第284話 強面おっさんに絡まれた!
「で、どうやって日銭を稼ぐんだ」
というルホスちゃんの言葉に、僕はあまり考えたくなかったことを思い出してしまった。
いや、考えなくちゃいけないんだけど、どうしても良い手段が思い浮かばなかった。
現在、僕らはビーチック国のとある食堂にて、安くてボリュームのあるメニューを食していたところだ。
日銭。そう、僕らは金欠なのだ。一応、帝国に居た頃、皇女さんの護衛をする前にもダンジョンで少し稼げたし、護衛をしているときも皇女さんからお小遣いを貰っていた。
あれ、なんか僕、年下美少女からお駄賃貰ってたことに、急に辛くなってきた。
本当は今とっている食事だって、少しでも浪費を押さえるために自炊をしなきゃいけないんだけど、毎回毎回ルホスちゃんが馬鹿みたい食べるせいで、僕が料理するのが疲れてしまったのである。
いっつも十人前以上作ってるんだよ。料理をするのは好きだけど、帝国を発ってからずっとそんな生活だと気が滅入る。
ということで、偶には外食をしに、この食堂へやってきたわけだ。
『冒険者ギルドで稼ぎたいんだけどなー』
妹者さんの言う冒険者ギルドは、このビーチック国にもある。規模は王国と帝国に比べて小さいらしいけど。
『苗床さんは今じゃ指名手配犯なんですよね』
「ギルドは各国共通で、中立的な立場なんでしょ。クエストは受けられないの?」
『無理だろーな。未遂とはいえ、一国の王を狙ったんだし。ギルドが表立って人集めて捕まえに来る訳じゃねーが、クエストは受けれねーぞ、きっと』
「た、たしか冒険者が犯罪者になった場合は、ライセンスも剥奪されるんでしたっけ」
「え、そうなの? じゃあ僕が今持っている身分証は使えなくなるの?」
『いえ、冒険者としてのライセンスが無効になるだけです。身分証としては使えますよ』
『もしかしたら、その懸賞金の話が、この国の冒険者ギルドにクエストとして貼られているかもな』
マジか。こうして外を出歩くのも控えた方がいいのかな。
僕がそんなことを考えていると、
「よぉ、あんちゃん。確認してぇんだが、Dランク冒険者の“ナエドコ”ってのはお前さんか?」
「......。」
僕らの居る席を囲むようにして、複数人の強面おっさん共が現れた。
ああー、自炊すればよかった。そんな後悔の念を抱いてしまう僕であった。
「いえ、人違いです」
「はッ。嘘吐け。手配書に書かれてる特徴と一致してんぞ。“黒髪、十代少年、中肉中背、童貞オーラを纏ってる”ってよ」
「「ぎゃはははは!!」」
ちょっと帝国に戻って滅ぼして来ようかな。
周りの客がそんな騒ぎを起こす僕らに注目した頃合いだ。僕は背後に居るおっさんに後頭部を掴まれて、テーブルの上にあるスープの入った木皿に頭を叩き付けられた。
中身のスープは熱々といほど熱くはなかったが、それでも勢いがあったため、僕のテーブルの上の食器のほとんどはひっくり返ってしまった。
「す、スズキさんッ!!」
「おいおい! こんな弱そうなガキが白銀貨一枚相当の首してんのかよ! 帝国は馬鹿なのか?!」
「ちげぇーねぇー! こりゃあしばらく遊んでくらせるな!!」
「ぎゃはははは!!」
「俺らBランクパーティーの<
何が面白いのか、強面共は顔がスープまみれの僕を見下ろしながら馬鹿笑いしている。
こいつら冒険者なのか。<
そんな連中に囲まれて、ウズメちゃんが心配そうな顔を向けてくるが、すぐさま隣に居るルホスちゃんが手で彼女を制した。ルホスちゃんが独り言の声量で「ほっとけ」と言ったのが聞こえてきた。
僕は心配されていないのだろうか。――いや、この程度の連中、僕の相手にもならないと見ているのだろう。
「お、おい! 争い事は外でやってくれないか!」
「ああ?」
すると店の奥から店主が僕らの下へやってきて、顔を青ざめさせならも言ってきた。僕の平たい顔面をテーブルに叩き付けた男が、そんな店主の方へと振り向く。
周りの客たちも僕らの騒ぎを目にして、店の奥に避難か、出ていく者すら見受けられた。これでは立派な営業妨害じゃないか。
はぁ......仕方ない。
「俺の店で騒ぎを起こさないでくれッ!」
「は? 今から俺らがこの犯罪者を処刑すんだぞ――」
「【固有錬成:害転々】」
瞬間、強面の顔面が、まるで見えないパンチでも食らったかのように変形した。男が鼻血を撒き散らす中、後方へ仰け反るそいつはそのままガシャンッと盛大に音を立てながら倒れた。
男が倒れた先で、近くの席がひっくり返ってしまった。
やべ。
「「「「「え゛」」」」」
「あ、あはは。すみません、騒がしくしちゃって。外出ますね」
この場に居る誰もが間の抜けた声を漏らす。
<
【固有錬成:害転々】。対象が“害”を与えられた場合、“害”を与えた者にその“害”をお返しするスキルだ。
そのスキルのおかげで、この男は周りから見たら勝手に倒れたようになったんだけど、まぁいい。
未だに地面に倒れて目をパチクリとさせている強面おっさんの足を掴み、僕は店の外へと引きずった。
「いだッ! ちょ――」
「白銀貨一枚がどれくらい価値があるのか、実感の湧かない僕だけど......」
僕はにっこりと笑みを浮かべて続ける。
「あんたら程度が稼ぐなんて無理だね」
「「「「「っ?!」」」」」
そう言い切った僕に対して、Bランクパーティーの<
『す、鈴木、かっけぇー!!』
「か、格好良い......」
「ま、まぁまぁだな、うん」
『はぁ......世も末です』
外野は煩いが。
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