第262話 ここから逆転するんだ

 『も、もしかしてあれだけの猛毒を食らって無事なんですか......。いや、苗床さんが肩代わりしたのですよね』


 「あれ、いつもみたいにすぐに回復しないわね? スー君、大丈夫?」


 『あ、やべ!』


 僕は妹者さんの【固有錬成:祝福調和】により、死にかけているところを救われた。


 彼女のおかげで、いつの間にか腹に開けられていた酷い火傷と刺し傷、全身を蝕んでいた猛毒は、まるで最初から何事も無かったかのように消え去っていた。


 全回復したのである。


 それでも僕は若干ふらついてしまったが、なんとか自身の両足で立つことができた。


 「ふぅ。なんとか新スキルの発動は成功したみたいですね」


 『新スキルだぁ?!』


 『もしかしてあなた......』


 「ふふ。私が倒した人造魔族の核から【固有錬成】を取得したのね?」


 僕はレベッカさんの問いに首肯し、魔族姉妹に説明した。


 「【固有錬成:害転々】......“対象の状態”を、“他者の状態”と入れ替えることができる」


 『発動条件は、対象を傷つけること.....いや、害となる“状態”を与えることですか』


 『たぁー。そいつを害さねぇーと使えねーってか。皮肉なもんだぜ』


 僕が多くは語らなくても、魔族姉妹はこの状況から色々と察してくれたみたい。


 <討神鞭>の話によれば、レベッカさんが敵に攻撃した際、その敵が受けた致命傷を彼女に転写されたとのこと。だから僕を転写先の対象としなくても、他者から他者にできるかもしれないが......まぁ、今はそんなことどうでもいい。


 重要なのは、レベッカさんを復活させられたことだ。


 レベッカさんは僕の隣に立って聞いてきた。


 「氷の棺の中に居たときも意識はあったから、大体の状況は察してるけど......本気?」


 かなり漠然とした質問だが、僕は力強く頷いて返答の意を示した。そんな僕を見て、レベッカさんは苦笑しつつ、腕を組んだ。


 どうやらこの場に残ってくれるらしい。良かった、我関せずと言って、この場から立ち去られたら危なかった。


 「レベッカ!!」


 すると僕らの下へ、<四法騎士フォーナイツ>と戦闘を繰り広げていたアーレスさんが戻ってきた。


 「あ、アーちゃん」


 「無事か。ふふ、さすが私が見込んだ男だ。よくやった、ザコ少年君」


 「あ、あはは」


 「あらまぁ。アーちゃんが誰かをベタ褒めするなんて珍しいわね〜」


 「うるさい」


 と、僕らが呑気な会話をしていると、


 「はッ。傭兵が一人増えたくらいで勝った気でいるのか」


 <大地の化身>ムムンが嘲笑いながら、そう言ってきた。


 あちらさんはまだ余裕なのか、大した傷を負った様子は見受けられなかった。アーレスさん相手に善戦してたってか。やっぱ強いな。


 「ここに来て<赫蛇>も参戦か。はは、笑えてくるな」


 一方のミルさんも依然として闘志を漲らせている。巨漢の騎士は大剣を前に構え、応戦する意を示していた。


 「レベッカ!! まさか復活するとはね!! でもマリがまた寝かせてあげる! 永遠にねッ!」


 で、マリさんは敵意剥き出しで、僕ら......というか、レベッカさんだけを睨みつけながら、そんなことを叫んでいた。


 なんか尋常じゃないくらい殺意を彼女から感じるんですけど。


 僕はレベッカさんを尻目に聞く。


 「マリさんと以前、何かありました?」


 「おほほ〜」


 『なんかあったな、こりゃあ』


 『ですね』


 なんかあったね、これは。


 「......。」


 そしてシバさんは何も言ってこない。あまり口数の多い人ではないけど、さっきの僕の訴えを受けてから、どこか様子が変だ。願わくば、このまま大人しくしていてほしい。


 僕は魔族姉妹に同意しつつ、アーレスさんとレベッカさんの横に立って、状況を整理した。


 「二人とも、いけますね?」


 「無論だ。ザコ少年君たちを庇いながら戦わずに済むのなら、ここからは私一人で片付く」


 「そんな寂しいこと言わないのぉ。私だって鬱憤溜まっているんだから」


 <四法騎士フォーナイツ>相手に憂さ晴らしする気か、この人。


 まぁ、でも頼もしさは一番感じる人たちだよ。


 あと僕がこの場ですることは――


 「好きに動け」


 「頑張りなさいな」


 「っ?!」


 僕は今考えていたことが見透かされたような発言を、アーレスさんとレベッカさんから受けて驚いた。彼女たちは続ける。


 「私たちが揃うのを待っていたのだろう? これからザコ少年君がすることを止める気は無い。だから......好きに動け」


 「そうそう。後はお姉さんたちに任せなさい」


 「アーレスさん、レベッカさん......」


 僕は胸に熱い何かが込み上げてくるのを感じた。


 今までやってきたことは無駄じゃなかった。まだ――まだ間に合うんだ。


 戦争は止められる!


 「ロトルさぁぁぁああん!!」


 僕は全力で叫んだ。


 呼んだ者に合図するよう、この城のどこに彼女が居ても、僕の声が届くように思いっきり叫んだ。


 そして僕の声に驚愕したのは――皇帝バーダン・フェイル・ボロンだ。


 「っ?!」


 彼は僕が叫ぶのと同時に、もしやこの激戦の近くに娘が居るのか、と心配になって必死に辺りを見回した。


 その時だった。


 「【固有錬成:縮地失跡】!!」


 先程まで僕のこと見ていた皇帝さんが、辺りを見回すのと同時に、僕は転移スキルを使用して、彼の背後に転移した。


 「な?!」


 「陛下ッ!!」


 「あんたは――」


 ムムンさんが逸早く気づくが、間に合わない。


 「――娘とぶつかってこい!!」


 僕は皇帝陛下の胸倉を掴んで、まるで背負投げするかのように、この戦場の外、後方へと投げ飛ばした。


 皇帝さんは城の方へと投げ飛ばされて、無様にも転がりながら、その勢いを殺していった。


 怪我はしているだろうけど、まぁ、こんくらい問題無いでしょ。


 「貴様ぁぁああ!!」


 すると、視界の端の地面から巨木の根が現れ、僕はそれに吹き飛ばされてしまった。激情したムムンさんによる一撃だろう。


 その衝撃で、僕の身体はぐちゃぐちゃになったが、例の如く妹者さんのスキルで全回復する。


 「くッ......まさかここに来て騙されるとはな」


 僕と同じく身を起こした皇帝さんは、僕に騙されたと思い込んでいる様子。


 しかし残念、ロトルさんがこの場に居ないなんて嘘、僕は吐いていない。


 「嘘じゃないわ」


 「っ?!」


 娘の声を聞いて、皇帝さんが驚愕の色を顔に浮かべた。


 驚くのも無理は無い。なんせ彼の前には、こんな場所に居ちゃいけない人物が立っていたのだから。


 ロトルさん......後は任せましたよ。


 「ろ、ロトル......」


 「パパ、リベンジマッチよ」


 そう言って、彼女は優しげな笑みを浮かべながら、父親の両頬を自身の両手で覆った。


 そしてロトルさんは自身の頭をやや後ろに引き、


 「ふんッ!!」


 「っ?!」


 その頭を皇帝さんの顔面に叩き付けたのであった。


 わ、わーお。ワイルドぉ。

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