第307話 物色は命がけで
「お、この仮面、中二心擽られるな」
現在、僕はギワナ聖国行きの船の保管庫にて、<三想古代武具>の山を漁っていた。<三想古代武具>とは非常に希少な武具の総称なんだが、ここにあるのは、ほとんど呪具みたいなものばかりである。
さっきも黒縁眼鏡の<三想古代武具>があったんだけど、それはどうやら外すと失明してしまうらしい。代償でかいけど、得られる力は他人の全裸を見放題という破格のスキルであった(個人的には)。
で、今はミーシャさん、サースヴァティーさんと離れて、勝手に見物しているところだ。
なんかこの保管庫、ドン・◯ホーテの陳列棚くらい間隔せまくて移動しづらいな。まぁでも、サースヴァティーさんによれば、基本的に武具に触れなければ安全とのことで、慎重に動けば大丈夫っぽい。
そんな中、なんか格好良い仮面があったので、思わず足を止めてしまった僕である。
『ほー。これはたしかにカッチョイな』
「ね?」
『そうですか? デザインはパッと来ませんが、まぁ、平たい顔の苗床さんにはちょうどいいかもしれませんね』
殴るぞ。
僕らが注目している仮面は目元だけ隠すタイプのもので、その材質は見るからに木製だ。ただ楕円のように丸みがあるのではなく、所々角ばっているので、なんとなく格好良いなって感じがするのだ。
ちょっと目の上にある角っぽい突起物も格好良いし。色も鈍色で落ち着いた色合いだし。
僕はサースヴァティーさんに聞くことにした。
「すみません、ここにあるマスクって触っても大丈夫ですか?」
彼女はこちらをチラッと見て、すぐに自分がさっきまで見ていた物に視線を戻した。僕が聞いたマスクには興味を示さなかったみたい。
「ああー......うん。それは触っても何も起きないよ」
よし。
僕はさっそく仮面を手に取って顔に当てた。特に留具とか無いけど、なんかいい感じに顔に張り付いた。どういう仕組なんだろ。
「でもそれ――」
が、サースヴァティーさんの説明はまだ続いていた。
「一度着けたら死ぬまで外せないから、たしか」
「え゛」
僕が間の抜けた声を漏らすと、サースヴァティーさんが視線をこちらに戻してきた。彼女と目が合う。
「ちょっと警戒心無さすぎじゃない?」
「......。」
ぐうの音も出ないや。
実際、仮面を剥がそうと試みたが、全然取れる気配がしなかった。【力点昇華】を使おうとしたが、顔の皮膚が剥がれかねない危うさがあったので、止めた次第である。
『まぁでも、死んだら外せるってことだろ。あーしが生き返らせてやっから、そんときは安心しろ』
「すごく頼もしいよ。もう僕は妹者さん無しじゃ生きていけないや」
『っ?! し、仕方ねぇーやつだな! へへッ!』
サースヴァティーさんとミーシャさんが、僕の下へやってきた。ミーシャさんは何が面白いのか、さっそくやったなこいつ、という目で僕を見てくる。
さっそくやったよ、さーせんね。
「似合ってるよ、少年」
「はいはい。で、これって装着するとどんな効果があるんです?」
「えっと、たしかその仮面を通して、生物以外の物を視界に収めれば、それを異次元空間に収納できるものだったっけ。任意で出し入れできるはず」
「アイテムボックス機能付きってこと?!」
『なんか異世界らしいことがやっと始まった気がすんな』
『言っちゃ駄目ですよ。彼、地味に気にしているんですから』
そうだよ、気にしてるんだぞ。ああ、こういうのを期待していたんだ。
死ぬまで外せないとかクソ機能付きだけど。
サースヴァティーさんの続く説明では、異次元空間に収納できる量には限りが無いらしい。サイズは視界に収まれば出し入れ可能とのこと。後日、要検証だ。
しかし今更ながら、このロリババアって本当に物知りだなって思うよ。
「今、失礼なこと考えなかった?」
「いえ、全く」
「......。」
ジト目でサースヴァティーさんが見つめてくるが、ミーシャさんが捕捉で説明をしてくれた。
「アイテムボックス自体はあるんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「うん。物によるけど、大体の者はバックパック数個分くらいしか入らないはず。まぁ、それでも少年のような冒険者には、荷物が軽くなって助かるだろうけど」
あるにはあるらしいが、この仮面ほどの機能じゃないみたいだ。そう考えると破格だな。死ぬまで外せないけど。
ちなみにこの仮面は【
それはさておき、とミーシャさんが話題を切り替えようと、あるものを僕に差し出してきた。
「指輪......ですか?」
「そ。どうだい? 何か感じるかな?」
ミーシャさんが手のひらに乗せている金色の指輪からは特に何も感じなかった。売ったら高そうだなって思うくらい。
ただ彼女からは何か期待したような視線を向けられている気がする。とりあえず、ありのままの感想を口にした。
「いえ、特に」
「......そうか」
『これはどういう力が宿っているのでしょうか。苗床さん、はめてみてください』
『やめろ。鈴木に何かあったらどーすんだ』
僕の返答に、少し残念そうな顔つきを見せるミーシャさんだが、サースヴァティーさんが金色の指輪を尻目に、それがどういった代物かを教えてくれた。
「<ギュロスの指輪>......【
『なッ?! 【
『ま、マジかよ。特に珍しい代物じゃねぇか』
魔族姉妹の驚きの声はもちろん二人には聞こえていない。サースヴァティーさんはいつもより声音を低くして語った。その雰囲気からして、冗談じゃ済まされないと言わんばかりに。
「代償から語ろうか。それは一度......そう、たった一度使っただけで、罪を背負うことになる。人々から無条件に忌み嫌われるんだ」
「そ、それはどういう......」
「絶対じゃないよ。例えば、ナエドコ君を知る者は嫌悪感を抱くことはそうないはず。が、逆にナエドコ君を知らない者からは、特にあなたが何もしなくても気味悪がられるんだ」
な、なんだ、その呪い......。
いやまぁ、ここにあるのは呪具って聞いたから不思議じゃないけど。
「そして皮肉なことに、この指輪の力を使ってしまうと、捨てられなくなるんだ。手放すことに抵抗感を覚えてしまう。人間の知性や合理的思考、将又、理性故か......捨てられない人となる」
ミーシャさんはそんなサースヴァティーさんの話の続きを語った。
「これはね、過去に一度も使いこなせた者が居ない【
彼女のいまいちパッと来ない話に、僕の頭上には疑問符が浮かびっぱなしだ。
ミーシャさんの話を聞いてると、この指輪を知っているのがサースヴァティーさんだけじゃない気がする。まるでミーシャさんも、以前、使ったかのような言い草に思えた。
彼女はそれを僕に差し出してくる。
「どうだい? 欲しいかい?」
「い、要りませんよ。どんな力があるのか知りませんが、代償が重すぎますって」
「ああ、そうだった。どんな力があるか教えてなかったね」
そう言って、ミーシャさんは指輪を掲げて、その輪の中から僕を覗き込むように片目を瞑った。
「指輪の力を使うと、使用者は透明人間になれるんだ」
僕は迷わず、左手の人差し指を金色の指輪に差し込んだ。ミーシャさんの眼球直撃は未遂だったが、その行為に寸分の狂いもなかった。
ズボッと。
「「『『え゛』』」」
誰もが僕のその行為を目の当たりにして、間の抜けた声を漏らしたのであった。
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