれない。
例えば、安易に人を殺しちゃいけませんよ、殺したらあなたは罪人扱いですよ、的な。
そういうところを気にしないと、今後も僕の首の価値がどんどん上がってしまう。伊達に裏社会の人から金貨二百枚、帝国から白銀貨一枚の首してないから。
「い、いや、んなもんはねぇ。賊共に慈悲かける法なんか......ギワナ聖国はちとその辺厳しいが、まだ海域はビーチック国領だ」
「ではお咎め無しですね。わかりました。ちょっとあの船に乗り込んできます」
「は?! い、いくら<
と彼は僕を止めようとしてくるが、説得しても仕方ないので、僕はさっそく海賊船の下へ向かうことにした。
この船と接触してからでもいいけど、他の人たちが居ると戦いにくいし......。ああ、いつの間にか、ソロ思考が僕に根付いてしまった。
『苗床さん、無謀過ぎないですか?』
「はは、ごめん。ちょっと試したいこともあってさ。サポートお願いできる?」
『りょー』
ということで、魔族姉妹も戦う気になってくれたみたいなので、さっそく敵陣に乗り込むことにした。
すると僕の背後からミーシャさんが落ち着いた様子で声を掛けてきた。
「ズッキー、一人で大丈夫かい?」
「ええ、なんとかやってみます」
「ズキズキ、もし死んだら、あなたの死体は有効活用すると誓おう。死んでくれ」
言葉の途中で趣旨変わってんぞ、ロリババア。
僕は片足を対象に【固有錬成:力点昇華】を発動し、宙を舞った。それから【烈火魔法:爆炎風】を駆使し、その推進力を利用して海賊船へと接近する。
「な、なんだ?! なんか飛んできてるぞ?!」
「たった一人で乗り込んで来る気か?!」
「上等だ! 野郎ども! 地獄を見せてやれぇ!」
海賊船に近づくに連れ、賊共の喧騒が聞こえてくる。空中にこんな無防備でいる僕は、海賊にとって良い的でしかない。
滑空の最中、そんな連中の誰かと目が合うほど接近できた僕は、左腕の人差し指にはまっている金色の指輪に親指を当てた。
『苗床さん?』
姉者さんから疑問の声が上がったが、僕はかまわず続けた。
この金色の指輪――<ギュロスの指輪>を指にはめた状態で内側にくるりと回すと透明人間になれるらしい。
そして僕の使えるスキルのうち、対象人物の視界から僕の姿が見失われる――消えると発動できる【縮地失跡】がある。そのスキルが発動してしまえば、僕は相手の視覚に転移できるのだ。
故に、僕は指輪を回す。
「さぁ、行くよ――海賊狩りだぁぁぁぁああ!!!」
ああ、なんて僕のためにあるような【
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