第八章 傭兵、止めてもいいですか?
第282話 野営にてのほほん
「ほへぇ」
「「......。」」
『このアホ面、いつまで晒す気なんでしょうか』
『まったくだぜ』
現在、帝国城を発った僕らは馬車に揺られながら、隣国のビーチック国へ向かっていた。予定ではあと二日もすれば着くのだとか。
平坦な道をずっと進んでいるだけだな。近くには木々も人の気配も無いから、自然豊かな風景が続いているだけだ。
また今乗っている馬車の御者は中年男性で、皇帝さんが手配してくれた人だ。僕らを隣国まで送り届けてくれるらしい。御者さんは僕らを指名手配犯とわかっていても騒ぎ立てないのは、やはり皇帝さんの権力かなんかのおかげだろう。
で、僕は馬車の窓から沈みゆく夕日を眺めていた。
余韻に浸っているのだ。絶世の美少女、帝国皇女のロトルさんにキスされた事実を何度も思い返して。
「へへ......ロトルさん」
「スズキ、マジでキモい」
「す、スズキさん、いい加減にしてください......」
ロリっ子共が僕に辛辣な言葉をぶつけてくる。
はぁ。これだから美少女たちは困る。
いいかい? 君らのように顔面偏差値の高い女の子は、将来、素敵な異性と出会ってキスとかハグには困らない人生を歩むだろう。
僕はどうだと思う? 一生に一度あるか無いかだぞ。平たい顔の黄色人種だぞ。
しばらくアホ面晒したっていいじゃないか。
「ああ、僕のファーストキスはこんな素敵な思い出で良かったのだろうか」
『いえ、あなたのファーストキスはシバという男の娘です』
ちげぇーよ。シバさんは男だからノーカンだよ。てか、男の娘って言うな。
僕がそんなことを考えていると、御者の人が馬車の中に居る僕らに向けて、話すことがあるとノックをして合図をしてきた。
僕は馬車のドアを開けて、御者の人に要件を聞く。
「そろそろ日が暮れる。今日はもう少し先まで行ったら、そこで休もうと思う。近くには川が流れてるから、水浴びでもしてくるといいぞ」
「わかりました。よろしくお願いします」
ということで、そろそろ野宿が始まろうとしていた。
僕は馬車の中に再び身を引っ込めた。
「今日はもう少ししたら休むって」
「はぁー。やっとかー」
「ち、近くでは水浴びできるようですね?」
『お、聞こえていたのか。エルフっ子は耳が良いな』
『伊達に耳が性感帯じゃありませんね』
いや、性感帯は関係無いでしょ。
それから馬車を止めて、僕らは野営の準備を始めた。御者さんはそのまま自身の席で食事して寝るみたい。別に彼と特別話たい訳じゃないからいいけど、絶妙な距離感を保っていることに関心してしまう。
外に出た僕らは、荷台から晩ご飯の食材や携帯用の掛け布団などを取り出して準備に取り掛かった。
ちなみに荷台に積まれていた食材やら寝具などは、これまた僕らへの餞別のつもりか、色々と気を使ってくれてみたいで、事前に準備することは一切無かった。
「あまり手の込んだ物は作れないからスープでいっか」
『うい〜』
「わ、私も手伝います」
と、ウズメちゃんが気を使ってくれたので、僕は気持ちだけ受け取ることにした。
「ありがと。でも大丈夫だから、川の水が更に冷たくなる前に、ルホスちゃんと水浴びしてきたら?」
『先に行かせて覗く気ですか?』
「スズキの変態ッ!」
こいつら晩飯抜きでもいいかな。
「え、私は後でスズキさんと水浴びするつもりでしたが......」
「『『「え゛」』』」
エルフっ子の言葉に聞いて、僕らは思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。
そうだった。エルフっ子、自分の裸身を他人に見せてもなんとも思わない系の子だった。種族特有の価値観なのかわからないが、当初の頃とは違って、僕と一緒にする必要は無いでしょ。
『お、おい、鬼のガキ、スズキがロリコンになるかもしんねーから、エルフっ子を連れてけ』
「ならないよ?」
「わかった! ほら、ウズメ! 我と一緒に行くぞ!」
『安心してください。私たちが、苗床さんが道を違えないように見張ってますので』
「違えないよ?」
なんなの、皆して僕のことをなんだと思ってるかね。
僕は馬車から少し離れた所で火を起こした。近くで燃えそうな物も無かったので、予めウズメちゃんに頼んで、【樹土魔法:樹棘】で人為的に枝のような物を地面から生やしてもらった。
【樹土魔法】って初めて目にしたけど、エルフの里じゃ誰でも使えていたのだとか。
エルフの里とかワクワク感ぱないな。
で、その地面から生えてきた木の根でてきたような棘を全てへし折って、後は妹者さんの魔法によって焚き火を起こすだけである。
野営に苦戦すること無いな。
適当にスープを作りながら、僕は魔族姉妹に語りかけた。
「そうだ。次の目的地はウズメちゃんの故郷とかどうかな?」
『あの子を送り届けるつもりですか?』
『必要無くね? あーしらにベッタリだから、たぶんこの先もついてくるぞ』
マジ? それは考えものだな......。なんせ僕らの目的は、魔族姉妹を僕の身体から独立させることだから、その道中は危険な事態に陥ることが少なくないはずだ。
それを言ったらルホスちゃんもだけど、あの子は、まぁ、<
『というか、そもそもあのエルフのガキは奴隷だろ。<
あ、そうだった。
エルフっ子は<
まぁでも、もしかしたら一度は帰って家族や仲間に顔を見せたいと思っているかもしれないので、聞くだけ聞くか。
「戻ってきたら聞いてみようか」
『だな』
『あ、言ったそばから戻ってきましたよ』
姉者さんに言われたので、ロリっ子共たちが戻ってくる様を僕は遠目で眺めていた。ウズメちゃんはなにやら小走りのルホスちゃんの跡を追っている感じだ。
ルホスちゃんの手には......魚っぽい何かが握られている。
「スズキ! なんか食べられそうな魚見つけた!」
「ま、待ってください、ルホスさん」
「......。」
魚らしい。なんだ、食べられそうな魚って。川魚でも獲ってきたのか。
僕らの下へやってきたルホスちゃんが、やや興奮気味に獲ってきた魚を僕に見せる。髪が湿ったままなのは、この魚を早く僕に見せたかったからだろう。
大きさは少し太った見た目の鮎。頬がプクっとしてんな。
「......これ、なに」
『フグアユだな。うめぇーぞ』
河豚なの? 鮎なの? どっち。
『あなたたち、この魚が居る川の水を飲んでませんよね?』
「うん」
「は、はい」
『なら良かったです。フグアユの排泄物は猛毒ですから、付近にこの魚が居たら注意してください』
おっかないな、この魚。
そんなおっかない魚を、ルホスちゃんが僕に差し出してくる。
「捌いて!」
「え゛」
「美味しいんでしょ! 捌いて!」
え、ええー。
「姉者さんが毒あるって言ってたじゃん......」
『捌く際に気をつけないと、かかった毒液が口に入ると死にかけます』
「ほら」
「安心しろ! あと二匹ある!」
「......。」
いや、一匹は失敗してもいい的な話じゃないからね。
僕は溜息を吐いて、仕方なく魔族姉妹の指示に従いながら、フグアユを捌くのであった。その間、ロリっ子共が僕が作ったスープを口にして、先に食事をしていたのが恨めしかったが、子供相手に怒りを覚える僕ではない。
一度、フグアユの毒を食らって死にかけた僕だが、怒りを覚えることは無かったのであった。
なかったのであった!!
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