第240話 思わぬ味方の参上?
「で、どうしてここに来たの? というか、どうやって来たの?」
現在、護衛対象の皇女さんを他所に、僕はルホスちゃんに色々と問い質すべく、彼女を連れてバルコニーにある椅子に腰を掛けていた。
ルホスちゃんは空いている席がもう一つあるというのに、なぜか僕の膝の上に座って帝国の夜景を眺めている。
久しぶりに再会できたことで僕に甘えたいのだろうか。随分と長い間、寂しい思いをさせたからなぁ。
なので、自分の定位置と言わんばかり座ってきた彼女に対し、僕は大人しく座られた次第である。彼女の額には、先程まであった黒光りする角が無くなっていた。どうやら引っ込めたようだ。
ちなみに皇女さんはルホスちゃんの急な登場に関して何も言わなかった。
自室の窓から知らない女の子がやってきたというのにね。
僕の知り合いとわかった途端、対応を全て僕に任せて、また不貞寝に入った皇女さんである。とりあえず、そっとしておこう。今はルホスちゃんのことで手一杯だ。
この子、王都に居たはずなのに、なんでここに居るんだろ。
「スズキ、我を放置して別の女と生活してたな」
酷い言われ様。事実はそうだとしても、もうちょっと言い方ってものがあるでしょ。
「し、質問に答えてよ」
『かかッ。元気そうで良かったじゃねぇーか』
『ええ。心配で心配で夜も眠れませんでしたよ』
「姉者ってこんな嘘つきだったっけ?」
禿同。まぁ、この人も冗談好きだからなぁ。
ちなみにルホスちゃんに対して、魔族姉妹は例の魔法を使って自分たちの声を聞こえないようにはしていない。
ルホスちゃんのこれまでの境遇に同情したのか、寂しい思いをさせまいと以前から正体を晒しているのだ。声を隠す必要も無い。
「で、どうやってここに?」
「ある人に【転移魔法】で送ってもらった」
「ある人?」
そう聞き返す僕の脳裏に過ったのは、【転移魔法】でお馴染みの<
一応、この子は闇組織に捕まっていた元奴隷だから、無関係という訳じゃない。
が、僕のその考えはルホスちゃんの返答によって否定される。
「ん。スズキが王都に帰ってこない間、ずっと世話になった奴だ。なんか本人から正体を教えないでほしいと言われたから黙っとくことにした」
「は、はぁ」
『大丈夫かよ、それ。怪しい奴だったらヤバイだろ』
『まぁ、今日まで無事みたいでしたし、悪いことはされていないのでしょう』
「で、そいつが急にこの国まで我を連れて転移した。地上からじゃ侵入できないからって、空から落とされて、偶然ここに辿り着いた」
悪いことされていないんだよね。落下死させられそうになってない?
しかしそうか、なるほど。確かに警備兵がうろつく敷地と、魔法探知の結界で覆われたこの城を、魔法無しで真正面から侵入することは難しいよね。
だからって上空から落とされるだなんて。
並の人間なら身体能力を強化して着地する術があるらしいが、魔力を使った時点で感知されるだろう。
が、彼女は鬼牙種という魔力無しでも常人離れした膂力の持ち主だ。
それでもよく無事にこの場にやってこれたなと思う。
「しがみ付いた場所がスズキの居る部屋で良かった」
「そ、そう。無事でよかったよ」
『しかしまたこのタイミングで来るとは......』
『な。これ、絶対このガキンチョも巻き込む羽目になるだろ』
「我を子ども扱いするな」
と、以前のようなやり取りをする僕らは、王都で別れた後のことを話し合った。
ルホスちゃんは王都で色々と頑張ったらしい。人造魔族に襲われたとか、教会が面倒みている孤児院の子たちに食料を調達したとか。
この子もこの子で大変だったみたいだ。
が、話している間の彼女が楽しそうに語っているので、しばらく聞くことに徹していた。
本当はこんな悠長に過ごしている場合じゃないんだけど、現状ではどうすることもできないと半ば諦めかけている自分が居るのであった。
そんな時間を過ごしていると、皇女さんの部屋の扉がノックされ、中に入ってくる者が現れた。
「殿下、只今戻りました」
「し、失礼します......」
バートさんとエルフっ子である。
二人は僕の隣に居るルホスちゃんの存在に気づいて驚いていた。
バートさんに至っては、懐に忍ばせている短剣を手にしていたが、見知らぬ少女がこの場に居たとは言え、僕が黙認していることからある程度の許容ができるみたいだ。
信頼と受け取っていいのかな。
皇女さん含め、三人にルホスちゃんのことを紹介すると、全然理解が追い付いていない様子だったけど、彼女の面倒は僕に任されたことで話は納まった。
ルホスちゃんは不法侵入者に変わりないけど、特例として、後でバートさんが滞在許可の手続きを裏でやってくれるとのこと。ありがたいことこの上ない。
一方、今の皇女さんはルホスちゃんの存在など、どうでもいいといった様子で、再びベッドで横になってしまった。
しばらくこの調子が続きそうである。
「......。」
「な、なんですか?」
すると、どういう訳か、ルホスちゃんがウズメちゃんをジト目で見つめていた。その視線に気づいたエルフっ子がびくびくと怖がっている。
「こいつ、スズキを見ているとき、オーラが薄っすらと桃色になってる」
「桃色?」
『ああー。ガキンチョの【固有錬成】って、他人の感情をオーラで可視化できんだっけ』
ああ、そういえばルホスちゃんの【固有錬成】はそんな内容だった。
たしか青色が“悲しい”気持ちを表していたり、赤色だと嘘を吐いているなど思惑までわかっちゃうスキルだ。
『桃色って何を示すんですか?』
「色の濃さによって違うけど、“愛想”とか“発情”とか」
「『“発情”?!』」
「っ?!」
ルホスちゃんの聞き捨てならない言葉に、僕と妹者さんが素っ頓狂な声を上げてしまった。
すぐさまエルフっ子を見やると、彼女は急速に赤面して言って、「ちちちち違います!」と否定してきた。が、ルホスちゃんの次の言葉によって、彼女の抱く感情にある種の示しがつく。
「“発情”とは限らん。色の濃さによって変わると言っただろ。例えば親子が互いに向ける感情も、我には同じく桃色に見えるのだ」
「な、なるほど」
『まぁ、苗床さんは空いた時間、よく彼女の話相手になっているので、懐かれているのでしょう』
『はぁー。んだよ、ビビらせやがって』
ビビってたの? そりゃあ驚いたけど。
色々と寂しい時間を長く過ごしたエルフっ子だ。僕に笑顔を見せる回数も増えてきたし、彼女にとっては兄的な存在なのかもしれない。
「......。」
「うぅ」
だからルホスちゃん、そんな見つめちゃ駄目だよ。初対面なのにさ。何を警戒して、エルフっ子を見つめているのかわからない僕であった。
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