第254話 [ウズメ] 前門の騎士、後門の変態
「はぁはぁ......ルホスさん、あなたのことは......忘れません」
私は帝国城内を走り回って移動していました。走り回るというより、風魔法で高速移動しています。
先程まで帝国城の地下施設にルホスさんと一緒に居たのですが、今は私とレベッカという女傭兵の人だけです。
レベッカさんは毒に侵されて瀕死状態らしく、その毒の侵攻を抑えるためにスズキさんが氷の棺の中に閉じ込めたと聞きましたが、
「お、重いです......」
氷の棺を風魔法で持ち上げるの、すごい大変です。宙に浮かせて私ごと移動させるのは非常に疲れます。
レベッカさんとは面識が無いのですが、スズキさんに曰く、どうしてもこの人の力が必要とのこと。
だから絶対にこの人を手放しちゃいけない。
それだけは、あの場にルホスさんを置き去りにした私が、果たさなきゃいけない使命です。
「このまま屋上にッ」
「待てッ!」
「止まれ!!」
すると、目の前に複数の騎士たちがぞろぞろと曲がり角から現れました。
おそらく広間でスズキさんが戦闘を繰り広げているので、その関係者である皇女の従者たちを捕らえるよう命令でも下ったのでしょう。
こんなところで捕まるわけには......。
でもこれ以上、余計な魔力は消費したくありません。
「ど、退いてください!」
私がそう叫びながら、眼前の騎士たちにこのまま突っ込もうとしたら、
「ぬおぉぉおお!! ウズメぇぇぇえぇええ!!」
「っ?!」
突如、後方から男の人の野太い声で、私の名前が呼ばれました。
振り返った先には......
「「「へ、変態?!」」」
眼の前の騎士たちと自分の声が重なりました。
変態です。全裸の巨漢の変態です。
後方から下半身にすら何も纏っていない男性が、こちらへ向かって走ってきました。
私は逃げました。
「おいぃぃいいい! なんで待たないのぉ!!」
「ひぃ!! 誰かッ! 誰か助けてくださいッ!」
「と、とりあえずどっちも捕らえるぞッ!!」
「お、おう!」
眼の前には数名の騎士。
後ろには私の名前を呼ぶ見知らぬ全裸の男性。
スズキさん、私、もう駄目みたいです......。
「ちッ! 邪魔だ、お前らッ!!」
すると、私を追いかけてきた全裸の巨漢が、とてつもない速度で私の横を過ぎ去り、目の前の騎士たちに突っ込んでいきました。
な、なんて速い......。
騎士たちもあまりの素早さに驚きますが、次の瞬間には殴られたり蹴られたりして、呆気なく意識を刈り取られました。
つ、強い......。
「ウズメ、無事か!!」
「ひぃ?!」
私は振り返って逃げようとしまいたが、全裸の男性が次に言ったことを聞いてピタリと動きを止めます。
「わ、我だ! 我! ルホス! 【異形投影】で変身したの!!」
「......え?」
たしかにルホスさんには三つほど【固有錬成】を付与しましたけど、まさかこんな屈強な男性に変身するなんて......。
しかも......
「は、裸......」
「わ、我だって好きで全裸なったんじゃないの!」
「ど、道中で騎士とかから奪えば......」
「男が着たやつを着たくない!! もう吹っ切れた!!」
え、ええー。
そんな全裸の男性(中身ルホスさん)は外套のようなものを手にしていました。その大きさから、おそらく変身が解けた用に持っているのでしょう。
「と、とりあえず、このままこの城の屋上に向かうぞ!!」
「は、はい!」
でも本当に無事で良かったです。
私はルホスさんと共に、この城の屋上へ向かうのでした。
******
「はぁはぁ......」
「やっと着いたな」
私とルホスさんは帝国城で一番高い塔の屋上へやってきていました。足下の屋根は当然斜面で、足を踏み外せば落下してしまうような場所です。
そんな場所でルホスさんは肩に氷の棺を担いで平然としています。
ここに来る道中で、あの全裸の巨漢に変身していた【固有錬成:異形投影】は時間経過で解除されたので、今はルホスさんの元の姿に戻っています。
持っていた外套を纏っているため、全裸ではない彼女ですが、外套が風に靡いて、彼女の素肌がチラチラと見えてしまっています。
「......。」
「な、なんだよ」
「い、いえ。なんでもありません」
そんな彼女をじっと見ていたら、不審がられてしまいました。
この場所にある目的でやってきた私たちですが、下手したら普通に騎士たちに見つかってしまいそうです。
「あの、私たち、こんな目立つところにいつまで居ればいいのでしょうか?」
「アーレスが来るまでだ」
そう、私たちはここでアーレスさんの到着を待っています。
今回の作戦、賭けですが、この城に向かっているアーレスさんをここから発見して、合流するのが望ましいようです。
合流して、私の【固有錬成:依代神楽】でアーレスさんの【固有錬成】をレベッカさんに付与し、毒を無効化させます。それからアーレスさんとレベッカさんがスズキさんと合流するのが最善策と聞きました。
が、アーレスさんが帝国軍と王国軍の衝突までに、この場へ辿り着くかわかりません。
そもそもランダム転移でどこかへ飛ばされたアーレスさんが、この城を目的地に向かってきているのすら不明な状況です。
それでもスズキさんはアーレスさんが再びこの城に戻ってくることを信じていました。
「アーレスさん......早く来てください」
私は青空に向かってそう願いました。
もしアーレスさんがこのまま来なければ......。
「スズキを信じろ」
「っ?!」
すると、空を見上げたままのルホスさんが、まるで私の心読んだかのようにそう言いました。
「スズキは私が一番信頼できる人間だ。よくわからないけど、あいつはいっつも不利な状況を土壇場で覆す」
その確信にも似た思いは......自然と私の中でも芽生えていました。
だから普段は内気な私でも、
「はい! この作戦、絶対に上手くいきます!!」
スズキさんを信じて待つことにします。
が、そんな私に対し、ルホスさんがまるで信じられないものでも見るかのような視線を私に向けてきました。
「お、お前、それはないだろ......」
「え?」
な、なぜか白い目で見られる私は、最後までルホスさんが言ったことの意味が理解できないのでした。
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