第306話 <三想古代武具>
「んんー、むにゃむにゃ」
「......。」
今は深夜帯で、とっくに港を出航したこの船は海原の真ん中であった。だからか、やたらと風がこの船を煽るので寒く感じでしまう。
そんな中、用心棒として雇われた僕は、割り当てられた部屋にて、ベッドの上で寝ていた。
天色の髪の少女と一緒に。
いや、犯罪的な意味じゃなくてね? それに少女ってか、龍種のロリババアだけど。
この部屋には居なかった少女が、なぜか僕の上で、僕を下敷きにして寝ているのだ。どういうこと? 寝心地悪いなーと思って起きたら、なんか上に居るんですけど。
というか、この子、どうやって僕がこの部屋に居ることを知ったんだろ。
......まぁ、闇組織の人間だし、昼間見せてきた乗船者リストに色々と情報が書かれていたからなぁ。そりゃあバレてるか。さすがプロ。ちくしょう。
あれ、でも部屋の鍵は閉めていたはず......。
そう思い出しながら部屋のドアを見やった。
「......。」
そこにドアは無かった。あったけど、本来あるべきところから外れてた。
乱暴にこじ開けられていたみたいで、この部屋の戸締まりなんて概念はぶっ壊されていた。
なんで僕はドアが破壊されたことすら気づかなかったのだろう......。
とりあえず気持ちよさそうに寝ているみたいだし、魔族姉妹を起こすか。
「ねぇ、二人とも。起きてる?」
『んあ? あさかぁ?』
『一睡もしてません。そろそろ苗床さんを叩き起こそうかと思ってました』
前者は寝ていたようで、後者は興奮して夜も眠れなかったみたい。
姉者さん、起きてたんなら、この子の侵入を教えてくれてもよかったじゃん。
妹者さんはどこか寝惚けた様子だったが、僕の上に乗っているのが年端も行かぬ少女と気づいて大声を上げた。
『お、おおおおおお前!! ガキンチョどもが居ないからって他所のガキと寝るとは......み、見損なったぞ! このペド野郎ッ!』
妹者さんは僕のことなんだと思っているのだろうか。
しかし珍しいことに、姉者さんが僕を庇ってくれた。
『落ち着きなさい。この子は例の龍種の子ですよ』
『あ』
『少し前にこの部屋に現れては、なぜか苗床さんの上に覆いかぶさって寝ました』
「なぜ僕を起こさないの?」
『このロリババアの魔力を調べていたんですよ』
魔力を調べていた?
姉者さんはピンと来ていない僕に、いつの間にか龍種の少女に当てていた鉄鎖を取って見せてきた。
『このロリババア、魔力を隠すのが上手いようでして、部屋に入ってくるまで接近に気づけませんでした。なので、次からは察知しやすいように魔力の質を覚えているんです』
へぇー。姉者さんの鉄鎖ってそういうことができるんだ。
『さて、もうやることは終わりましたし、さっそくお宝探しをしましょう』
「本当にするの......」
『苗床さん、あなた、<三想古代武具>の良さがわからないなんて、人生の半分は損してますよ』
『姉者がこう言ったら何言っても無駄だ。行くぞ、鈴木』
そう言って、妹者さんは僕の上で気持ちよさそうに寝ているサースヴァティーさんを小突いて起こした。
ざ、雑な起こし方だな。
で、起きた本人は僕をマット代わりにしていたことに気づき、ハッと目を覚ます。その際、少女の口からツーっと涎が垂れている様を目にした。
うわ......。
汚いとまでは言うつもりはないけど、少女の涎を聖水と呼べるほど、僕は上級者じゃなかったのである。
*****
「謎の生命体を連れてきた〜」
人のことを謎の生命体って言うのやめて。
「遅いよ、サースヴァティー」
「めんご」
龍種の少女に連れられてやってきたのは、この巨船の保管庫だ。無論、保管されているのはギワナ聖国へ廃棄目的として運ばれる<三想古代武具>の山である。
チェルクスさんの話によれば、それら全てが呪具という恐ろしい武具らしいが。
で、そんな物騒なもんが保管されている部屋に辿り着いた僕は、その入口付近に居たミーシャさんと再会する。彼女の傍らには心地よさそうに寝ている中年が居た。
おそらく見張り役だろう。護衛初日から寝てんのか。大丈夫か、今回の依頼。
そんな僕の視線に気づいたのか、ミーシャさんが笑みを浮かべて答えた。
「ああ、安心して。この男はしばらく起きないから」
「え?」
「魔法で寝かせたんだよ」
あんたが寝かせたんかい。
「じゃあさっそく物色しようか」
「わくわくするね!」
「......。」
僕、本当にこんなことしていいのかな......。
******
「お、おおー!」
「これはまた......すごい数だね」
『おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
姉者さんが今までに無いくらい興奮しきった歓喜の声を上げている。ちょっと怖い。
<三想古代武具>の保管庫に入った僕らは、目の前に広がる光景に圧巻していた。<三想古代武具>の山、思った以上に積まれている。
少なくとも雑に扱われているわけじゃない。大きさが統一されているものは棚に並べられて、大きすぎるものは部屋の隅などに置かれている。そのどれもが上から札のような物が貼られていて、「さわるなキケン」と書かれていた。
「ほうほう。これまた珍しいものばかり」
などと、サースヴァティーさんが辺りを見渡しながら、無い髭を擦るように顎に手を当てている。
そんな少女を他所に、ミーシャさんが僕の隣に立って囁いてきた。
「サースヴァティーはね、おそらくここにあるほぼ全ての<三想古代武具>の正体を知っている。ワタシに言わせれば、彼女ほど詳しい者はそう居ないよ」
「え、それって......」
「そ。彼女に聞けば安全ってことさ」
マジか。めっちゃイージーじゃん。気軽に物色できるの、最高かよ。
『さっすが数百年生きた龍はちげぇーな。まぁ、呪具のほとんどは見つかり次第、乱用防止や性質の突止め目的で書物に残したりすっから、割と知られてっかもな』
『チッ。何が起こるかわからないからこそ面白さがあるというのに......。ほんっと世の中には、人生の半分を損している人がたくさん居ますね』
どうやら左手は自分の推しに対して、他者から理解が得られないと「人生の半分は損してますね」と言うタイプの人間らしい。
理解してないこっちからしたら、人生の半分を無駄にしてるよって言いたいが。
「お、これなんか格好良いね。少年に似合いそうだ」
そう言って、ミーシャさんが近くの棚から黒縁眼鏡らしきものを取った。
耳には掛けていなかったが、そのレンズ越しに僕を見つめてくる。
メガネ系美女......良いね。
僕がそんなことを考えていると、僕をレンズ越しに見ていたミーシャさんがプイッと視線を逸らした。彼女が頬に朱を差す様を目にする。そして彼女はその黒縁メガネを元あった場所に戻す。
どうしたんだろ、と思いきや、少し離れた所に居たサースヴァティーさんが声をかけてきた。
「それは【
瞬間、僕は黒縁眼鏡を手にし、掛けようとした。
が、右手が僕の目的を察し、抵抗する。
グググと右腕の支配権を賭けて、互いに一歩も引かない緊迫した空気が生まれた。
『おい、鈴木、てめぇー、その眼鏡を掛けてどうする気だ』
「ミーシャさんを見たい」
『この男、ついに隠すことを止めましたよ』
『あーしがそんなことさせねぇーから! って力強ッ!』
「【固有錬成:力点――」
『ばッ! こんなことにスキル使うな!!』
と怒鳴る妹者さんを他所に、僕はかまわずスキルを使った。
が、
「――しょうかぁぁぁああ!」
バキッ。
『あ、壊れた』
「ああぁぁぁああぁぁああ!!」
『さすがの【
僕はひしゃげた黒縁眼鏡を前に、四つん這いになって悔し泣きした。血涙が流れるとはこのことか。
そんな必死な様子の僕を前に、サースヴァティーさんがドン引きする。
「そ、それはちょっと男としてどうなの。プライドとか、倫理観とか、その辺......」
そんなもの、この異世界転移と共に置いてきたわ。
ミーシャさんは僕を憐れみの目で見てくる。
「そ、その、なんだ。ワタシの貧相な身体を見ても虚しくなるだけだよ」
「何を仰いますか。普通に勃起しますよ」
『普通にセクハラしてんじゃねぇーよ』
「す、素直に喜べない評価だね......」
うるせぇ。こっちは必死なんだよ。
サースヴァティーさんが捕捉で説明してくれた。
「それに<ミーエル>は眼鏡を外すと失明するんだ。掛けなくて正解だよ」
『うっわ、ちゃんと呪具として機能してんな』
「へぇ。ならワタシは眼鏡を装着せずとも効果を確認できたけど、あのまま耳にかけていたら危なかったね」
マジか。まぁ、僕は妹者さんのスキルのおかげできっと元通りになるだろうけど、ミーシャさんは失明してたかもしれないってことか。
ん? 眼鏡を装着しなくても、レンズ越しなら人の衣服が透けて見えるってことだよね?
じゃあ、ミーシャさんがレンズ越しに僕を見てから目を背けたのって......。
「ミーシャさん、さっき僕の裸を見たんですか?」
「......日頃から鍛えている良い身体をしていると思う」
「......。」
僕のち◯こは無料で見られたのか......。ということで、ギワナ聖国に行く前に、呪具が一つ破壊されたのであった。
はい、次ぃ!!
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