第263話 戦線離脱は全力疾走で
「陛下ぁぁぁぁああ!!」
ムムンさんの未だかつて無い叫び声が響く。
それもそのはず、なぜなら自身が仕えている主が、娘から盛大に頭突きをくらったのだから。
『あ、あのガキ、やりやがった......』
『い、痛そうですね。ここまで頭突きの音が聞こえてきましたよ』
ま、まぁ、うん、後のことはロトルさんに任せることにしたから、とやかく言うのは控えよう。
さてと、
「よし、こっからは予定通りやるよ、二人とも!」
『あいよ! クールに行こうぜぇ!』
『燃えてきましたね』
魔族姉妹の決め台詞も貰ったことだし、始めるか!
「アーレスさん、レベッカさん! この場は任せます!」
「了解した」
「はーい」
僕は【固有錬成:力点昇華】を連続で発動しつつ、この場から離脱すべく、駆け抜けた。
もうこの場でやることはない。アーレスさん、レベッカさん、そしてロトルさんに任せよう。
「行かせるかッ!!」
が、ムムンさんが僕の行く手を阻む。
この場を去ろうとした僕に対し、ここら一帯を囲むようにして、巨木の根を出現させた。
そのどれもが巨大な鞭のように撓りながら僕を襲ってきたり、先のような光線を放とうと花弁を咲き誇らせている。
『ちぃ! 本当に厄介なスキルだぜ!』
妹者さんの悪態に便乗したくなる僕だったが、眼前にレーザービームのような一線が通り過ぎて行ったのを目にする。
【雷電魔法】だ。それもかなり上級の火力があるやつ。
その光線は巨木の根を撃ち抜くようにして破壊していったのだが、こんなことできる人、僕の知る限り一人しか居ない。
「レベッカさん、ありがとうございますッ!!」
僕のお礼の言葉に、彼女は笑みを浮かべて軽く手を振るだけであった。
「ナエドコッ!」
「っ?! ミルさん!!」
が、喜んでいたのも束の間。僕の前に現れたのは、<巨岩の化身>ミルさんだ。このままじゃ足止めを喰らうと思った僕だが、
「ザコ少年君の前に立つなッ」
「ぬっ?!」
「アーレスさん!!」
アーレスさんが僕らの間に入ってきて、ミルさんに向けて手にしていた剣を横薙ぎに振った。
ミルさんは咄嗟の攻撃でも大剣で彼女の攻撃を受けるが、右方へ吹き飛ばされる。あの巨体を吹き飛ばすって、すごい馬鹿力だ。
そんなアーレスさんの横を過ぎ去る一瞬の間に、僕は一言だけお礼を言った。
「ありがとうございます」
「必ず止めろ」
戦争を止めろ。その言葉が僕に使命感を突き付けてくるが、端からその気だ。僕は外へ、外へと全力疾走を続けた。前線部隊に間に合うように。
「ちぃ! シバッ! 何を突っ立っている!!」
「っ?!」
「あの冒険者を追えッ!」
「わ、私は......」
「お前は<
遠くの方でムムンさんがシバさんを怒鳴りつける声が聞こえてきた。
それに応じ、シバさんが宙に浮いて、命じられた通り、僕の跡を追ってくるのを目にする。
その時のことだった。
「シバッ!!」
ムムンさんの怒声にも負けない怒号が、シバさんを襲った。ミルさんの声である。彼はシバさんと目を合わせた後、続けて言い放つ。
「お前は俺の子だッ!!」
「っ?!」
シバさんが目を見開く。ミルさんの言葉を聞いて、シバさんが何を思ったのかはわからない。それでも彼は言葉を交わすこと無く、僕を追いかけてきた。
『どういう意味だぁ?』
『さぁ?』
魔族姉妹もミルさんの言葉にどんな意味があったのかわからなかったみたい。きっと他にはわからない、彼ら親子にしかわからないことがあったのだろう。
僕はそのまま速度を保って帝都を後にするのであった。
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