―Noisy Hands― 僕の両手は騒がしい

第２４８話 ［ルホス］ 騎士の殺し方？

　「【死屍魔法：封殺槍】！！」

　「うお？！」

　「ちぃ！　鬼牙種か！！　中々すばしっこい！！」

　私は今、帝国城地下にある広間にて、二人の騎士と戦っていた。

　鬼牙種たる所以の黒い角を額から生やして、全力で相手した。全力で相手しないと、マジでこっちが負けるからだ。

　「大人しくしなッ！」

　「っ？！」

　二人の騎士のうち、“下っ端”の方が私の移動速度に順応してきて、距離を詰めてきた。

　マジか。全身鎧のくせに、めっちゃ動くの速い。

　奴に捕まる、そう思った瞬間だ。

　「が、【岩石魔法：螺旋岩槍】！！」

　視界の端から私と騎士の間を通り抜けるように、螺旋状の岩の槍が飛んできた。

　「ぬお？！」

　「あぶな？！」

　私と下っ端騎士は反発する磁石のように、それぞれ後方へ飛び下がった。

　「え、えげつない攻撃魔法使うな、エルフの嬢ちゃん」

　「わ、我も一歩間違えたら当たるとこだった......」

　私と下っ端騎士が揃ってウズメを睨んだ。

　ウズメは半泣きで謝った。

　「すみませんすみません！　スズキさんが殺しちゃ駄目って言ってたので、お二人の間を狙いました！」

　お前にとってはスズキが全てなのか。

　あいつが殺せって言ったら殺すのか？　やべぇ奴じゃん。

　いやまぁ、我も散々人を殺してきたけど。盗賊とか色々。

　「おい、アロート。お前はそっちを抑えてろ。こっちのエルフの子は俺が無力化する」

　と、私が考え事をしていたら、上司騎士が下っ端騎士にそんな指示を出していた。

　ま、マズい。ウズメは私より弱いから、如何にも下っ端騎士より強そうなあいつに捕まったら、益々こちらが不利になる。

　「殺すんですかい？」

　「いいや。総隊長の命令通り、捕らえて終わりだ。無論、抵抗されるだろう。気をつけろよ。鬼牙種の魔族とエルフの子だ。油断したら、こっちがやられるぞ」

　「へいへい」

　そう言われ、二人の騎士が私とウズメの連携を断つような立ち回りを取り始めた。

　チッ。どうする。【棍牙】使えれば乗り切れると思うけど......。

　「おら、大人しくしときなッ！！」

　「っ？！」

　すると下っ端騎士が剣を片手に、私に斬り掛かってきた。

　私はそれを躱し、【雷槍】を撃ち込む。

　「はッ！　そんなんじゃこの鎧は傷つかねぇーぜ！！」

　が、全くダメージが入らなかった。

　あの鎧、魔法による攻撃の耐性が高い。

　さっきウズメが使った螺旋系の攻撃とか、魔力消費が激しいけど、殺傷能力のある攻撃ならいけるはずだが、相手の猛攻がその時間をくれない。

　妹者たちみたいに、パッパとできないのが辛い。

　「ああもう！　ならこれでどうだ！」

　「？」

　仕方ない。さっそく奥の手を使うか。

　私は下っ端騎士の剣を避けた際に、拳を強く握りしめた。

　相手はそれを見て身構えるが、たぶん今から繰り出す私の拳は大したことないのだと思っているのだろう。

　それもそのはず、膂力に長けた鬼牙種とは言え、あの上質な鎧を貫通させるような一撃は拳一発じゃ無理だ。鬼牙種の男性で大人だったら話は別だろうけど。

　「喰らえッ！」

　が、今の私はただのグーパンを撃ち込むんじゃない。

　「【固有錬成：力点昇華】ッ」

　「っ？！」

　スズキから借りたスキルがある！！

　発動条件は肉体の一部に力を込めること。そしてウズメがスキルを付与する際に、追加された発動条件......いや、制限だな。それは連続使用ができないことだ。

　私の拳は、騎士の男の腹部を捉え、直撃させることに成功した。

　きっと下っ端騎士は私が撃ち込んだ後の隙を狙って、わざと私の拳を受けたんだろうが、それが決め手となったな。

　下っ端騎士は遥か後方に吹っ飛んで、その鋼に覆われた全身を壁に打ち付けた。

　「こ、【固有錬成】持ちだと......」

　「ふ、ふははは！　我、最強！！」

　「す、スズキさんの力ですよ......」

　う、うるさい。

　「ちぃ！」

　すると、ウズメの近くに居た上司騎士が、ウズメを取り押さえて、手にしていた剣を彼女の首にピタリと当てた。

　「大人しくしろ！　さもなければ、この子を殺すぞ！」

　「ちょ！！　さっきと言ってたこと違うじゃん！」

　「そ、総隊長には“なるべく生かせ”と言われた。もう“なるべく”の域を超えている！！」

　「な？！　それでお前のキシドーは傷まないのか？！」

　「うッ。痛いところ突くな......。が！！　大切なのは、役目を果たすこと！　そこの女傭兵は渡さん！」

　な、なんて奴だ。卑怯者め。

　そっちがその気ならこっちだって！！

　「ウズメ！　短い間だったけど、世話になった！！」

　「ふぇ？！」

　「ちょ、君！　この子を見捨てる気か？！　仲間じゃないのか？！」

　「会って数日しか経ってないくらいの関係だ！　スズキも許してくれるはず！」

　「私が許しませんよ？！　助けてください！！」

　「ほ、ほら、エルフの子が泣いちゃうじゃないか」

　「し、知らん。大切なのは、目的を果たすことだ」

　上司騎士とウズメが、こいつマジかって顔で私のことを見てきた。

　な、なんだよ。上司騎士と同じこと言っただけだろ。ウズメはともかく、騎士がそんな目をするな。

　すると、ウズメが私の方を見て叫んだ。

　「る、ルホスさん！　後ろッ！！」

　ッ？！

　ウズメに言われ、振り返ろうした瞬間、後頭部を鈍器のようなもので殴られた感覚を覚えた。激しい痛みとともに、私は前へ勢いよく倒れ込む。頭がクラクラして動けない。

　視線を後ろに向けたら、ぶっ飛ばしたはずの下っ端騎士が居た。奴の両手は鞘に収めた剣がある。おそらくあれで私の頭を殴ったんだ。

　「ぐッ」

　「アロート？！　生きていたのか？！」

　「か、勝手に、殺さないで、はぁはぁ......ください、よ。肋骨は何本か逝ってますがね」

　私が起き上がろうとすると、下っ端騎士が踏む付けて来たので立つことができなかった。

　「がはッ！」

　「ルホスさんッ！」

　「悪いけど、このまま縛らせてもらう」

　や、ヤバい。このまま捕まったら、ここに来た意味が無くなる。

　そしたらスズキが......スズキをもっと苦しませてしまう！！

　「う、ウズメぇ！！」

　私がそう叫ぶと、ウズメは察してくれたのか、私を見てからぎゅっと目を瞑った。

　その時間、約三秒。

　ある【固有錬成】の発動条件が成立した瞬間だ。

　「我のスキルが一つだけだと思うな、よッ！！」

　「「？！」」

　騎士二人が私に注目するが遅い。

　私はウズメを対象に、【力点昇華】とは別の【固有錬成】を発動させた。

　それは――

　「【固有錬成：縮地失跡】ッ！！」

　あのトノサマミノタウロスのスキルだッ！！