第250話 [ルホス] イソガバマワレってなに

 「【固有錬成:縮地失跡】ッ!!」


 私は以前、スズキと協力してトノサマミノタウロスを倒した。


 そのトノサマミノタウロスは【固有錬成】持ちで、内容も“他者の死角に転移”するという意地の悪いスキルだ。


 が、そのトノサマミノタウロスの核をスズキが体内に収めたことで、何故か使えるようになったらしく、今度はウズメの【固有錬成】でその力が私に付与されたのである。


 発動条件は相手が自分を見失ってから三秒経つこと。


 私は対象をウズメにしたから、私の合図で発動条件を満たすことができた。


 【力点昇華】に次ぐ、第二の切り札だ。


 「なっ?! 消えたッ?!」


 私はウズメの死角――上司騎士の背後に転移した。


 そして訳がわからないといった様子で、戸惑う上司騎士の頭部に打ち込む。


 「【紅焔魔法:天焼拳】!!」


 炎を纏う灼熱の拳が炸裂した。


 その余波で熱風や火の粉が舞い、薄暗いこの空間を一瞬だけ照らす。


 「ビスクスさん――ぐはッ!!」


 上司騎士が下っ端騎士の方へと吹っ飛び、激突した。


 私はろくに着地できず、その場に倒れ込んだ。ウズメが駆け寄ってきて、私に【回復魔法】を行使してくれる。


 先程、下っ端騎士に頭を殴られた拍子に負った怪我で血が流れていたが、ウズメのおかげで回復した。


 「ありがと」


 「つ、使えるんでしたら、最初から【縮地失跡】で私を助けてくれても良かったじゃないですか」


 「あ?」


 「ひッ。す、すみませんすみません!」


 「ちッ。助けてやったんだから文句言うなよ」


 「あ、後でスズキさんに言いつけます」


 「なんか言ったか?」


 「な、何も言ってません!!」


 ったく。こっちはエルフなんて助けなくてよかったんだから。もうちょい感謝しろって話。


 「てか、こうしてられない。今のうちに【束縛魔法:羈束影きそくかげ】であいつらを縛っとかないと......」


 と私が言いながら騎士たちを見やると、奴らはゆらりと立ち上がっていた。ヘルムの奥からギロリとこちらを睨んでくる。


 殺意まで込められてる気がした。


 その殺気に、私は背筋を冷たいものでなぞられた感覚に陥った。


 「総隊長には申し訳ないが、ここからは殺す気で行くぞ」


 「うす」


 「......ウズメ、すぐそこのレベッカを回収して先に行ってろ」


 「へ?」


 ウズメは奴らから脅威と見なされていないからか、騎士たちの殺気に気づいていないみたいだ。呑気にもアホ面晒している。


 そんなウズメに私は真剣に言葉を重ねた。


 「不意は突けたけど、次は無理だ。それにウズメがまた人質に取られると厄介。さっさとレベッカを連れて、先に向かえ」


 「......はい」


 そう静かに返事すると、ウズメは風魔法を使ったのか、自身と近くに居る氷の棺を浮遊させた。


 「逃がすか!!」


 「お前らの相手は私だッ」


 私は殺傷能力の高い【死屍魔法:封殺槍】を何発か、そんな騎士たちに撃ち込んだ。


 それが油断ならなかったのか、騎士たちは受け切ろうとせず、横へ避けたり、石柱の影に身を隠した。


 「ウズメッ!!」


 「は、はひッ」


 「ちッ」


 浮遊しているウズメが直ぐにこの部屋から出ようとすると、石柱の裏に隠れていた上司騎士が手にしていた剣をウズメに向かって投げた。


 私はそれに反応でき、自身の片腕を突き出して、ウズメに刺さるのを防いだ。


 「なッ?!」


 「る、ルホスさんッ!」


 「ぐぅ!! 行けぇ!!」


 「待てッ!!」


 下っ端騎士がこの場を去ろうとするウズメを追いかけるが、私がその前に立ちふさがって、腕から引き抜いた剣を上段に構えた。


 「【力点昇華】ッ!!」


 「ぬぅ!!」


 再使用可能となった【固有錬成:力点昇華】を発動させ、力任せに剣を振り下ろす。


 それを受けた下っ端騎士が、あまりの力の差に耐えられなかったのか、両手で構えた剣では押さえきれず、片膝を地面に着けてしまう。


 が、


 「甘ぇ!!」


 「がはッ!!」


 剣なんて素人に等しい私の力任せの一撃は、それからすぐに受け流されて、下っ端騎士が私の腹部に蹴りを打ち込む。


 後方に蹴飛ばされた私は、それでも両足を踏ん張って立った。


 「はぁはぁ......」


 「ビスクスさん、一人逃しました」


 「......この子を片付けたらすぐに追うぞ」


 “片付ける”。その言葉が、私の頭の中で“死”という単語に置き換えられ、恐怖に蝕まれた。


 腕の出血も酷い。【回復魔法】で徐々に癒やしているけど、戦闘が再開するまで完治は無理だ。できて止血程度だろう。


 「ああ、くそ。せっかくスズキと再会できたのに......」


 私は悪態を吐きながら、深呼吸した。


 深く息を吸って、肺の中に溜め込んだ空気を全て吐き出す。それを数回繰り返している間に、眼前の騎士たちが攻めてきた。


 騎士たちのあの馬鹿みたいに硬い鎧と、近接戦が厄介だ。


 正直、鬼牙種の私でも、できるだけ近接戦は避けたい。至近距離で強い魔法を打ち込めば、なんとかダメージを与えられそうだけど、そもそも近づきたくもない。


 なら、もうこれしかない。


 第三さいごの切り札!!


 「本当はめっちゃ使いたくなかったけど、背に腹は代えられない!!」


 できれば死ぬまで使いたくなかったけど仕方ない。


 私は迫りくる騎士たちを他所に――唱える。


 「【固有錬成:異形投影】」

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