第243話 帝国軍 VS Dランク冒険者

 「陛下、準備が整いました」


 「......。」


 「陛下?」


 ボロン帝国、謁見の間にて、玉座に居る者が居る。現皇帝バーダン・フェイル・ボロンだ。


 バーダンは軽装であるが、皇族用の鎧を頭部以外に纏っており、頬杖をついてこの空間を見渡していた。


 王国への宣戦布告は済んだ。あとは進軍し、国を滅ぼすのみ。既に帝国騎士団総隊長のオーディー率いる前線部隊は進軍を開始しており、明日には両国の中間地点に到達するだろう。


 バーダン率いる本隊はこれから進軍を開始する。おそらく王国は防衛戦を強いられるだろうが、そこでようやく戦争が始まるのだ。


 始まればもう後戻りはできない。戦いは長期化され、激戦がこれから繰り広げられるのは目に見えていた。


 「なんでもない。少し考え事をしていただけだ」


 そういうと、バーダンは玉座から立った。この場にはバーダンの他に皇族直属護衛の<四法騎士フォーナイツ>が全員揃っている。


 そのうち、薄緑色を基調とした鎧を纏うムムンが、今から戦場に赴く準備が整ったことを主であるバーダンに伝えたのだが、どこか浮かない顔をする主を心配していた。


 そんな従者を他所に、バーダンは溜息を吐く。


 「ロトルは......やはり顔を見せてはくれないか」


 「「「「......。」」」」


 漏らした言葉は皇帝が普段見せる威厳に溢れたものではない。一人の父親として、これから戦地へ向かう前に、せめてもう一度だけ我が子の顔を見たかった。そんな哀愁が今のバーダンから感じ取れていたのである。


 (今更、何を父親面するか。ここまで自分が腐っているとはな)


 しかしそれも束の間。次の瞬間には目つきを鋭くしたバーダンが<四法騎士フォーナイツ>に声をかけた。


 「行くぞ」


 「「「「は」」」」


 低く呟くようにして口にした言葉に、<四法騎士フォーナイツ>全員が姿勢を正す。


 バーダンは<四法騎士フォーナイツ>を連れて、城門へと向かった。そこから国外まで、皇族として戦場へ続く道のりを進む。


 無論、<四法騎士フォーナイツ>の面々だけではなく、帝国軍を率いてだ。


 城内から外へ出る道すがら、ミルが主君に声を掛けた。


 「陛下、今は会えずとも、またこの国に戻ってきたときに、殿下とお会いになれるでしょう」


 <巨岩の化身>の二つ名を持つミル。


 その体躯は歴戦の騎士を思わせるほど筋骨隆々としていた。背には男の背丈を超える大剣が携えており、その使い古された武器は、戦場の相棒を思わせる代物である。


 続けて、ミルに並列して歩く年若い女騎士が口を開いた。


 「そうそう。マリも戦争で死ぬなんて御免です〜。絶対に生きて帰るんですから」


 <陽炎の化身>の二つ名を持つマリ。


 <四法騎士フォーナイツ>の中で唯一の女性騎士であり、妙齢さから醸し出す美貌は、見る者を魅了する力が宿っていた。


 そんなマリと比べてやや年が下の者が、同意と言わんばかりに短く相槌を打った。


 「勝つ」


 <暴風の化身>の二つ名を持つシバ。


 見た目こそマリよりやや幼く、また少女のように愛らしく見えるが、歴とした男性である。とてもではないが、年齢、体格からしても騎士には見えない。


 それでもこの国屈指の騎士であり、<四法騎士フォーナイツ>にのみ装着を許された鎧を身に纏っていた。


 「我々は全身全霊で陛下のお望みを叶えてみせます」


 <大地の化身>の二つ名を持つムムン。


 時として執事服を纏い、主に四六時中使える従者であるが、それ以前に絶対の安全を保障する騎士である。男は<四法騎士フォーナイツ>のまとめ役でもあった。


 <四法騎士フォーナイツ>は誓う。


 今この時より、戦争が終わるまで、主を守り抜くと。帝国を勝利に導くと。そして我々にはそれらを成す“力”があり、惜しみなく行使すると。


 長く、そして厳しい戦争がこれから始まる――


 「「「っ?!」」」


 「陛下ッ!!」


 ――はずだった。


 <四法騎士フォーナイツ>は主君を護るべく、即座に四方を囲むようにして陣形を取った。


 バーダンと<四法騎士フォーナイツ>が外に出て、その場に整列する数多くの騎士が作る道を歩んでいた道中の出来事だ。


 上空から襲撃があった。


 否、何かが落ちてきたのだ。


 バーダンと<四法騎士フォーナイツ>の眼前に。


 ソレが地面に直撃したと同時に爆発が起き、辺りを土埃で染め上げる。その中から姿を現したのは――


 「そんなに戦争がしたかったら、僕を倒してからしてください」


 『ひゃっはー!』


 『かもんです』


 Dランク冒険者の少年であった。

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