第253話 物は言いよう
『おお、ホームランじゃん』
「ふぅ。スッキリした」
現在、僕はバッティング練習でいい感じに球を打ち上げたような気分に駆られ、最高の笑みを浮かべていた。
イケメンをバッティングしたのである。向こうの城壁に思いっきり突っ込んでったよ。
「ムムンッ!!」
爆風と土埃が舞う中、ミルさんが声を上げるが、僕は殺してないので、どうか安心してほしい。たぶん死んでないと思うけど。
「まさかここまでとはな」
すると、皇帝さんが僕に話しかけてきた。クソロン毛野郎は主君を庇おうとしていたので、必然と奴の死角に転移した僕は、皇帝さんとの距離も近かったのである。
よくまぁ僕から距離を置かずに、平気な顔して話しかけてくるもんだ。さっきこの人に向けて【螺旋氷槍】を放ったんだけどね。
当たる前に消したけど。
「戦争、止める気になりました?」
「戯け。これしきのことで<
皇帝さん、何が面白いのか、不敵な笑みを浮かべていた。なんかこう、どこか楽しんでいる感じさえする笑みである。
「うおおぉおお!!」
そんな皇帝さんを不審に思っていると、横からミルさんが雄叫びを上げながら突進してきた。
僕はすぐさまその場から退避する。
「陛下! ご無事ですか?!」
「ああ。......冒険者よ、名はなんと言う?」
え、なに急に。
「ナエドコです」
「ふッ、おかしな名前だな。......して、戦における有利性とは何と心得る?」
戦における有利性?
なんだろ、相手を上手く騙せるかどうか、とかかな?
「ブラフを有効活用できるかどうか......ですかね?」
「はッ。そんなこと、初見しか通用せんわ」
と、鼻で笑われてしまう僕である。まぁ、僕も二度目は無いと思うな。さっきの攻防で【牙槍】は使えないって言ったようなもんだし。
皇帝さんは続けて言った。
「“後出し”だ。敵から一つでも多くの情報を引き出し、油断させてから、こちらの手札を切る。......故にどこまで狡猾に進めるかが肝となる」
そう皇帝さんが言い終えると同時に、僕の背筋に悪寒が走った。
「『『っ?!』』」
それは背後から感じ取ったものだ。
瞬間、爆発したかのように、後方で何かが誕生した。いや、覚醒だ。それもとてもつもない存在感を撒き散らす者の覚醒。
そこに居るのは――
「......シバさん」
<暴風の化身>の二つ名を持つシバ。
開幕からなぜ速攻でこの人が動いてケリをつけなかったのか疑問に思っていたが、なるほど、そういうわけか。
「それが......あなたのもう一つの【固有錬成】ですか」
「ん」
今のシバさんは、一言で表すならば、陽の光を体現したかのような存在であった。
後光すら纏うようにして輝きを放っている。その光は眩しくて、非常に温かい。ある種の癒やしさえ、周囲の人間に無償で与えている感じだ。
でも違う。これは僕にとってそんな生易しいものじゃない。
「【固有錬成:日ノ風露】」
シバさんが透き通るような声で小さく呟いた途端、ソレは現れた。
「っ?!」
『なんだありゃ?!』
『これはまた......』
シバさんの頭上に眩い光を放つ光球が発現した。
その発現と同時に、
「『『っ?!』』」
僕らは蒸し焼きにされているかのような状態に駆られた。
『あっつぅ!!』
「な、なんだこれッ」
『焼かれている?......いえ、それだけではありません。魔力が減っています』
な、なんだこの身体の内側から焼かれるような、水分を蒸発させられたかのような苦しみは......。って本当に肌から湯気が。
僕は慌てて周囲を見渡した。
ミルさんは疎か、皇帝さんまで平気な顔して立っている。それだけじゃない。多少なりともミルさんに与えていたダメージすら......。
「回復.....までするんですか」
「シバの【固有錬成:日ノ風露】の効果だ。敵の弱体化と味方の即時回復を同時に行う」
ミルさんの端的な言葉に、僕は舌打ちした。
この蒸し焼きにされている状態が続くと、魔族姉妹は力尽きてしまう。それに広範囲で即時回復効果まであるってことは――
「先程は世話になったな」
「っ?!」
瞬間、僕は地面から生えてきた鋭い根によって、胸の中心を背後から突き刺された。そしてそのまま吊し上げられる。
「がはッ」
『鈴木ッ!!』
見れば、いつの間にかクソロン毛野郎がこの場に戻ってきていて、【固有錬成:葉ノ牢】を発動させていた。
「いてて。なんか起きたら床に寝かされてたんですけど」
「っ?!」
『なッ?! ピンクビッチまで?!』
『気を失っていた者まで回復させますか......』
マリさんが気怠そうにしながら、こちらへやってきた。おそらくシバさんのスキルで彼女を覚醒させたのだろう。
まさかシバさんの【固有錬成】がここまで厄介だったなんて......。
「きゃあぁぁあ!!」
マリさんが胸を刺し貫かれている僕を目にして、悲鳴を上げた。
「ムムン! 今すぐ下ろして!」
「何を言う。こいつは我が国の敵だ。たしか以前上がった報告では、この者の身体には魔族の核があるのだろう? まずはそれを破壊してみるぞ」
「......ナエドコ、許せ」
「......。」
おいおい、待ってくれよ。<
大した時間稼ぎもできてない。これじゃあ何の意味も無いじゃないか。
「まだ......だ」
「は?」
僕の掠れるような声に反応したのはムムンだ。
僕は【螺旋火槍】を生成し、シバさんに向けて放った。彼はそれを難なく躱すが、どうでもいい。
同時に、僕が放った【螺旋火槍】に注目したマリさんを対象に、【縮地失跡】を発動し、彼女の死角へと転移する。
そのまま一気に距離を取った。
「はぁはぁ......」
「逃したか。小賢しい」
妹者さんがすぐに【固有錬成:祝福調和】で僕の傷を癒やすが、依然として身体中に倦怠感のような辛さが続いた。
なんだこれ、身体がすごい重たいぞ。
そんな僕を他所に、シバさんが静かに口を開いた。
「ナエドコのあの転移、たぶんだけど、彼から目を離した途端に発動できるスキルだと思う」
「ほほう。たしかにミルとやり合っている時、何度か【氷壁】で視界から外れていたな」
「あとマリの【固有錬成】が効かなかったのって、ナエドコさんの身体の中に魔族の核があるのが関係しているのかも」
「ならば核を砕くのが先決か」
ヤバい。こっちの【固有錬成】の発動条件がバレてる。それだけじゃない。今まではなんとか初見殺し的に攻められたからいいけど、もうそれが通用しないぞ。
『触れられる箇所が悪ければ一発で傀儡にしてくるスキル持ち女と、とにかく近接戦が厄介な重騎士』
『加えて魔法を無効化する触手を操る野郎と、広範囲で敵にデバフ、味方には回復効果を付与する奴が居ると来た』
そんな魔族姉妹の言葉に、僕は絶望したのであった。
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