第251話 [ルホス] コレは無い・・・あるけど
「え、【異形投影】でしょ」
『【異形投影】だな』
『【異形投影】ですね』
スズキと魔族姉妹が口を揃えて、同じ回答をした。
これは私とウズメがスズキたちと別行動を取る前の出来事である。
ウズメの【固有錬成:依代神楽】により、スズキから色々と戦闘に役立ちそうなスキルを借りることになり、何から付与してもらおうかスズキに聞いたら、揃って【異形投影】という答えが来た。
思わず、私は理由を聞いてしまった。
「なんで?」
「あれ、【異形投影】のスキル内容って聞いてなかったっけ?」
「いや、聞いたけど」
スズキが『スキル内容を知っているのにわからないの?』という顔をしてきたので、私はちょっとだけイラッと来た。
スズキは嫌いじゃないけど、こういうことを素で顔に出すから困る。
【異形投影】は帝国皇女のスキルだ。
このスキルを皇女が所持していることを知っているのは、帝国内でも本当に数えられる人だけらしい。が、今回の作戦に当たって、関係する私もそのスキルについて教えられていた。
曰く、そのスキルがヤバいから秘密にされてきた、と。
「【固有錬成:異形投影】ってアレだろ。一定時間、相手になりすますことができるやつ」
「うん」
「よ、弱いだろ。中身自分だったら、強者に入れ替わっても意味無いじゃん」
と私が言うと、それに同意なのか、この場に居る皇女が口を開いた。
「そ、そうよ。戦闘向きな【固有錬成】じゃないわ。それもたった一日一時間だけなんて」
「いやいや。良く考えてください。なりすませるのは見た目だけではありませんよ?」
『ま、あーしの【固有錬成:祝福調和】にちょっと似てるわな』
『単純な短期戦という面で言えば、おそらく妹者のスキルよりレベルは上ですからね』
「ふぁ?!」
魔族姉妹の会話を聞いて、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。それにより、二人の声が聞こえていない皇女と執事の女が私に注目してくる。
ちょ、妹者のスキルって、すぐに全回復できる上に、対象者の身体能力をそのまま自分に複製......対象者と同じ身体能力まで底上げできることだよね。
それよりすごいスキルってこと?
すると、場を和ませるためか、スズキが苦笑しながら話を続けた。
「あ、あはは。まぁ、【異形投影】は全回復できないけど、それ以上にヤバいものを継承できるんだよ」
「や、ヤバいもの?」
スズキがニヤリと笑いながら続けた。
「【異形投影】はちゃんと対象となる人物をイメージすることができれば、なりたい人になることができる」
「だから?」
「つまり、だ。その人のフィジカルはもちろんのこと、身体能力、治癒能力、あらゆる環境への耐性、おまけに魔力量まで同等にすることができるんだ」
「あ」
スズキがそこまで言ったことで私は気づいた。
それって......中身は自分だけど、肉体は最強の人になれるって話じゃん。
「ルホスちゃんが誰を思い浮かべるかは自由だけど、なるべく強い人に変身してね? たとえ中身が別人でも、圧倒的な力量差はその肉体で決まるんだから」
『あ、間違っても、あの<
『そうですね。
姉者が続けて口にした人物の名は――。
******
「「っ?!」」
私が三つ目の【固有錬成】を唱えると、騎士たちが警戒して動きを止めた。
【異形投影】を発動するにあたって、少し前の日の出来事を思い浮かべてしまったんだけど、どうやら上手く変身できたみたい。
ボシュンッ。【固有錬成】を発動したと同時に土埃が舞い、私はペタペタと石造りの床の上を歩いた。
さっきまで靴を履いていたんだけど、変身と同時に破れて履物にならなくなった。
それになんだか寒い。
「な、ななな?!」
「だ、誰だよ、こいつ......」
眼前の騎士たちが私を見て、ヘルムの奥で目をぱちくりとさせている。
私は自分の両手を見つめた。ゴツい。とにかくゴツい。目に映る自分の肉体の部位それぞれが強靭な筋肉を纏っているみたいだ。もちろん、それは私が狙ってある人物に変身したから驚きは無い。
でも【固有錬成:異形投影】を使うのは、今回が初めてだ。
「お、おう......これが男の身体か......」
「き、鬼牙種の少女に化けていたのか?」
「い、いや、それは考えにくい。おそらく誰かに姿を変えられる【固有錬成】を使ったのだ......ろう」
上司騎士が言い掛けたところで、今まで以上に驚愕の色を顔に浮かべた。
その目は、まるでここに居るのが信じられない人物を目にしたといった様子だ。
それもそのはず、私が変身したのは、
「ま、まさか......<不敗の騎士>タフティス?!」
そう、一応は王都でほんの少しだけ世話になった男だ。てか、こいつ、よく知ってるな。なんでだ。いや、あいつなんか長生きしてるって聞いたし、有名なのかも。
人造魔族だっけ? ヤバい奴が王国で姿を現した時、タフティスは剣も持たずに素手で戦ってかった。
あいつの魔力量なんてどうでもいい。
問題は素手で敵を倒せる力があるかどうかだ。
その点、こいつは実際にその状況を目の当たりにしたので、変身しても問題無いと思えた。
問題......無くない!!
「ひゃう?! 裸?!」
私、裸ッ?!
なんでッ?!
なんか寒いと思ったら、なぜか裸になってる!
あ、そういえば、皇女が体格差ある対象の人物に変身すると、身体が大きくなって着ていた服が破れるって言ってた!!
隠そうと思って両腕を胸や陰部に当てた。胸は分厚い肉板がくっついていて、モジャモジャの胸毛があった。股間は......
「な、なんか付いてるぅぅぅぅううううぅぅ!!」
竿だ! それもぐったりとした竿! な、なにこれ、ぶにょぶにょしてる!! 男は股にこんなモノをぶら下げているのか。やば......。
「お、おえぇぇぇ!」
「「......。」」
私は四つん這いになって吐いた。
「お、おい、なんすか、こいつ。殺しますか?」
「い、いや、待て。これが本当にあの<不敗>だったら――」
「そ、それはねぇっすよ! なんか吐いているし、今のうちにやりましょう!!」
「あ、ちょ!!」
下っ端騎士が私目掛けて走り出した。
その手には剣がある。私は吐き気をぐっと堪えて、立ち上がった。依然として股に違和感すごいあるけど、頑張って立ち上がった。
「くたばれッ!」
上段に斬り掛かってきた騎士は、今までで一番速い攻撃を仕掛けてきた――はずだった。
「......おそ」
は、速くない。全然速くない。
よくわかんないけど、目に集中して下っ端騎士の動きを見たら、めっちゃゆっくりに見える。
え、なにこれ。いや、タフティスの動体視力か。
「遅い!!」
私はカウンターとしてパンチをお見舞いした。
すると、どういうことだろう。
「ぐぎゃ?!」
「あ」
下っ端騎士のヘルムが、まるでパンでも殴ったみたいに変形した。
下っ端騎士は殴られた衝撃で吹っ飛ぶことはなかった。ただただ、上段に剣を構えたまま、ガシャンと鎧の音を立てながら、前方に倒れた。
その際、ヘルムから引き抜いた自分の拳が血に染まっていることに気づく。
「なッ。あ、アロートを一撃で......」
「......たぶん死んでない。たぶん」
下っ端騎士はぴくぴくしてるから死んでないと思う。
すげぇ。全裸タフティス、めっちゃ強い。スズキの【固有錬成:力点昇華】より強い一撃を平気で打ち込めるぞ。
私は上司騎士を睨んだ。
「次は......お前だ!!」
「ひぃ!!」
私がウズメの後を追いかけるのは、今から一分後のことだった。
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