第246話 レベッカ奪還

 「あ、居た。おっぱい大きい女」


 「お、大きい......」


 帝国城地下施設に辿り着いたルホスとウズメは、部屋の扉をそっと開けてその隙間から部屋の中を窺っていた。


 部屋の最奥に氷漬けされた一人の女性が居た。


 薄暗かったが、他には何もなかったので、それが氷の棺の中で眠るレベッカだとすぐに察せたのである。


 そして同時に、


 「騎士が二人......」


 「つ、強そうです......」


 そんなレベッカの前に並ぶようにして、二人の騎士が立っていた。


 どちらも屈強な騎士だとひと目でわかった。全身鎧姿で、その上からでもわかるほど鍛え抜かれた鋼の肉体。


 一方の騎士は姿勢正しく直立不動であり、もう一方の騎士は腕を組んで、苛立っているのか、足を地面にカチャカチャと繰り返し打ち付けていた。


 後者が口を開く。


 「はぁ。本当にオーディーさんが言った通り、こんな場所に誰か来るんですかね」


 「総隊長、もしくは団長と呼べ」


 「すいやせん」


 「......まぁ、気持ちはわからないでもない。戦争に参加せず、ここで来るかもわからない侵入者に備えろと総隊長から命令されたときは、正直、耳を疑った」


 二人の会話からして、立場的には姿勢を正している方が上司で、苛立った様子の騎士はその部下だろう。


 そんな二人の会話をルホスたちは部屋の前で聞いていた。


 「いつ死ぬかわからない戦争をしに行きたいわけじゃないんすけど、それでも他の奴らに置いてけぼりにされるのはなぁ......」


 「まぁ、総隊長も俺らを信用しているから、ここに配置したのだろう」


 「だと嬉しいですね。たしかに最近の帝国内部は欲に塗れた貴族たちがたくさん居ますが」


 「口を慎め。どこに耳があるかわからないぞ」


 「へいへーい。こんな場所、俺ら以外に居ないと思いますがね」


 という二人の騎士の会話を聞いていたルホスたちは、互いに視線を部屋の中に向けて警戒しながら、小さな声で会話した。


 「ど、どうしましょう」


 「う、うーん。スズキはできれば戦闘したとしても、相手は殺さないでとか言ってたけど......逆にこっちが危なくない?」


 「で、ですよね......」


 レベッカを回収する以前の話ではなかろうか。エルフと魔族の少女が部屋の前で悩んでいると、


 「で、ちなみにですけど、あそこのドアの隙間からこっち見てる連中は侵入者ってことでいいですかね?」


 「「っ?!」」


 軽い調子で騎士が言ったことに、ルホスたちは背筋に冷たいものが流れるのを感じた。


 覗き見していることが気づかれた。そんな焦燥感にも似た危機感が二人の少女を襲う。


 「だろうな」


 「ですよね。はぁ......ほら、中に入ってきなー」


 「「......。」」


 ルホスたちは観念して入室することにした。


 「っ?!」


 「え?!」


 そして次に驚いたのは騎士たちだった。


 二人の騎士が予想していた侵入者は、如何にも法を守ってないという盗賊や暗殺者のような輩だ。それがまさか自分よりも一回りも二回りも年若い少女たちと来た。


 ルホスたちは自分たちの存在には気づいたくせに、やけに驚いた様子の相手を疑問に思った。


 「な、なんだよ」


 「い、いや、その、なんだ、まさか子供が来ると思って無くてな。......侵入者で間違いないな?」


 「お、おい。なんて馬鹿な質問をする」


 「我を子供扱いするな。......侵入者かどうかはわからんが、そこのおっぱいデカい女を回収したい」


 「お、おっぱ?」


 二人の騎士は後ろに置いてある氷の棺の中で眠るレベッカを見やった。


 「「......。」」


 特にその胸を。


 自然と喉が鳴ってしまい、その情欲に塗れた音がルホスたちの耳に届く。


 「お、男の人って、本当に大きい胸が好きなんですね......妹者さんが言ってた通りです」


 「スズキも街を歩いていると、よく知らない女の胸ばっか見ていた」


 「ち、ちがッ」


 「はぁ。まぁいい。どっちにしろ侵入者だ。アロート、構えろ」


 今、この瞬間、地下施設にて少女たちと重騎士による戦闘が始まったのであった。

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