第252話 戦隊モノでグリーン役は目立たない
「死ね」
その声は低く、透き通るような声だった。
でも孕んでいたのは濃密な殺意で、それは僕に向けられていたのは確かだった。
『鈴木ッ!! 避けろ!!』
「っ?!」
僕は咄嗟に真横に飛んで、触手のような巨木の根を避けた。
その一撃だけじゃない。
地面のあちこちに生えている極太の根は、その鋭利な先端が僕を貫かんと四方八方から襲いかかってきた。
「避けきれ――ない!」
『ちぃ!』
『【氷壁】!』
避けきれなかった攻撃を、姉者さんが氷の壁を生成して防いでくれた――はずだった。
「『『っ?!』』」
【氷壁】で防いだはずの根が、あっさりと【氷壁】を貫いて僕の腹部を貫通した。
突き刺さった根は、僕を振り払おうと地面へと叩き着ける。
「がはッ」
「Dランク冒険者、一つ言っておくが、その根に魔法は通じんぞ」
ま、魔法が通じない?
僕は蹌踉めきながら、起き上がる。
傷は妹者さんのおかげでもう完治した。まだ戦える。でも、
『魔法が通じないだぁー?!』
『これは......厄介ですね』
どうやら地面から生えている無数の触手みたいな巨木の根は、魔法が一切効かないらしい。事実、姉者さんの【氷壁】が豆腐みたいにあっさりと貫通した。
ということは、だ。例えば【閃焼刃】で焼き切るのは不可能ということになる。
魔法に関しては、魔族姉妹を頼れないってことか。
僕は魔族姉妹に問う。
「【固有錬成】だけでなんとかなる?」
『......男は根性よ!!』
『ファイトです!』
「......。」
ろくなアドバイスも無く、精神論だけ返ってきてしまった。
二人も魔法使っても意味無いってことを悟ったみたい。
「私も居るぞッ!!」
「っ?!」
するとミルさんが、その巨体を揺らしながら僕へ突っ込んできた。
彼の上段に構えた大剣が振り下ろされ、後方へ避けようと飛び下がったが、その風圧で吹っ飛ばされた。
「ぐぅ!」
『苗床さん! 上から来ます!!』
っ?!
僕が真横に飛ぶと、僕が元居た場所に二本の根が空から突き刺さってきた。
『次! 右から!!』
「ああもう!!」
僕は視界の端、右方向から刺突してくる根を屈んで避けた。
そしてムムンとの間に【氷壁】を生成し、彼の死角へと【縮地失跡】で転移する。
『【紅焔魔法:火球砲】!!』
妹者さんがすぐさま阿吽の呼吸で魔法を放ってくれた。
背後からの無防備な攻撃――そのはずなのに、
「無駄だ」
「っ?!」
ムムンの背後の地面に例の根が飛び出てきて、【火球砲】を打ち消した。
う、背中に目でもあるのかよ!
すぐさま距離を取ろうとした僕は、足下から根が突き出て、僕を縛り上げてきた。
「あがッ」
「ミルとの戦いをただ眺めていただけだと思ったか? 貴様の転移する【固有錬成】は<4th>から奪ったものではないな?」
<4th>から奪った?
ちょっとなに言っているのかわからないけど、たしかに転移と言ったら、<
でも僕の転移スキルは全くの別物だ。
あ、だから、この人たちは警戒しているのか。
<4th>が使っていた転移を僕が使ってこないことを疑問に思ってたけど、ミルさんとの攻防で別の【固有錬成】だと気づいた訳だ。
で、今は、
「はは」
「? 何がおかしい」
僕は思わず笑ってしまった。身体は根に掴まれて、握り殺されそうになっているのに。
ははーん。なるほどなるほど。
だから最初から全員で畳み掛けずに、こうして人を徐々に増やして僕を効率的に倒そうとしていたのか。自分たちの【固有錬成】をどういった経緯で僕に奪われるかわからないから。
残念。たしかに他者の【固有錬成】は使えるけど、それはそいつの核を僕が飲み込んだからだ。
「いいこと思いついたなぁ、と」
僕は【固有錬成:泥毒】を発動し、全身の傷口から<屍龍>お墨付きの猛毒のガスを撒き散らした。
途端、僕を縛り上げていた根がぐずぐずに溶けて、僕を解放してくれた。
やはり魔法は無効化できる根っこみたいだけど、【固有錬成】による猛毒のガスは無効化できないらしい。
「っ?! <屍龍>の毒か」
「正解」
ムムンさんが皇帝さんを連れて後方へ下がろうとしていたが、僕がすぐさま【泥毒】を解除したことで行動を止めた。
そこで僕はあることに気づく。
シバさんのスキルを使えば僕の毒ガスなんて吹き飛ばされて無意味なのに、なんで僕から距離を取ろうとするんだろ。
まぁ今はどうでもいいや。
「......なぜ毒ガスを撒き散らさない」
「? 殺す気はありませんから」
「なめているのか?」
「ちなみにさっきの答えですが、仰るとおり、僕が【固有錬成】を使用して転移できるのは、なにも<4th>から奪ったから使えた訳じゃないんです」
『お、おい。まさかバラす気か? いいのかよ、おい』
『......なるほど』
僕が続けて言おうとする言葉に、魔族姉妹はそれぞれ別の反応を見せた。妹者さんは不安そうで、姉者さんはどこか納得といった様子である。
まぁ、うん。大丈夫でしょ。
僕は自身の口を指差して続けた。
「核ですよ、核。【固有錬成】所持者の核を僕が取り込むと、使えるんです」
「「っ?!」」
「......やっぱり」
この事実を聞いて驚いたのは、ムムンさんとミルさんだ。シバさんは予想していたのか、静かに相槌を打っていた。
意外。まぁ、僕のこれまでの戦闘を一番近くで見てきたのはシバさんだから、半ば予想できたのかもしれない。
まぁいいや。本題は別だし。
「で、ですね。知っていると思いますが、先日、件の組織でとある人造魔族と戦ったんですよ。その人造魔族は防御不可避の【固有錬成】を持っていたんです」
「っ?! ムムン! 陛下をお護りしろッ!!」
お、逸早く気づいたのはミルさんのようだ。
そう、僕が言いたのは、核を取り込めば、そいつの【固有錬成】が使えるということ。
人造魔族ヘラクレアスの核を回収したのは僕だ、と伝えたようなもんだ。
故に【凍結魔法:螺旋氷槍】を生成し、僕は口にする。
「【固有錬成:牙槍】」
クソロン毛野郎の【固有錬成:葉ノ牢】は魔法は無効化できても、【固有錬成】が無効化できない。
ならば、魔法は魔法でも、防御不可避の【固有錬成】が付与された魔法なら?
答えは誰にもわからない。僕ですらね。
わからないこそ、例の触手根っこで防ごうとしない。
防ごうとしなければ、ムムンが皇帝さんへと駆けて回避行動を取らねばならない。
そんな一連の予想的中するだろうシーン、僕が見逃すわけがない。
僕は口端を釣り上げて唱えた。
「【縮地失跡】」
間に合うかわからない皇帝さんへの攻撃を回避させるため、ムムンさんは僕なんか眼中に無いんだろう。
それが好機となり、僕はムムンさんの死角に再度転移した。クソロン毛野郎との距離は目と鼻の先だ。奴も僕の存在に気づいて、目を見開いていた。
そして魔族姉妹たちと息を合わせて発動させる。
「『【多重紅火魔法:
イメージはもはやバッティング練習だ。
コースがわかりきった球を打つなんて簡単すぎる。
カッ――。
眩い閃光が辺りを照らした後、今日一の大爆発が帝国城で生まれた。
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