第245話 自信喪失のきっかけは?
「そんなに戦争がしたかったら、僕を倒してからしてください」
『ひゃっはー!』
『かもんです』
現在、城を屋根伝いに駆けるようにして、地上の広間へと飛んだ僕は、【紅焔魔法:
爆風が舞い上がり、派手な登場を決め込むことができたので、僕はホクホク顔である。
「一回やってみたかったんだよね」
『マジでかっけぇーよな! わかるわ〜』
『ほら、目の前の敵に集中してください』
て、敵って......。別に僕らは敵になりに来たわけじゃないんだから。あっちからしたら僕らは敵だけど。
「な、何者だッ!」
「敵襲! 敵襲!! 敵襲ぅぅううう!!」
と、派手に登場したからか、僕を囲むようにして、今まで綺麗に整列していた騎士たちが陣形を取った。
ここに飛び込む前、城から城門までの大道の脇を騎士たちが整列していたのは圧巻だったな....。如何にも、今から王様が通る道だぞ、と言わんばかりでわかりやすかった。
「あ、アレは......殿下の護衛?!」
「あのDランク冒険者の少年かッ!!」
「どういうことだ?! なんでそんな奴が......」
とざわつく周囲を他所に、僕はじっと前を見据えた。
僕の前に居るのは、皇帝さんとその護衛である<
「ナエドコ......そう来るか」
と、僕がこの道を塞ぐように立っていることに対して、ミルさんはどこか惜しむような顔つきを見せた。
「な、ナエドコさん、なんで......」
マリさんは戸惑っている様子。僕にとって命の恩人の彼女と、こうして相見えることになるとは。
「来ると思った」
二人の反応とは違って、シバさんはこの事態を予想していたと言わんばかりに納得顔である。
彼とは仕合を無理矢理申し込まれて以来の会話だ。
僕を何度か殺したくせに謝罪の一言も無い。良い機会だし、今日謝らせよ。謝っても許さんけど。
「そんなに死にたかったのか、冒険者風情が」
あ、ムムンさんだけ僕に敵意剥き出しだ。
最高。イケメンをボコれる来る日が来た。
そんなことを僕が考えていると、その<
「それは......ロトルの意志か?」
皇帝さんだ。
豪勢な鎧は明らかに周りに居る連中の比じゃない。それこそ、この国の重鎮たちどころか、<
そんな彼が静かに、それでいてはっきりと聞こえるような声で、僕に問いかけてきた。
皇女さんの意志......ね。あの日、皇女さんが僕を頼ってくれなくても、おそらく僕は今日、ここに立っていただろう。
なんたって僕は美少女の味方だから。
僕は【打炎鎚】をどさりと地面に置いて応じた。
「はい、リベンジです。パパさん」
「今すぐそやつを殺せ」
おおー、怖い怖い。
*****
「うお、始まったか?!」
「あわわわ!」
帝国城地下施設に繋がる廊下にて、ルホスとウズメは駆けていた。
頭上――地上から激しい轟音が聞こえてきたことで、作戦通り、鈴木が本隊の進攻を止めるべく、皇帝を襲撃したのだろう。
それを地下に居る少女たちが察したことで、より一層緊張感が増したのであった。
「結局、ギリギリで準備が整ったから、ろくに練習する暇も無かったぞ?!」
「すみませんすみません!」
「い、いや、我は別に責めている訳じゃ――」
「すみません! 役立たずですみません!」
「......。」
ルホスは隣を走るエルフをジト目で見つめながら、こいつ大丈夫か、と不安になってしまった。
ルホスの言う準備とは、ウズメの【固有錬成】の多用である。
実は今回の襲撃作戦とは別に、少女二人は鈴木から別のことを頼まれていた。
それは地下施設で、今も尚、氷の棺の中で眠るレベッカの回収である。
帝国軍前線部隊が進攻を始めるまでオーディーがレベッカを見張っていた。が、今となっては、軍を率いるオーディーが不在のため、レベッカを回収できる絶好の機会となった。
しかしそれも最悪の状況を考慮すると、簡単な話ではない。
ロトル曰く、オーディーのことだから、信頼できる騎士を自分の代わりに見張り役として置いているはず、とのこと。
故に今からレベッカを回収することは、その騎士との戦闘が避けられないことを意味する。その対応をルホスとウズメに任されたのだ。
ただ真正面から戦って勝てる見込みも立っていない。そのため、鈴木は事前準備として、ウズメの【固有錬成:依代神楽】を多用し、戦闘に使えそうなスキルをルホスにいくつか付与した。
というのも、今の皇女陣営の所有戦力として、最も高いのが鈴木、次点がルホスだからだ。そのスキルの付与を、本隊の進軍開始ギリギリまで行っていたのである。
おかげでウズメはへとへとに疲れていた。
「こ、これが終わったら......スズキさんに......いっぱい頭撫で撫でしてもらいますぅ」
「......。」
(こいつ、限界が来ると、思っていることを正直に言うタイプか)
ルホスはそんなことを思った。
魔族の少女は、エルフの少女に対して思わぬライバルの登場と危機感を抱いてしまったのである。
同時に、たしかに鈴木に頭を撫でられると嬉しくなる、という共感も抱いてしまった。
良き理解者を得たルホスであった。
女執事のバートから教えてもらった施設まで後少しで辿り着く――その時だった。
「あ!」
「っ?!」
ルホスが駆ける足を止めた。
それに対し、ウズメがビクリと身体を震わせる。
「ど、どうしましたか?」
「レベッカとかいう女の見た目の特徴を聞いてない!」
「あ」
ここで二人は痛恨のミスに気づいた。鈴木たちから、レベッカの容姿の特徴を聞いていなかったのだ。
ルホスが鈴木と別れたのは王都だ。当然、レベッカと会ったことなどない。一方のウズメも同じく、レベッカの顔を拝む機会は訪れなかった。
「「......。」」
今からレベッカの容姿を聞きに戻る、など論外。
が、そこでウズメが何か思い出したかのように声を上げた。
「そ、そういえば少し前、アーレスさんからレベッカさんとの思い出話を聞いたことがあります」
「え、アーレスと知り合いなの?!」
「は、はい。たしか............すごいムカつく奴だって」
「お前ほんっとつっかえねぇーな!!」
「すみませんすみません!!」
平謝りするエルフの少女をぶん殴ろうか迷う魔族の少女であった。
が、続けて、別のことを思い出したかのように、またもウズメがその特徴を口にする。
「あ、それと他には......すごく大きい......と聞きました」
「? 何が?」
「お、お胸が」
「お、おう......」
二人の少女は同時に、自身の胸部に両手を当てた。未発達な胸に触れ、若干の虚しさを覚える。
「わ、我らはまだ成長中だからな。な!」
「は、はい! そ、それに大きさだけが全てじゃない、と姉者さんが言ってました!」
二人は再び駆け出した。
以降、部屋に辿り着くまで会話は生まれなかった。
そして同時に二人は気づく。そもそも地下施設の広間に、氷漬けにされている女なんて、容姿がわからずともレベッカしか居ないということに。
戦闘前に精神的なダメージを意味も無く食らった少女たちであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます