第305話 裏社会の人と仲良くなりました
「闇組織の人間だゾ♡」
などと、可愛らしくピースするスレンダー美女は、宣言通り、闇組織の人っぽい。
まーじで勘弁してほしい。
現在、僕はギワナ聖国行きの船の上で唖然としていた。目の前には絶世の美女、膝上には愛らしい少女。前者は未だに正体不明だが、後者はファンタジー世界ならではの龍種と来た。
いや、どういう状況。
『こんな登場の仕方でびっくりしましたが、やることは変わりません。相手は私たちに正体をバラしても、問題無い存在なのだと捉えましょう』
なるほど。そもそも敵対していたら、こんな雰囲気にならないか。
「えっと、闇組織とは......もしかしてファントム――ッ?!」
途端、いつの間にか接近してきたスレンダー美女が、僕の唇にそっと人差し指を当てた。そして先程までの茶目っ気を掻き消して、幾分か低い声音で言う。
「少年、あまり大層な名前を人が居る所で言わない方がいい。どこに耳があるかわからないからね」
まだ僕らの間に距離はあったはずだ。それを一瞬で近づかれるとは......。警戒は欠かさなかったはずなのに。
魔族姉妹がすぐさま臨戦態勢に入ろうとしたが、次の瞬間にはミーシャと呼ばれる女性が先程までの剣呑な雰囲気を消して、ニコリと爽やかな笑みを浮かべることで一旦の冷静さを取り戻した。
スレンダー美女が口を開く。
「言っておくけど、ワタシたちの目的はギワナ聖国の中央にある教会本部の侵入だ。今ここでどうこうする訳じゃないよ」
「......それを信じろと?」
「ふふ。これを読みたまえ」
そう言って、スレンダー美女はどこからか、数枚の真っ黒な紙を取り出した。その紙は日本人の僕からしたらB5サイズくらいで、かなり上質な紙と言える代物である。
そこには白い字で大項目がこう書かれていた。
「“乗船者リスト”?」
『なんですか、これ。“冒険者ナエドコ、ここ最近で傭兵になった。今回の依頼ではギワナ聖国まで護送を担当。体内に他種族の核が複数あり、共存している不思議生命体。また死ににくい体質。要注意人物”......色々と書かれてますね』
『鈴木だけじゃねぇー。あたしら以外の用心棒、船員の情報まで詳細にかかれてやがる』
魔族姉妹の言う通り、この黒い紙には色々と情報が乗っていた。
もちろんレベッカさんのことまで。ただ彼女の場合は情報量が他と比べて圧倒的に少ない。異名とか得意とする戦法とか個人情報と言えるものは、さほど多くなかった。
にしても、どこでこんな情報を......。
「それはワタシたちが今回の依頼を受けるに当たって、依頼主から事前情報として渡されていたのさ」
「依頼主?」
「少年がさっき口にしていた組織だね」
まーじか。
<
でも悲しきかな。僕の右腕に付いている漆黒のブレスレットのせいで、<1st>にはこちらの情報は筒抜けである。おまけにいつでも転移させることができるという機能付きだ。
だからこっちの情報は悪用されていても不思議じゃないのだ。
それでもまだ拭いきれない違和感はあるんだけど。
というか、
「なんでそんなこと僕に教えてくれるんです?」
僕のその言葉に、スレンダー美女はニヤリと笑みを浮かべた。
「少年に協力してもらいたくてね?」
僕は嫌な予感がしたので、何も見なかった、聞かなかったことにして、この場を立ち去ろうとした。
が、
「まだ話は終わってないよ!」
龍種の少女に先回りされてしまった。
彼女は両手を広げて、ばたばたと振りながら通せん坊している。
そして僕は背後から肩を掴まれた。
スレンダー美女に。
「つれないなぁ。ワタシと少年の仲じゃないか」
「......。」
だから浅いんだよ、その仲。さっき会ったばっかだろ。
*****
「私たちの目的は大きくわけて二つ」
「僕は悪の組織に手を貸したりなんかしない――あだだだだだ!!」
「こらこら。サースヴァティー、少年をいじめちゃいけないよ」
「めんご」
現在、僕はサースヴァティーという少女に組み伏せられている。見た目はルホスちゃんと同じくらいなのに、うつ伏せの僕に乗っかる彼女は岩のように動かない。
龍種の肩書は伊達じゃなかった。
『あーしら、これからどーなんだろ』
『まぁ、もう流れに身を任せるしかありませんよ。いつものことです』
『いつものことだよなぁー』
魔族姉妹は呑気に会話してるし。
ミーシャと呼ばれるスレンダー美女がそんな僕を見下ろしながら、ナチュラルに説明に入った。説明してくるなよ。説明聞いたら巻き込まれるジンクスが成り立っちゃうだろ。
「まず一つ、<三想古代武具>の物色」
『是非手伝いましょう』
『おい、バカ姉貴が乗り気になってんぞ』
とりあえず殴っといて。今の僕じゃ姉者さんを殴れないから。
「聞いてると思うけど、この船には多くの<三想古代武具>が積まれている。全てギワナ聖国に渡って、破壊や封印を施されるんだ。その前に使えそうな<三想古代武具>があれば持ち帰ろうと思ってね」
「さいですか。僕は知りませんから、お好きにどうぞ」
「どうだい? 少年もワタシたちと一緒に物色しないかい?」
「いえ、結構です」
「気に入った物があれば好きに持ち帰っていいからね。なに、ただ保管しているだけで、特に帳簿や記録に残していないから、バレやしないよ」
「この国の人って、話聞かない人が多いんですか?」
駄目だ。そんな話を聞いたら左手がやる気になってしまう。
『ああ、この船は宝船だったのですね』
遅かった。
「で、二つ目はこの船の行き先、ギワナ聖国での調査」
なんかヤバそうなの来た。いや、彼女たちがここに居る理由を聞いたら、ギワナ聖国でなんかするのだろうなと思ってたけど。
ミーシャさんは続けた。
「おかしいと思わないかい? なぜギワナ聖国が他国から、呪いの武具とまで呼ばれる<三想古代武具>を掻き集めているのか。それも大枚はたいて。やることは結局のところ、破壊と封印なのにね」
たしかに......。
今回の件、僕はこの船の護送だけで、前払いで白銀貨二枚を貰った。もちろん、これはギワナ聖国の教会連中が傭兵ギルドを通して成り立っている依頼なので、その金の出どころは聖国である。
「それは......神のお導き的なアレじゃないですかね?」
「はは。それも含めての調査さ。なに、本当に綺麗な信仰心しか無ければ問題は起こらないよ。......いつだって悪意が問題の引き金になっているんだからね」
そう言い切るミーシャさんはどこか虚ろ気な視線を僕に向けている。思わず悪寒が走った気がした。
しかしそれも束の間、ミーシャさんは先程の冷たい雰囲気を霧散させ、にっこりと笑みを浮かべて、手をパンと叩いた。
「さて、そろそろ出航の時間だ。<三想古代武具>の物色は......皆が寝静まった頃にしようか。見張り役もいるだろうが、まぁ、どうとでもなる」
などと、彼女の言葉を最後に僕らは一旦解散となった。
去り際、サースヴァティーさんが僕についていくと言って聞かなかったが、ミーシャさんに首根っこ掴まれて退散していった。なんというか、とんでもないことに巻き込まれそうな僕であった。
『鈴木、奴らの誘いに乗るか?』
「乗るわけないでしょ。無視だ、無視」
『はは、ご冗談を。死んでも行きますからね。なんなら苗床さんが眠りについて意識を失った時点で、私があなたの身体を使いますから』
「『......。』」
こいつ、なんなん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます