第287話 傭兵ギルド

 「ここが......傭兵ギルド?」


 「そうよ」


 現在、僕、ロリっ子共、レベッカさんはビーチック国のとある組合に赴いていた。その組合とは大陸共通で各国にある冒険者ギルドと似ていて――傭兵ギルドと呼ばれる組合だ。


 冒険者ギルドと似ているところは、ギルドが依頼者からクエストを受け取って管理するところらしい。違うのはその先、冒険者ギルドではその依頼を冒険者自身が吟味して選ぶのだが、傭兵ギルドは傭兵ではなく、ギルド側が指名してくるとのこと。


 なんとギルド側が適任かどうかを見極めて依頼を提示してくるのだ。もちろん、依頼者側も指名はできるらしい。


 で、依頼を受けるかどうかの交渉段階に移ってからは、後は報酬額の話をするだけなのだとか。


 この報酬ってのは、以前レベッカさんと話したことだね。料金を後払いか、前払いかによって、傭兵は依頼を受けても、その依頼を完遂するかどうかに義務の有無が生じてくる。


 依頼主との交渉がある分、面倒な職種というイメージしか抱かないな。


 「お、おい。ここどう見ても酒場だろ......」


 「お、お酒臭いです......」


 と、僕をまるで盾にするかのように、後ろで控えているロリっ子共がそんなことを言う。


 そう、僕らがやってきた傭兵ギルドは外装が酒場なのだ。西部劇なんかで出てくるような酒場。ウエスタンドアということもあってか、中から漂う酒臭さや煙草臭さが僕らの鼻を襲ってきたのだ。


 んでもって、そのドアの構造から、外からでも建物の中の光景の一部が垣間見える。


 飲んだくれている者ばっかだ。なにここ。


 『酒臭ぇが飲みてぇー』


 『お酒はこの世の宝です』


 魔族姉妹はどうやらお酒が好きみたい。そんな話は初耳だな。今度、お金に余裕が生まれたら、両手の口にワインでも買ってあげよう。


 ......両手がお酒を飲むなんて光景を想像したら、シュールすぎて笑えなくなった。


 「大体どこもこんな感じよ」


 「さいですか......」


 レベッカさんは店の前で立ち止まった僕よりも前に出て、ウエスタンドアを押して中に入った。


 「うっ」


 「ぐっ」


 「うわ......」


 僕、ロリっ子共は揃って鼻を摘む。外まで漂ってきた酒臭さと煙草臭さを濃縮したような臭い。気分悪くなりそう......。


 建物の中は非常に暗かった。今が昼間ってのもあるけど、窓から差し込む日差しくらいで、灯りなんてろくに点けてないから、やけに薄暗く感じる。


 そんでもって部屋の中央こそ席は無いが、両脇には四人で固まれるような円形テーブルがある。どの席も空きが無いほど人で埋まっている。


 で、その殆どの人が中年たちで、中には女性もちらほら居るが、誰もが目つきを鋭くして僕らを見据えていた。


 ちょっと怖くて足が震えてきた。


 「おい、ここはガキが来るようなとこじゃねぇぞ」


 するとうち一人が、僕らに向かってそんなことを言ってきた。声を掛けてきた方を見れば、ガラの悪そうな中年が口に煙草を咥えていた。


 しかしそんな中年の肩を掴んで、続けられるだろう言葉を遮る者が居た。


 「ばッ! やめろ! あいつ、昨日、喧嘩ふっかけてきた<爆走の王族キングダム>を返り討ちにした奴だぞ!」


 「なッ?! あのBランクパーティーを?! ってことは......」


 「ああ。あのガキが......<口数ノイズ>だ」


 出ました。いきなり新たな異名を口にする者が現れました。


 言われてムズムズしちゃうよ......。


 「レベッカか」


 すると奥のカウンターの方から低く、それでいて静かな声が聞こえてきた。まるでこのバーみたいなお店のマスターかのような雰囲気で。キュッキュッとグラスを拭いている男性の姿があった。


 お約束かなんなのかわからないが、剥げている人だ。体格もがっしりとしている。格好もマスターのイメージを崩さない黒を基調とした礼服である。胸元までシャツのボタンを外しているので、大人の色気プンプンだ。


 そんな男の下まで向かい、レベッカさんが口を開く。


 「チェルクス、昨日話してた件だけど......」


 「仕事が早くて助かる。ほらよ」


 チェルクスと呼ばれるマスターさんは、カウンターテーブルの下から何やら重量感のある麻袋を取り出して、その上に置いた。それをレベッカさんが受け取る。


 その光景に、僕は嫌な予感を覚えた。


 「あら、思ったよりも報酬良いわね」


 「なに、こっちはお前のおかげで良い思いできてるからな。ちっとばかし色を付けただけだ」


 「あの、レベッカさん、今のやり取りでなんとなく察したんですが......」


 「ええ。スー君を傭兵業界に勧誘しろって依頼を受けてたの」


 「......。」


 マジか......。僕はジト目でレベッカさんを見やる。なんか嵌められた感がパない。


 「さて、坊主。さっそくだが、お前に受けてもらいたい依頼がある」


 「いや、僕はまだここに来ただけで、何も登録とかしてませんから、仕事の話に移らないでください」


 「ああ、そうだったな。俺の悪い癖だ。俺はチェルクスって言う。この国の傭兵ギルドのマスターだ」


 『話聞いてねぇな。鈴木、帰んぞ』


 『同感です。ちょっと怖くなってきました』


 「自己紹介いいっす。じゃ」


 色々ときな臭くなってきた僕は回れ右して、ロリっ子共の背を押してこの場を立ち去ろうとした。


 が、


 「ちょっと駄目じゃない。お金が必要なんでしょ?」


 「......。」


 いつの間にか、レベッカさんが回れ右した僕の眼の前に立っていて、にこやかな笑みを浮かべている。


 全然目が笑ってない笑みだ。


 「依頼ってのは、二つあってな。まず一つは――」


 後ろに居るハゲ野郎はかまわず依頼の話に入ってるし。


 無理あんだろ。続けるなよ。


 「お前さんの実力を知りたい。いくら<赫蛇>の伝手とは言え、この業界は実力でそいつの価値が決まるとこだ。伝手じゃねー」


 「辞めます。傭兵として迎えてくださりありがとうございました。今日で辞めさせていただきます」


 そう言い張る僕を他所に、レベッカさんは僕の肩を掴んで、再び回れ右させて、カウンターの席に座らせた。


 帰らせない気だ、この人。


 僕を座らせた後、彼女はロリっ子共を僕の両脇の席に座らせるように誘導していた。


 僕らが座った席には、既にコースターの上に飲み物が置かれていた。いつの間に......。


 ロリっ子共には気を使ってくれたのか、ロックグラスの中にオレンジジュースっぽいのが入っている。


 僕のはカクテルグラスに、青色のお酒っぽいのが入っていた。そこには一つ、真っ赤なさくらんぼのような実が沈んでいた。


 僕の気持ちを体現しているようだ。


 「お、うま! なんだこれ!」


 「これ......昔食べたことあるピカトロの果実に似ています」


 ロリっ子共、早速飲んでるよ。警戒心どこに置いてきた。僕が拾ってくるから教えて。


 僕は呆れて、大人しく話を聞くことにした。ハゲ野郎が話を続ける。


 「どうやって僕の実力を測るんです?」


 「なに、簡単だ。俺が指定した奴を殺すか、再起不能にしてくれればいい。なんならこの国から追い出すだけでもいい」


 「......。」


 いきなり物騒なの来た......。

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